第5話 魔法少女は泣きじゃくる
森へ入ると視界が悪くなる。
葉が日光を遮り、靄が見通しを悪くする。
おまけに湿度も高く、あまり長居したい場所ではない。
「樹海なんかはこんな感じなのかね…」
独り言を口にしながら森の中を歩く。
木々は太く、高い。
倒木はコケが生えて新たな命の息吹を感じる。
荒らされていると言われたが、その痕跡はどこにも見当たらない。
「場所、間違えたか?」
目印の大岩がある所から森に入っているのだから場所を間違えるはずもない。
その後しばらく探索を続けてみたものの、森が荒らされている痕跡を見つける事は出来なかった。
徒労とも思えるような事をしていると次第に腹が立ってくる。
それでも仕事と思って探索を続けると、やがて開けた場所に出た。
腰を掛けるのに丁度良い倒木がある。
休憩でもしてくださいと言わんばかりの場所だったので、素直に休憩を取る事にする。
倒木に腰掛ける。
「あー。疲れた」
面倒臭い上に徒労ときたのだからやってられない。
少しだらだらしてから帰ろう。
何の問題もありませんでした。
それで良いじゃないか。
「お、リスじゃん」
休憩していると、目の前にリスが現れた。
自分が知っているリスよりもサイズが幾分も大きかったが、その可愛いさが変わる事はない。
見ているだけで和む。
「ちちちち…」
目線を下げて、人差し指をちろちろと小刻みに動かす。
来ないと分かっていてもこれをやってしまうのは、あのもふもふに顔を埋めたいからに他ならない。
「ん?」
何か違和感。
やたらこっちを凝視している。
リスって小刻みに震えながら辺りをきょろきょろと忙しなく見渡すイメージがあるのに。
それともこっちのリスはそういうものなのだろうか。
じっと見つめ合っていると、やがてリスは素早く走り去って行った。
「行っちゃった」
溜息。
そのついでに空を仰ぐ。
空は見えない。
見えるのは何本もの木々。
「何であんな事を言い出したんだろう」
神聖な場所が荒らされている。
何でも欲しい物をくれてやるから原因を見つけて解決してこい。
しかし実際に現地まで来てみれば荒らされた形跡はどこもない。
考えられる理由は何だ。
…。
可能性は三つか。
一つは俺が探索するべき場所を間違えているという可能性。
だが教えられた目印通りに進んできている以上、この可能性は低いだろう。
二つ目に俺をここに連れてきたかったから。
ならばなぜ森が荒らされているなんて嘘を吐いてまでここに寄越したのかが分からない。
ここに連れてきたかったと言えばそれで済むはず。
最後の可能性はその他。
これはいくら考えても仕方が無い。
そもそも荒らされているのであれば、その痕跡を辿って何が森を荒らしているのか分かりそうなものだけれど。
何だろう。
きな臭いな。
「まあ、いっか」
考えるだけ無駄というもの。
森に連れ出して秘密裏に俺を始末するという事ではないのは確かだ。
もしそうなら今頃チャンバラしてる。
休憩はもう十分だ。
とりあえず帰還しよう。
報酬を受け取って、旅の支度を整えて、それからさっさと村を出よう。
「もうお帰り?」
どこからか、そんな声が聞こえてきた。
声の出所が掴めない。
敵意はある。
殺意はない。
殺意があるなら、そもそも声なんか掛けない。
じゃあ無視だ。
来た道を引き返す。
「あ、やっべ」
そう言えば無暗やたらに森を探索していたから行くべき方向が分からない。
無事に森を出られるだろうか。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
木に何か目印でも付けておけば良かった。
人間を襲う獣もいないみたいだし、テキトーに歩いても何とかなるか。
万が一、人を襲うような獣が来ても今の俺には撃退できるだけの力がある。
その時は経験値稼ぎだと思って割り切ろう。
「だから待ちなさいって」
袖を引かれた。
「おっと」
振り返ると小柄な少女が顔を真っ赤にしてこちらを見上げていた。
何とも虐めたくなる顔だった。
「出てきたか」
「うるさい! あんた、何者よ」
「人に名を名乗る時は自分から名乗るべきだ」
「下賤の者に名乗る名など持ち合わせていないわ」
「あっそ。それじゃあこれで」
袖を強引に振り払い、歩き出す。
「ああ! 待って!」
振り返ると、怒っているのと怯えているのが半々ずつ宿った瞳が見えた。
やばい。
これは癖になる。
虐めていてこんなに気持ちの良くなる相手はそういない。
「名前を、教えてあげても良いわ」
「別に俺は知りたくないから。じゃあ」
「マリベル!」
ついには涙が眼尻に溜ってきた。
ああ。
良いぞ。
悔し涙を零しながら、それでも毅然と振る舞おうとする姿は大好物だ。
「マリベル=ホリゾン! 国立魔法学院の生徒よ。名を名乗りなさい」
スカートをぎゅっと握りながら絞り出すような声色で言われるともう何も言えない。
最高です。
「嫌だよ。怪しい奴に名乗る名前なんか持ち合わせていない。用はそれだけ? 新手のナンパなら余所でやってくれよ」
もっと無様な姿を見せてくれ。
「何よ…」
お?
