第26話 ~2002年から、2003年~ 14
翌年の三月五日。
おじいちゃん―――片桐利政は、旅立った。
葬儀にはおじいちゃんの知り合いが駆けつけて、僕たち姉弟を助けてくれた。おじいちゃんは昨年のうちに、思いつく限りの知人に、そのときはよろしく、という手紙を送り、また僕たちにも、そのときが来たらこの人たちを頼りなさいと教えてくれた。
おじいちゃんのいた病室を片付けているときに、引き出しの奥から、六通の手紙が見つかった。その手紙は葬儀のときに、喪主の光子姉さんから僕たちに渡された。
一通は僕たち五人に宛てた手紙で、残り五通は僕たちひとりずつに宛てた手紙だった。
―――長く孤独な人生だったが、最期は、自分には贅沢すぎるほどに、温かな日々だった。
―――ありがとう。
手紙には、そうあった。
僕に宛てられた手紙には、「こうちゃんは優しい子だから、お姉ちゃんたちを、支えてあげなさい」そして、「踏まれてもつぼみを開く花のように、強く生きなさい」と書かれていた。その手紙は、今も大事に僕の机の引き出しの中に入っていて、ときどき読み返す。
姉さんたちそれぞれに宛てられた手紙は、量子姉さん以外は誰も見せてくれなかった。なにか当人を気恥ずかしくさせる文が綴られていたらしい。
量子姉さんに宛てられた手紙には、「何もやりたいことが見つからない、というのは、自然なことだ。しかし、心配しなくとも、生きる道は必ず示されている。自分の正しいと思う心に従いなさい」と書かれていた。
また、こうも記されていた。
「自分のためにやりたいことがなくとも、誰かのために捧げる生き方もある。いつかそう思える男を捕まえたら、私の墓前に報告しなさい」
―――自分ではなく、誰かのために。
そんな生き方もあるのだと、僕は知った。
ただ僕は、そのときの量子姉さんと同じく、家族以外にそんな人がいるのだろうかと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます