零暗記〔下〕〜アジトと仲間とあれやこれや〜
カラカラから、がっしゃん。
「あっおかえりー!」
「ただいまー」
「キリーナ引き下ろしサンキューな!」
「いえいえー」
零暗の衣アジト、ここにはマンホールを2.2.3のリズムで叩くと下のメンバーに知らせると滑車を回してくれることで入ることが出来る。
このアジトはビラガに来て幾らか経った後に発見した。
元々ここは地下で炭鉱をしていた坑夫の休憩所だったらしく様々な設備が揃っている。
鉄鋼業の衰退とともに撤廃され壊されたのだが、今は俺たちが修復し住み込んでいる。
照明灯は鉄線に張り巡らされ土に鉄板を張った壁と鉄箱を鈍く照らしている。
灰色を基調にしたアジトは鉄に囲まれているものの落ち着いた雰囲気を醸し出す。
マンホールを降り立ち足をつける。
コツっ、と地面を踏みしめる。
ここは地下なので地面というのかは分からないが。
エントランスホールと呼んでいるここは階円広場の半分ほどのスペースで長方形になっていて、中央に簡易長机が置かれておりフルールとサクヤが飲んでいた。
「あっ、おかえりー、レノン酒持ってきて〜」
「いきなりパシリかよ。
あ、でも先に風呂はいるわ」
「ほいほ〜い」
それから左の通路へ向かう。
エントランスホールからは左右に3本ずつ通路が伸びている。
今から向かうのは衛生スペース。
風呂や便所、洗濯物などが設置されている。
通路を歩き左側に男女に分かれた風呂。
右側に便所、真っ直ぐいくと洗濯と裁縫用の部屋になっている。
ここは基本的にスララが使っている。
「あれ、レノン、今から、風呂?まだ、昼だよ?」
「ちょっと汗かいてさ。そうだ、今から昼飯作りに厨房行くんだろ?フルール達に酒持っていっといてくれないか?」
「分かった」
そう言ってミーニアが歩き出す。
アジトに入ってすぐ右に狭いが厨房がある。
使うのは基本的にミーニアとヒスワンだがいつも適当な食べ物が散乱しているのでつまみ食いにちょくちょく立ち寄る。
それから風呂に入る。
服を脱ぎ鉄箱へと入れ扉を開ける。
一人用なのでかなり狭い。
左にシャワー、右に浴室だ。
男子が8人もいるので夜は効率よくローテーションしないと混む。
「ふぅ……」
やはり風呂が一番癒される。
これはヒールスキルでは生み出されない癒しだ。
風呂を上がり服を洗濯室に置きエントランスへ戻る。
一番奥の談話スペースにルナートとスレイアが座っていた。
また、革命の打ち合わせだろうか。
季節は凩を過ぎようとしていた。
この前の夏の記憶が蘇る。
革命が終わっても、またみんなと楽しく遊べたらいいな……。
そんなことを思いながらのんびりとエントランスを歩く。
それからエントランス左側の真ん中の通路へ向かう。
ここは個室が並んでいて、生活スペースだ。
左右に8部屋ずつ、一人一室の仕様になっている。
俺の部屋は右側奥から二番目だ。
通路を歩く。
基本的にどの部屋も空いている。
地下なのでかなり湿気がこもり風通しが悪いからだ。
だから、扉が閉まっている=立ち入り禁止という暗黙のルールが出来ている。
部屋には下に敷かれた布団と机、椅子が置かれたシンプルな部屋だ。
大きさも中も宿屋の一室と同じだ。
目の前の部屋から
キュッキュッ
と何かを磨く音が聞こえる。
「マグドまた磨いてんのー?」
「おう! こいつ、磨いてやらねえとすぐ錆びちまうからな」
マグドは一級の武器好き……。というより、ハンマー好きだ。
毎日俺の目の前で磨いている。
部屋割りは真向かいの部屋が同性になるように配置されている。
荷物を置き、再びエントランスへ向かう。
「あーもー汚い!! だから手洗い場の掃除は嫌いなのよ!!」
ハナの罵声が聞こえる。
今回の便所掃除はあいつだったな。
いつも一週間くらいの間隔で仕事を割り当てている。
基本平等だ。
水と電気、そしてガスは通っている。
リックが何とか取り付けてくれてこれがなかったらマトモに生活出来ていない。
そのままエントランスを突っ切り反対の通路へ向かう。
左右に開き扉がありかなりの広さを持つ部屋がある。
ここは荷物置き場になっている。
各々の装備類やらアイテムが置かれていて机などの家具もここに収容されている。
右側の部屋へ入るとキリーナがルナートの短刀を磨いていた。
隅に置かれているのは武術士であり鍛匠(たんしょう)士でもあるキリーナ専用の鍛治用具だ。
ほとんど趣味でいつも勝手にみんなの装備を鍛えたり磨いたりしてくれている。
「今日はルナートのか?」