泣きわめくパターン?
それも好物だ。
「私がこんなに頼んでるのよ! 魔法使いにお願いされたなら、平民はこうべを垂れて従いなさい! もう良いわ! 死刑よ! 死刑!」
逆ギレか。
ちょっと違うな。
減点一〇点。
「彼方より此方へ! シロ! クロ!」
マリベルと名乗る少女が呪文を唱えると、光の円が二つ現れた。
円の中に複雑な模様を現れ始めた。
その模様をどこかで見た事がある気がしたが、それはおそらく漫画の中だ。
描かれる模様が形作るのは魔法陣だ。
あっという間に魔法陣が完成すると、そこから猫が二匹出てきた。
成猫と言うには少し小さい。
それが二匹、魔法陣を潜って現れた。
「シロ! 威嚇!」
シロと呼ばれた白猫が駆け出す。
跳躍した。
目的地は俺の顔のようだ。
爪がしっかりと出ている。
なるほど。
引っ掻きか。
攻撃方法は分かった。
だからと言ってそれを避けられるかどうかはまた別の話で、唐突に猫に飛び掛かられてすぐに反応など出来るはずもない。
結果、俺は自分の顔で白猫を受け止める事になった。
「痛ってぇぇぇぇぇぇ! 痛い痛い痛い!」
白猫が自慢の爪を使って俺の顔に張り付いている。
爪が顔にしっかり食い込んで、引き剥がそうとする度に鋭い痛みが走る。
「クロ!」
その隙に少女が黒猫に号令を掛けた。
視界は猫の体毛で覆われて、少女が何をしようとしているのか分からない。
くそっ。
こんなもふもふ。
普段ならずっと顔を埋めていたいと思うのに。
「行くわよ」
何?
何が始まるの?
「咎人を新たな実りとせよ!」
呪文を唱えている!
あれだろ。
魔法だろう。
ヤバいって。
「!」
背筋が凍りついた。
手足を何かが這いずり回っている。
振り払おうにもその何かが四肢に絡みついて、少しずつ自由を奪っていく。
ずるずると。
その何かが全身を這いずり回る頃には身動きが取れなくなっていた。
「シロ。もう良いわ」
全身が浮遊する感覚と視界が開けるのが同時だった。
「うわ」
触手プレイかよ。
違う。
根だ。
そこら辺に生えている木の根が全身に纏わりついていた。
首に冷やりとした物が巻きつく。
「魔法使いに楯突いたのよ。首吊りがお似合いね」
死刑って絞首刑ですか。
ピンチ?
いやいやいや。
え?
俺、死ぬの?
ここで?
触手に犯されて死ぬの?
