第45話 ~2010年~ 2

 神父が立つ祭壇の前に、新郎の凛さんが立っている。凛さんは高身長で肩幅が広く、白いタキシードが様になっていた。すでに参列者からはカメラのフラッシュが焚かれている。

「かっこいいね」

「当たり前でしょ。俳優なんだから」

「恋する?」

「しないわ。なに言ってんの? 私、ゆにとラブラブなんだから」

 僕と因子姉さんがひそひそと言い交わしていると、教会の扉が開いた。

 パイプオルガンが厳かに鳴きはじめる。

 僕はハンディカムを構え、そちらへ向けた。

 扉の向こうから―――



 純白のウェディングドレスを身につける、量子りょうこ姉さんが現れた。



 鮮やかな金髪の花嫁の隣には、着物姿の光子みつこ姉さんが付き添っていた。

 もしおじいちゃんが生きていれば、と僕は考えた。

 おじいちゃんにも、量子姉さんの花嫁姿を見せたかった。きっと天国で見ていてほしいと思いながら、僕はハンディカムで量子姉さんを狙い続けた。

 ゆっくりと歩を進める量子姉さんを見送っていると、僕の隣に陽子姉さんがやってきた。

 右手にデジカメを持ち、左手のハンカチで目元を拭っていた。

「量子ちゃん。………ほんと、きれいねぇ……」

 泣くのが早すぎるのではないだろうかと考えないでもないが、突拍子もないところで泣くことに関しては僕も一家言持っている。

 僕は、神父の前に並んだふたりを、前に回りこんで撮影した。

 果たして僕は、「片桐涼子」という芸名を持つ僕の姉を、普段テレビに映るように撮影できるだろうかと、できもしない無駄なことを考えた。

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