第12話 装備がチートでも俺のステータスが低いから苦戦した。でも味方が強すぎたおかげで結果ヌルゲーでした
村の女達の様子が変わった。
持ち上げた武器が力なく降ろされる。
様子を見て、男達が不審がった。
「俺に選ばれたくは近くの男を殺す事なく倒してみせろ!」
静寂。
次の瞬間、女達が声を上げた。
それから村の女達は近くにいる男に襲い掛かった。
次にカクさんはハナさん声を掛けていた。
「あの娘の拘束を解け」
ハナさん。
悪いね。
あんたの恋は叶わない。
そして俺達はその気持ちを利用させてもらう。
悪く思わないでよ。
「そんなの、無理に」
ふらつくのか、ゆらゆらと揺れながら頭に手をやるハナさん。
声を聴いているという認識がない者や強い意志を持つ者にはカクさんの呪いの効き目は小さいようで、ハナさんはカクさんの甘い誘惑に抗っていた。
「拘束を解くんだ」
それでも二言目には完全に堕ちてしまったようで、顔から手を離し、とろんとした表情を浮かべてカクさんを見つめていた。
「早くしろ」
命令に頷くと、ハナさんはすぐに行動を起こした。
壇の上まで一直線に駆け上がるとスローンに襲い掛かったのだ。
状況が掴めていないスローンは味方であったはずのハナさんに攻撃され、咄嗟にマホちゃんを手放して防御に回った。
その隙にカクさんがマホちゃんを受け止める。
一瞬でこの距離を詰めるんだから、本当に化け物みたいな身体能力だ。
ハナさんやカクさんみたいに常人離れをした動きが出来ない俺はゆっくりと壇に近づく。
目的の人物を見つけると、ふてぶてしくゆっくりと近づいていやる。
「な、何をした」
ゴンベエは余裕の表情を崩さない努力をしながら言った。
眉が引き攣っている。
狼狽してるのが丸分かりだって。
「別に何もしてないさ。ただカクさんってば男前だからさ、村の女が放っておかなかったんだろ」
「そんなはずは…。村の人間は皆スローンに教育されている、騎士団仕込みの戦士だ。そんな事、そんな事あり得ない!」
「おい、素が出てるぜ?」
そう言ってやるとゴンベエはもう取り繕う気もないのかあからさまに嫌そうな顔をした。
それにしてもスローンってば元騎士だったの?
そりゃあカクさんが気配に気付かないなんて事もあるかもしれない。
「後はマホちゃんが起きれば万々歳だな。さて、これまで世話になっていて悪いんだけど、あんたにはここでやられてもらう」
一歩、踏み出す。
相手は丸腰。
勝敗は決したも同然だ。
鞘から剣を抜く。
また一歩、距離を詰める。
間合いに入った。
振りかぶる。
切り掛かる。
しかし。手に伝わったのは金属的な感触だった。
俺の剣をスローンの剣が受けていた。
スローンが押し返してくる。
数歩、後退。
「ゴンベエ。落ち着け。俺達がこの三人を倒せばまだ何とかなる。村人だって正気に戻るだろう。だからお前はあれをやれ」
「良いのか。折角…」
「早くしろ」
スローンの言葉を受けると、持っている杖を高く掲げてから村長が逃げ出した。
剣を構えながらゴンベエの行方を見る。
その視線の先にハナさんが倒れていた。
「おいおい。殺したのかよ。実の娘だろ」
「いいや。実の娘でもなければ殺してもいない」
「あっそ。それで、俺達に勝つ気?」
「勝つともさ。そこの娘はゴンベエの魔法で眠っている。だから俺はお前とそこの大男を倒せば良い。腐っても騎士だ。流れの者に負けるほど落ちぶれてはいない」
その言葉と共にスローンが向かってきた。
迎え撃つ。
相手は歴戦の戦士。
それもかなりの手練れだ。
ウォーウルフなんかとは比較にならない程強かった。
剣の一振りが早く、そして重い。
胸当てが頑丈さを上げる。
靴が俊敏さを上げる。
額当てが動体視力を上げる。
そんなアシストがあって初めてまともに戦えている状況だ。
神の装備がなければとっくに死んでいる。
そのレベルの攻撃だった。
素人プラス神の装備。
これで得られる力しか持っていない俺ではスローンには勝てない。
早々に悟った。
出来るなら逃げ出したいがそれは出来なかった。
その隙を与えてくれなかった。
スローンの攻撃は激しさを増し、防戦一方に追いやられる。
後退。
スライド。
下がり過ぎるな。
壇から落ちるぞ。
スローンの攻撃を受ける。
受け続ける。
時折、大振りの攻撃が飛んできた。
ヒヤリとしながらもそれを捌く。
そして反撃。
簡単にあしらわれた。
再び猛攻。
自分の立ち位置を僅かに変えながら耐えるのが精一杯だった。
そしてそのジリ貧の戦いも少しずつ戦況が変化する。
ヤバい。
疲れた。
いくら優れた装備を身に纏おうとも基礎体力だけはどうにもならない。
足が鈍る。
腕が重い。
握力がなくなる。
そしてその時がやって来た。
スローンの猛攻に耐えられず、俺の手から剣が零れ落ちた。
「終わりだ!」
スローンが叫んだ。
ここだ。
「ダイエット!」
俺も負けずに叫んだ。
スローンの動きに異変が生じた。
剣の重みに負けたかのように振り上げた腕がスローンの意思とは無関係に後方へ大きく持って行かれた。
ダイエット。
文字通り、相手の重量を減らす魔法。
スローンは急激な体重の減少に身体が追い付かず、剣を振れなくなったのだ。
「カクさん! 交代!」
そして少しずつ自分の立ち位置を変えたおかげで今や真後ろで女の攻撃を受けていない村の男と戦闘を続けていたカクさんに戦闘の交代を要求する。
カクさんが俺の前に躍り出た。
「スローン! 体重を返してやるよ。リバウンド!」
今度は重量を増加させる魔法を唱えた。
ダイエット。
リバウンド。
二つで一つの重量制御魔法だ。
俺との戦闘とは一転して、今度は急激な体重の増加で思うように身体を動かせなくなったスローンがカクさんの攻撃を何とか受けるという構図になった。
スローンは言っていた。
マホちゃんは村長の魔法で眠っていると。
だったら俺が取るべき手段は一つだ。
カクさんに攻撃を仕掛けてこようとした村人の攻撃を防御も反撃もせずにかわし続けながら移動する。
村の女たちは味方を攻撃し、村の男はこれに応戦している。
女衆が我を失っている分、優勢だった。
余った男衆がこっちに攻撃を集中させていたが、やがて我を失った女衆が俺を攻撃しようとする男に殺到した。
チャンスだ。
周囲の戦闘で起こる攻撃を避けつつ、マントを取り外しながらマホちゃんの元へ駆け寄る。
「マホちゃーん。朝ですよー」
布団を掛けるようにマントを掛けてやった。
あらゆる魔法を防ぎ、効果を打ち消すこのマントを被せれば目を覚ますはずだ。
「ん…」
流石は神の装備。
効果は抜群だ。
「もっとスライム食べなくちゃ!」
そんな一言と共にマホちゃんが目を覚ました。
「あ、勇者。おはよう。朝ご飯は? スライムまだある?」
自分が置かれている状況に無頓着すぎる。
「いや、うん。そうだね」
「あれ? 何ここ。外?」
「外だね」
「どうして外にいるの?」
ああ。
状況の説明するの面倒臭いな。
「簡単に言うとだね、マホちゃんは魔法で眠らされて、どこかに売りに出される寸前だったのを俺とカクさんが助け出したって訳さ」
俺の言葉を聞いたマホちゃんは数秒俺をじっと見つめ、それから驚きの表情が顔いっぱいに広がった。
「ああっ! 思い出した! そうよ、隕石を見に行って貴方が隕石の中にいた男を運び出そうとした時に意識がなくなったの! え、何? もしかしてスライム食べ放題って夢?」
マホちゃんはくそぅと悔しそうに歯噛みした。
悔しがるポイントはそこか。
迂闊に魔法に掛かった事が悔しんじゃないのか。
この子、本当に魔法使いなのか。
「スライムなら旅が終わるまでに飽きるほど食べられるよ。それよりも俺達はこの場をどうにかして、さっさと旅をはじめなくちゃいけない。いつまでもこんな村にいる訳にはいかないし」
「そうはさせない! その娘とその装備を頂くまではこの村にいてもらう!」
どこからかそんな声が聞こえてきた。
声のした方を見ると村長が大量のウォーウルフを連れて現れた。
「このウォーウルフの群れに掛かればイチコロだ!」
