第44話 ~2010年~ 1
2010年
「これ、お願いしますね」
そう言われて僕が渡されたのは、ビデオカメラだった。いや、ハンディカムと呼ぶほうが当世風なのだろうか。
「………えっと、つまり?」
「撮影ですよぉ、撮影。結婚式の。格子くんのお姉さんから、格子くんにお願いするように言われたんです」
僕にハンディカムを渡した山口
何かの冗談か、罰ゲームとしか思えなかった。
「いや、………絶対失敗しますよ。こんな機械、今まで触ったこともないですから」
「大丈夫ですよぉ。きっと簡単ですって」
それならあなたにお願いします、と言いたくもあった。しかし、ほかの姉さんたちは、結婚式の前の親族の対面と写真撮影が終わると、緊張のせいかトイレに行ってしまった。
一般的に結婚式というものが、新婦の記念として認知されていることは僕も知っているから、きっと新婦側の親族の誰かがビデオに撮らなければならないのだろう。それならば、芸能人の結婚式に参列するとあって緊張しまくっている姉さんたちに任せられることでなはい。
「わかりました。………今のうちに練習します」
僕と鈴さんは肩を並べて、あーだこーだと言いながら、ハンディカムの操作を練習した。確かに操作そのものは簡単だった。しかしこの手の撮影というものは、機械の操作だけではなく、アングルやら撮影者の立ち位置の問題もある。果たしてうまく立ち回れるだろうかと思った。
「じゃあ、お姉さんのためにも、頑張ってくださいね」
そんなエールを僕に送って、鈴さんは親族控え室から去っていった。僕も控え室を出て、練習がてらに結婚式の会場となっているホテルを撮影してみた。
一月吉日―――東京に来たのは、修学旅行を含めてこれが三度目だった(厳密に言えばそこは横浜なのだが)。芸能人の結婚式とあって、今までに見たこともないような、豪華な内装のホテルだった。歴史もありそうだった。
物珍しさもあって会場の中をぶらぶら歩いていたら、ポケットの中で携帯電話が振動した。見ると、姉さんたちから別々にメールが来ていた。内容は、もうすぐ式が始まる、どこにいるんだ、早く来なさい、というものだった。僕は慌てて式場に向かった。
教会の中に入ると(教会というよりも、大掛かりなセットのように見えた)、すでに参列者でいっぱいだった。どこに座ったものかと考えていると、最前列の長椅子から、僕に向かって手が振られた。
そこには
僕は因子姉さんの隣に腰を下ろした。ビデオ撮影には都合のいい場所だったので、僕は準備に取りかかった。
「どこ行ってたのよ!」因子姉さんが小さな声で僕に言った。「もうぎりぎりだったんだから」
「ごめんごめん。………
「ミーハー」
「うん?」
「陽子姉ぇ、写真取るからって、入り口の所。気付かなかった? でもホントは、凛さんの友達の芸能人を見に行ったのよ、きっと」
ミーハーなんだから、と因子姉さんは口を尖らせた。僕は笑った。
それからややあって―――式が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます