第12話 ~1995年、あるいは2009年~ 7

 2009年。

 泥酔して眠っていた陽子姉さんは、日が明けるころに目を覚まして、僕に何度も謝っていってから、そそくさと自分のアパートに帰っていった。どうにも、一回り以上年下の弟に迷惑をかけてしまったことが面目なかったらしい。

 それから僕は少しだけ眠った。昼前に目を覚ますと、光子姉さんはすでに出勤していた。僕はマンションの近所をエレメントと散歩に出かけた。

 午後になって、今夜の夕食のために、近くの商店街まで出向いた。

 商店街の中はクリスマス商戦で、イルミネーションや宣伝広告が華やかに賑わっていた。

 かつてクリスマスには、六人全員でいつもより少しだけ豪華な夕餉に舌鼓を打っていたが、陽子姉さんが出て行き、おじいちゃんが他界し、高校からは全寮制の女子高に通い始めた因子姉さんが出て行き、2008年になって量子姉さんが働きはじめてからは、マンションの中には僕と光子姉さんと、ダックスフントのエレメントだけになっていた。

 皆が、ばらばらになり始めていた。

 あの夏、引っ越した当日、ひとつの部屋の中で寄り添うように眠ったことが、遠い過去のように思い返された。

 できることなら、ばらばらになっても皆の人生が、それぞれ希望のあるものであってほしいと、僕は願った。

 特にそのときは、陽子姉さんが、いつか幸せな結婚ができますように、と祈っていた。

 クリスマスは近いのだから、そのくらいの祈りは、許されただろう。

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