ゴンベエは杖を掲げて勢いよく地面に振り下ろすとウォーウルフが陣形を作った。
魔法で獣に指令を出して操る魔法のようだった。
「マホちゃん」
「何よ」
「スライムよりも美味い肉がすぐに食べられるって言ったらどうする?」
「食べる!」
元気の良い返事でなにより。
「あの犬っころ。ウォーウルフっていうんだけど、滅茶苦茶美味かったぜ。今ならなんと、あの群れを全部焼いて食べても怒られません。しかも、マホちゃんを眠らせていかがわしい事をしようとしたのはあそこの爺です」
「うっそ! やる! やるやる! …え? いかがわしい? …いや、それよりも肉!」
色気より食い気か。
らしいな。
「にっく、にっく、お肉!」
マホちゃんの目が輝き出す。
立ち上がり、呪文を唱える。
「彼方より此方へ! シロ! クロ!」
魔法陣の展開と共に猫が二匹現れた。
「あの者どもをどうにかしなさい!」
ゴンベエがウォーウルフに指示を出すのと猫が現れたのが同時だった。
マホちゃんが魔法を発動させるのが先か。
あるいはウォーウルフがマホちゃんに食らいつくのが先か。
おそらく後者だろう。
それは困る。
ならばウォーウルフの牙を抜いてやるしかあるまい。
「アゴハズレ!」
ウォーウルフの顎が一斉に外れた。
これであれはただの愛玩犬だ。
処理はマホちゃんに任せよう。
つーか群れのウォーウルフの顎が揃って外れるのってシュールだな。
「ナイス勇者! あれが焼けたらシロもクロも食べて良いからね」
マホちゃんの言葉に二匹の猫がにゃーんと答えた。
「来たれ火の軍勢。敵に相対せ。敗亡は許されぬ。死しても敵を討て。勝者は栄光の炎を焚け!」
呪文の詠唱が終わるとウォーウルフを包むように火柱が立ち上がり、一瞬にしてウォーウルフの丸焼きが出来上がった。
「ねえ。本当に食べても良いの?」
「え。あ。ああ。」
マホちゃんはゴンベエの事などまるで目もくれずに近くにあったウォーウルフの丸焼きに近づく。
焼き加減が絶妙なのか、表面の毛皮だけは黒焦げだが、一皮むくと、綺麗に火が通った肉が姿を現す。
マホちゃんはそれに齧り付き、歓声を上げた。
「何これ! 塩も振ってないのにこんなに美味しいの! 勇者! 本当に全部食べても良いの! 勇者の分はいらないの?」
「いや、いいよ。全部食べて良いよ…」
むきゃーと歓声を上げてウォーウルフを貪るマホちゃんを尻目にゴンベエが白目を剥いて気絶していた。
いや。
うん。
手塩にかけて育てたんだもんな。
一撃でやられちゃ堪んないよな。
しかもそれを目の前で食べられたら気絶もするよ。
「ご愁傷さん」
合掌。
「さてと」
振り返る。
村人達はいまだに同士討ちを続けている。
もう俺たちに構っている余裕はないようだ。
次にカクさんの方を見る。
身体が重く、思うように動けないでいるスローン。
いつの間に武器が剣から包丁に代わっている。
よく見ると、複数あったはずの包丁がいくつかあらぬ方向に落ちていた。
対するカクさんは野獣のように獰猛で俊敏な動きでスローンを圧倒している。
勝敗は明らかだったが、スローンは諦めずに戦っている。
機竜とやらの力を使っていない所を見るとカクさんにはスローンを殺す気はないらしい。
カクさんは包丁を振り回す相手に徒手空拳で闘っている。
マホちゃんも俺以上に場数を踏んでいる様子だ。
自分よりも幼い少女に劣っているなんて男としては恥ずかしいが、仕方がない。
元いた世界が違い過ぎるのだ。
諦めよう。
俺はあれだ。
監督的ポジションに就いて二人に指示を出す役をやろう。
安全だし、一番おいしい。
それで行こう。
そんな事を考えている内に、カクさんがスローンの包丁を吹き飛ばした。
あっと思ったのも束の間。
思わず包丁を目で追ったスローンの顔目掛けてカクさんが拳を振るった。
スローンが崩れ落ちる。
勝敗が決した瞬間だった。
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