第十話 【現実】ヌメヌメ+にょろにょろ+凛々しい女子=「塵も残さず燃やします」


 あ、本当だ! と、思った時には既に遅くて。見事な早技で両足にしっかりと絡み付いた触手にぎゅっと力が込められたかと思えば、引っ張られるようにしてオリガの身体が持ち上げられてしまった。

 それはもう、ひょいっと。軽々と。凄い、触手って力持ち!


「じゃねぇえええええ! キモイ! あと微妙に生温い! いやああぁ!?」

「オリガ殿! くっ……魔物め、オリガ殿を離せ!!」


 ジタバタと、何とかして触手から逃れようと手足を精一杯に暴れさせる。だが、見た目以上の安定感で絡み付く触手は少しも緩む気配が無い。

 ていうか、何か巻き付く力が強くなってない?


「勇者さん、気をつけてー! その魔物は獲物に触手を巻き付けて、細切れに引き千切って、真ん中辺りにある袋みたいなのに入れられて消化液でじっくり溶かして栄養を得るタイプなんですよー!」

「エロい要素皆無じゃないの!! 誰よ、触手ときたら凌辱されて『くっ殺』展開になるとか言い出したやつ! 今すぐ出て来いやー! 叩き切ってやる!!」


 すっかり安全圏に居る兵士の言葉に、オリガが吼える。ちょこっとでも期待したあたしが馬鹿だった!

 大体、何であたしが触手のエロいあれこれを期待してるんだ!! 何がそんなアホなことを考えさせたんだ! 全部がこの嵐のせいだ。魔界の雨がヌメヌメしているせいだ、キイイイイイィ!?


「オリガ殿! まずはその触手を剣で叩き切ってください!!」

「はっ、そうか! ナイス、リイン!!」


 リインの助言に従い、オリガは剣を抜くとまずは右脚に絡み付く触手に斬りかかる。だが、足が宙に浮いている為か上手く力が入らない。

 加えて、触手自体も斬られまいとウネウネ動きやがる始末。


「ちくしょー! 動くな、このっ、このぉ!! ちょっと、リイン! どうにかしてこの触手の動きを鈍らせられない!?」

「えっ、えっと……出来ることは、出来ますが」


 実は、と困り顔でリインが言う。


「その……自分は、あまり器用な方では無くて。魔法は防御魔法と炎の魔法しか使えないのです。陛下やサギリ様のように、麻痺や混乱などの状態異常魔法が使えれば良かったのですが。炎の魔法は、威力だけならば自慢出来るのですが」

「良い! それで良い!!」

「で、ですが……自分の炎がオリガ殿に当たってしまうかもしれません! 勇者であろうとも、女性の身体に火傷などを負わせてしまったりしたら、自分は自分を許せません!!」

「止めて、あたしそれ以上何か言われたらあんたに惚れそう!!」


 何なの、魔界では将軍と書いてイケメンって読むんですか!? イケメンはジルだけで充分だよ!


「良い、良いから! ちょっとくらい火傷したって気にしないから!! あとでシェーラに薬でも貰うから!」

「オリガ殿……わかりました! オリガ殿がそこまで言うのなら……自分はもう、迷いません!!」


 そう言って、リインが杖を構える。リインの纏う空気が一変し、辺りの空気が上昇し始める。

 あれ? 何だか凄く嫌な予感がするけども? 視界に入る、紅い宝石が眩しいばかりに輝く。


 ――え、これって……もしかして、ヤバくないか?

 ――リイン将軍って、数百の魔物を一瞬で燃やし尽くせるくらいの炎を操れるって言われてるけど……実際は物凄く不器用なだけなんだよな。

 ――そうそう。あと、あの方は変に真面目だから。ああやって張り切ってる時程、火力だけが上がって大変なことになるっていう。

 ――なあ、このままここに居るの、不味くね?

 ――確かに、外で待ってようぜ。


 ……何、だと?


「自分は間違っておりました。オリガ殿が、自分に命を預けてくれているというのに……無礼をお許しください、勇者殿」

「あ、えーっと。ちょっと待とうか、リイン。あたし、あんたに命を預けてはいないから。もう少し自分で頑張ってみるから――」

「大丈夫です、自分はもう迷いません。全力を、自分の全てを出し尽くします」

「落ち着いて、リイン。このやり取りね、ぶっちゃけ二回目なの。この流れのあと、あたし一回死にかけてるの。ちょんぱされてるの、胴体を」

「ご安心を。一瞬で滅しますので」

「お願い五秒で良いからあたしの話を聞けええええぇ!!」


 オリガの叫びも虚しく。リインが生み出す凄まじい熱量の火球に、オリガの意識が一瞬で滅された。

 そう、つまり……あたしは、多分死んだ。スイーツ……なんて、考える余裕すら無かった。

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