第53話 ~2010年~ 10

 披露宴が終わり、僕たちは宿泊するホテルに帰るバスに乗っていた。

 マイクロバスには僕たち姉弟、四人だけが乗っていた。

「二次会って、二ヶ所でやるのかな」

「そうじゃないかな。さすがに芸能人と一緒に二次会は………」

「量子姉も大変ね」

 通路を挟んで僕と話す因子姉さんは、酒の力もあり、だいぶくたびれているようだった。光子姉さんと陽子姉さんは一番後ろの席で眠っていた。

 因子姉さんは、あくびをひとつ挟んで、

「ちゃんとビデオは撮れた?」

「うまく撮れたかどうかはわからないけど」

「初めてなんでしょ? 失敗しててもしょうがないって」

 もちろん、もう二度とない量子姉さんの結婚式と披露宴である。失敗などしたくはなかった。だが、たとえうまく撮れていなかったとしても、量子姉さんは笑って許してくれるだろう。

「あー、やっぱりウェディングドレス、きれいだったなー」

「着たい?」

「もちろん。でも、私よりも先に、光子姉ぇと陽子姉ぇの結婚式ね」

「そうだね」

「いつやるんだろ。………ご祝儀代、就職したら早速貯めなくちゃ」

「そうだね」

「………そんときはあんた、また撮影係ね。…………私とゆにが結婚式挙げるときまでに、腕を上げといてね」

「そうだね。………だけど」

 僕が何かを言いかけると、むにゃむにゃとまどろみかけた因子姉さんが、「なによ」と僕のほうを向いた。

「僕が結婚式を挙げるときは、誰が撮影してくれるんだろう?」

 僕の問いかけに、眉根を寄せて不審げな顔をした因子姉さんは、面倒くさそうに呟いた。

「そんなの、…………あんたの奥さんになる人に男兄弟がいたら、その人がやってくれるんじゃないの?」

「僕の結婚式で、それはないよ」

 僕は即断した。それはできないはずだった。

「『それはない』って何よ? なに言ってるの?」

「………それは、」

 僕は、単純に事実だけを述べた。

「だって、まりあさんは、ひとりっこだから」




 ―――数秒後、

 因子姉さんの人生において、おそらく最大級の音量の「はあっ?」という叫び声で、眠っていた光子姉さんと陽子姉さんが、目を覚ました。

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