あ、そうだ。
変身すれば良いじゃん。
「へぇぇんしぃん」
声が震えていた。
情けないなぁ。
ここは不敵な笑みを見せながら力を見せる場面だろうに。
身体が重くなる。
装備が展開された証拠だ。
ともあれ変身さえしてしまえばこっちのものだ。
全身に巻き付いていた根がするすると身体から離れていく。
重力に従い、落下する。
足に確かな感触を感じる事がこれほどまでに安心感を得られるものだとは思わなかった。
「な…」
少女が唖然とした表情でこっちを見ていた。
そりゃあ唖然ともするだろうさ。
神が造った装備なんだぜ。
胸当てはあらゆる攻撃を防ぎ、その衝撃を通さない。
マントはあらゆる魔法を防ぎ、その効果を打ち消す。
チートもここに極まれりだ。
「何よそのダサい装備は!」
「うるさいよ!」
好きでこんなダサい装備をしているんじゃないんだから勘弁してくれ。
「あり得ない…そんなダサい装備で私の魔法を防ぐなんて認めない!」
「いや、これは…」
「平民が私にここまで歯向かうなんて許されないわ」
「ちょっと、話を」
「うるさい!」
まともに会話できる状態ではなかった。
「初めに火があった」
少女が再び呪文を唱えると、今度は小さな火の玉が生まれた。
サイズは手の平サイズだ。
どうしよう。
とりあえず戦うか?
「周囲を喰らい、やがて眷属を産んだ」
火の玉の数が増えた。
魔法は防げるから良いけど、あの子を落ち着かせないと話も出来ない。
「秘めし意志を糧に眷属は力を蓄えた」
火の玉の熱量と体積が増えた。
見るだけで相当温度が高い事が分かる。
何か白っぽいもんな。
もらったら熱いじゃ済まないよな。
「侵攻と共に繁栄を掴み、眷属もその数を増やした」
「ファッ!」
火の玉の数が一気に増えた。
これから千本ノックでもするのかと思わせる数だ。
これ、マントでどうにかなるの?
「敵を殲滅し、世に残る敵は悪辣の王ただ一人」
火の玉は辺りの木々を燃やし、その熱量を更に増やしていく。
周囲には大地しか残っていない。
さっきまで鬱蒼と樹木が茂っていたのが嘘のようだ。
熱を感じる。
火傷しそうなくらいだ。
この装備、熱は防げるのか?
「終戦は近い」
少女が手を挙げた。
さながら合図を送る直前のようだ。
「今こそ我らが栄光を手にする時! 王の首を取れ!」
うん。
あれだ。
逃げよう。
成り行きを見守ってる暇があったら行動しておくべきだった。
俺がその場から逃げ出すのと火の玉が襲い掛かってくるのが同時だった。
後ろを振り返りたくなる衝動を堪え、全力で走る。
火の玉が数十個、並走している。
恐らく後ろにも同数の火の玉があるのだろう。
頭上に熱を感じた。
見上げると瞬く間に火の玉の一団が俺を追い越し、前方へ回り込んだ。
立ち止まる。
囲まれた。
「いやいや。ちょっと待って。話し合おうよ。これじゃ君が森を荒らした犯人になっちゃうよ」
荒らすとかどうとかのレベルで済む話ではない事くらい分かっていたが、それでも言わずにはいられなかった。
ただの時間稼ぎである。
蒸し風呂にでも入っているかのような気分だ。
どうしよう。
「平民が魔法使いに楯突くのが悪いのよ。今度は火刑ね」
「もうただの焼却だっつーの」
馬鹿か。
減らず口を叩く暇があったらどうするべきか考えろよ。
「跡形もなく消えなさい!」
全ての火の玉が俺に向かって収束を始めた。
あ。
死んだな。
火の雨が降り注いだ。
質量はない。
あるのは圧倒的な熱量。
その熱量が破壊を生んだ。
地面が抉れる。
巻き上げられた土が蒸発する。
火の雨が止むと、そこは隕石でも振ったかのようなクレーターができていた。
「ふん。平民が付け上がるからこうなるのよ」
「あっついなぁ…」
そしてそのクレーターの中で何とか生きている事が出来たのは魔法を防ぐマントがあったからに他ならない。。
死ぬかと思った。
咄嗟にマントで身体を包まなければ絶対に死んでた。
昨日のウォーウルフの比じゃない。
魔法ってこんなのも出来るのか。
今後の参考にさせてもらおう。
「うわー、手とか火傷してんじゃん」
治癒魔法も考えないと。
「何で…」
「は?」
「何で私の魔法が効かないのよ!」
わーん。
少女が泣き始めた。
号泣である。
少女は泣きながら呪文を唱えるが、出てくる魔法はもう生身でも防げるようなちょっとした手品レベルのものだった。
泣いている少女相手に本気になるのもどうかと思い、しばらくそのまま好きなようにさせる事にした。
「落ち着けよ」
そして少し落ち着いた頃合いを見計らって近づく。
肩をポンと軽く叩くと、少女は急にしおらしくなった。
「どうしてこんなめにあわなきゃいけないのよ…わたし、わるいことした?」
人を殺そうとしたんだ。
悪いってか極悪だろ。
つーかそれを殺そうとした相手に言うか?
しかし、それを言うのは野暮というもの。
「もう一度聞くぜ。どうしてここに?」
「しらないわよ。わたしがききたいくらいだもん」
普段は強気なのにこういう時にしゅんとしているのを見るのも乙なものがある。
「どういう事?」
「だから知らないって言っているでしょう。確かに自分の部屋で寝たはずなのに、気が付いたら家畜小屋で眠っていたの。寝巻だったのに、起きたら制服だったのよ。誉ある国立魔法学院のローブが汚らしい藁で汚れたのよ。しかもローブは家畜小屋に置いてきちゃったし。最悪よ」
落ち着いてきたのか話し方も元に戻って来ていた。
それにしても起きたら家畜小屋とは。
「昨日の事?」
「そうよ」
これはもしかしたらもしかするか。
「何か夢でも見なかった?」
「私、夢って見ないの」
要するに覚えていないと。
「散々よ。家畜小屋を飛び出して彷徨っていたらこんな森に入って迷っちゃうし」
「それはそうと、俺、死にかけたんだけど」
「ごめんなさい」
おっと素直。
「それだけ?」
「え?」
「人を殺そうとして、ごめんで済むと思ってるの? ごめんで済めば警察はいらないよね」
「え? ケイサツ?」
急に話題を変えられ、少女の口調が再び弱々しくなる。
「このままだとお仕置きだよね」
「やだ」
「許してほしいの?」
「うん」
大きな瞳を濡らしながらこくりと頷かれると嗜虐心がうずいてしょうがない。
いや。
待て待て。
一回、落ち着こう。
もうあんな目には遭いたくはない。
虐めるなら計画的に虐めよう。
「じゃあ許してあげる」
「…きもちわるいのね」
「気持ち悪くて結構」
失言で死にたくはない。
死因、失言って。
考えただけでもぞっとするわ。
「気持ち悪いついでに聞くけど、君はスライムをよく食べる子?」
「何言ってるの? スライムなんて食べる訳ないじゃない。あんな水だけの生き物食べたって仕方ないでしょ」
やっぱり。
シンに飛ばされた内の一人だ。
「そっか、分かった」
「何が分かったの?」
「君が置かれている現状についてさ」
それから俺は少女に事のあらましを伝えた。
「え、何、その迷惑な神」
だよな。
やっぱそう思うよな。
「そういう事だから、これからよろしく」
「嫌よ」
「は?」
「まず、貴方の言う事が真実である保証はない。それから私は別に元の世界に戻らなくても構わない。何より、平民と一緒に旅なんてあり得ない。末代までの恥よ」
ほう。
この場でよくこんな減らず口を叩けるものだ。
そうか。
そういう事をしてくるのなら、こっちにも考えがある。
「アゴハズレ」
人間相手にこの魔法を使う事になると思わなかったが、仕方ない。
「あがっ」
目の前の少女の口がバカみたいにぽかんと開いて閉じなくなる。
「あが。あががあがあが」
やべえ。
何言っているのか分からない。
面白い。
「一緒に旅が出来ないのなら仕方ない。俺は自分の仕事をするとしよう」
「が」
「俺さ、この森が荒らされているとか言われてここに来たんだよ。この森の様子を見ると君が犯人だよね、当然」
実際、この森の一部を焦土にしたんだから別に間違った事をしようとしている訳ではない。
「呪文を唱えられない魔法使いなら村人でも相手になる。引き渡される先で酷い目に遭うか、少し魔法が使える平民と一緒に旅をするのか。どっちを取るのが賢いかなんてバカでも分かると思うけど」
「あっああっが」
これは分かる。
ちょっと待って、だ。
「でも君は村人に引き渡されて酷い目に遭う事を選んだ。しょうがない。君を担いで村に戻るとしよう」
少女は目に涙を浮かべ、必死にふがふが言いながら首を振っている。
「え? 好きにしなさいって? ここまで来ると逆に清々しいね」
何を言っているかなんて俺には分からない。
少女は何度も首を横に振る。
仕舞いには少女は地面に這いつくばり、抵抗を始めた。
「どうしたの? 急に怖くなったの?」
「あが。あがあがあがががああああ」
「何を言っているか分からないな。ちょっと態度で示してくれない?」
少女は抵抗を止め、こちらを見る。
自然と見つめ合う形になった。
うるんだ瞳。
愛くるしい顔立ち。
バカみたいにぽかんと開いた口。
シュールだ。
思わず笑いそうになるのを堪える。
沈黙。
そして少女は正座をすると俺に向かって頭を下げた。
土下座に近いが、少しニュアンスが違う。
それでも降伏した事は分かる仕草だった。
ああ。
達成感。
やりました!
やってやりました!
「やっぱり怖くなったの?」
「あが」
顔を上げ、少女は頷いた。
「村に引き渡されたくない?」
「あが」
このくらいで十分かな。
指を鳴らし、魔法を解く。
少女の口が閉じた。
「じゃあどうしたいのかを君の言葉で教えてくれない?」
「旅をする」
「え? 旅をする? それはダメだよ。俺は君を村に引き渡さなくちゃいけない。だから一人で旅なんてさせられない」
「あんたと旅するって言ってるでしょ」
「は? 何で俺が君と旅しなくちゃいけないんだよ」
「え?」
「魔法使いだの平民だのうるさい奴と旅なんてしたくないね。そんな奴と旅をするくらいなら村に森を荒らした犯人として引き渡した方が良いに決まってんじゃん」
「何よそれ!」
「それともあれかな、俺と一緒に旅をさせてほしいのかな。それなら口の利き方ってものがあるんじゃないの?」
「うっ」
「ねえ、どうなの? 何とか言ったら?」
「た、旅を…」
「旅を?」
「させて下さい」
「それだけ?」
「どうか貴方様と一緒に旅をさせて下さい。金輪際、貴方の前で平民を侮辱するような事は言いません。どうか一緒に旅をさせて下さい。お願いします。後生ですから」
「やればできるじゃん。そこまで言われたら、断れないな。良いよ、一緒に旅をしてあげよう」
「ぐぬぬ」
少女は歯を食いしばり、実に悔しそうな顔をした。
いやあ。
絶景かな、絶景かな。
「それで名前、何て言ったっけ? マーベルちゃんだっけ?」
「マリベル=ホリゾンよ」
「言い辛いな…そうだ、略してマホちゃんで行こう。君は魔法使いのマホだ」
「勝手に人の名前を略さないでもらえる?」
「別に俺は森を荒らした犯人を村に連れて帰っても良いんだよ」
「マホで良いです」
「素直な方が可愛いよ」
「うるさい」
マホちゃんは顔を赤らめて言った。
照れているのか。
あるいは怒っているのか。
照れていると解釈しておこう。
「じゃあ行こうか」
「どこへ?」
「そりゃあ村にさ」
「何でよ。やっぱり私を売ろうっていうの!」
「落ち着けよ。村に帰るのは、森を荒らした奴は逃したけど捕まっていた少女を保護してきたって報告するためさ。それに大切なローブ、そこにあるんじゃないの?」
山に囲まれたような場所だ。
一夜でここまで迷い込んだというのなら、マホちゃんがいた場所はハジマーリ以外にあるとは思えない。
となるとマホちゃんのローブもそこにあるはず。
「何よ、意外と優しいじゃない」
「仲間には優しいのさ。敵には当然、容赦はしない」
いじり甲斐のある仲間にも容赦はしないけど。
「あ、それからもう一つ聞きたいんだ。マホちゃんの話からすると、マホちゃんはここら辺を彷徨っていた事になるよね。その時に森が荒らされていたとかそんな感じの様子は見なかった?」
「いや、何も見ていないわ」
「あっそう」
じゃあやっぱり森は荒らされてなんかいなかった訳だ。
「名前」
「え?」
「私は名乗ったわ。いい加減、名前を教えてくれても良いんじゃない?」
「佐伯勇生。ユウで良いよ。さしずめ、勇者のユウって事で」
「自分で勇者って言う?」
マホちゃんはどこか呆れていた。
「良いの。言ったもん勝ちさ。それじゃ、ハジマーリに向けて出発だ」
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