「そうよ、革命までに全員分の装備を点検しようと思ってね」
「助かるな」
「いえいえ! あっ、そうだ! レノン今からダンの所に行って装備点検するからぁーって言っといて!」
「あいつ、今どこにいんの?」
「多分書物室じゃない?」
「おっけー」
そう言って部屋を出る。
綺夜の杖を自分で磨こうと思ったのだが後回しだ。
エントランスへ戻り右側、一番奥の通路へ向かう。
右が書物室、左が遊戯室になっている。
こん……、カコン、
と左側から音がする。
きっとビリヤードでもしているんだろう。
書物室へ入るとダンは鉄箱にもたれながら本を読んでいた。
「ダン、キリーナが装備の点検しとくってさ」
「……分かった」
……終わり。
なんか絡みにくいな、こいつとは。
まあこんだけ暗かったらみんな接しにくいと思う。
最近、リックに助け出されて連れてこられたんだけどなかなか馴染んでくれない。
まあ、時間はかかるだろうな……。
ここに来たばかりの頃のダンは、いつも震えていた。
まだ進歩したということだ。
「何読んでんの?」
そう聞くとダンは本から視線を移すことなく手を
くいっ、
と上げ俺にタイトルが見えるようにする。
表紙には、
『魔法書(グリモアーレ)・第一誌、探求の記
著作・魔法士最高責任管理研究者ファン・パドーラン〜』
と書かれていて魔法士のエンブレムが彫られていた。
「ダンって魔法の勉強もしてるんだ」
「まあな」
ボソッと呟く。
うーー……む
やりづらい。
「じゃあな」
と言って部屋を出る。
遊戯室はあまり行かないがマイクやメイ辺りが今日も対決してるんだろう。
再びエントランスに戻る。
大分みんな戻ってきたな。
基本的にみんな毎日地上で仕事をしたりして地道に稼いでいる……主にリックが。
よく遠出をしてビラガの他の都市で依頼を受けたり食材などを大量に買い込んだりしている。
ちなみに最後の左側奥の通路。
ここは抜け道になっていてビラガルドを出た少し先の小さな廃屋に繋がっている。
ホントにここは最高だ。
このアジトは今の俺にとって……。いや、零暗の衣にとっての家だ。
ここでみんなと過ごした思い出は忘れることはないだろう。
例えこの革命がどんな終わりを迎えたとしてもこのアジトだけは……、零暗の衣が生きたこの場所だけは、絶対にこの世界で残り続ける。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「みんな、夕飯、出来たよー!」
ミーニアがそう言ったとたん、みんなが厨房へ向かう。
いつもそれぞれが自分の分をセルフで取る。
ホントにこのアジトは居心地がいい。
「いっただっきまぁーす!」
適当な位置に座り適当に食べ出す。
今日の夕食は
*魚介類のアクアパッツァ*
*パピット・ピアット*
*風味(かざみ)のドルチェ*
だ。
料理についてはヒスワンが世界中のレシピ本を読み漁っていて毎日色んな種類の食べ物が出てくる。
レシピ本は本棚の一角をまるごと占めているがそれを読んで理解できるのはギリギリ、ミーニアとサクヤくらいしかいない。
「ルナ〜、ワ〜イ〜ン〜……、欲しい!!」
「あのなぁフルール姐さん、前にも言ったけど金が……」
「ワーイーン飲みタァ〜いいい!!! ワインが私を呼んでいる……!!」
「どんだけ高価だと……」
分かってないか。
まあ革命が終わればいくらでも飲ませてやろう。
みんないつも通りにしているけど、革命はもうすぐだ。
大方の配置は決まっているし、決意も固めた。
その日が来るまで俺に出来ることはこのメンバーと楽しくいることだ。
革命が終われば……。解散、するのだから。
するとふいに2.2.3のリズムが刻まれる。
「あ! 多分リックだ! 今日は早いんだー」
そう言ってキリーナが滑車へ向かう。
情けないことだが男性陣はキリーナに筋力で手も足も出ない……、本当に情けないことに。
ガラガラから……、ガッシャン
と同時にリックがアジトに降りる。
その顔はどこか鬼気迫っていた。
執拗に焦ったいるのかこちらに走りよろうとしてこける。
「おかえりリック、大丈夫(だいじょ)____」
「大変だ!! 宿に旅人が……、二人っ! また……、やられる……ッ!!」
____この時は知る由もなかった。
セアたちとの出逢いが俺たちの革命を大きく変革することになることを____
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます