第126話 参拝1

 辺りをぶらぶらしていたら、既に午後3時位になっていた。

 青龍が神社に参拝するのは、基本的に午前中だと言う。

 どうせなら領主(青龍)が参拝する様子やその時の回りの者達の反応も見たかったので、参拝は明日にした。


 時間も中途半端だったのでとりあえず今日は店を見て過ごすことにする。

 雅に「何でも好きなものを買ってやる。」と言うと、小夜がどことなく不機嫌な様子だ。

 仕方がないので、小夜にも同じ事を言う。

 その後で、確かに、小夜には今まで物を買ってやった記憶がないと言うことに気が付いた。


 小夜は特に身内というわけではないし、別に俸禄も支給しているので、そういうことをする必要がないと言えばそれまでなのだが、目の前で同じ女性が、一人だけ良い目を見るのは面白くないといったところか。

 ま、確かに小夜とは結構つきあいが長いにもかかわらず、俺から一度もモノを贈られるたことがないとなれば、機嫌が悪くなるのも仕方がないというのもわからないではない。

 まさかこんなことで、小夜が雅の護衛の任務の手を抜くとは思えないが、雅の護衛に何かあってはいけない。

 たかだが買い物のひとつでそれが防げるのなら、それにこしたことはない。


 雅がかんざしを選ぶと、小夜もそれにあわせるように雅より少し安いかんざしを選んだ。

 かえって気を遣わせてしまったような気がしないでもないが、ま、本人が選んだのならそれで良しとする。


 さて、次の日青龍が大体参拝に来るという時間に併せて神社に向かう。

 かなりの人だ。

 ただ、同時にかなり物々しい警備が敷かれている。

 ま、領主が通る場所と時間が予めわかっているとそれもわからないでもない。


 暗殺には持ってこいだし、実際俺も三川では、領主がいつどこにいるかをという情報を利用して事をなしている。

 警備担当の気苦労は大変なものがあるだろうなと思いながらも、決められた時間に参拝するのもこだわりなので変えることはできないのだろうなと勝手に想像していた。

 領主が通る時間が近づくと参拝客は皆道路で土下座し、頭を挙げることはもちろん、領主の行列を見ることも許されていないそうだ。


 ま、実際は隠れてちらちら見る者もいるらしいが、龍の生まれかわりを見るなど恐れ多いというのが建前の理由とされていると甘利が教えてくれた。

 とりあえず、俺たちも頭を下げて青龍の参拝の行列が来るのを待った。

 行列がすぐそばまで来たとき、隣にいた2歳位の子供の手から、毬が転げ落ちた。

 すると子供がその毬を追いかけて走り出した。結果行列の前を横切るような形になってしまった。


 それを見て、警備担当が怒り出し、その子供を無礼うちにしようとした。

 こんな面倒事は普段は関わり合いにならないのだが、どうも雅が「助けてあげて下さい。」と訴えるような顔で俺を見ている。

 仕方がないので、小夜に助けるように顔で合図を出す。


 ここで信義でなく小夜を選んだのは、小夜なら女性だから大目に見られる可能性もあるし、ダメでも小夜の体術なら、子供を抱えて逃げるという選択肢もあったからだ。

 それにいろいろ面倒なことになっても、小夜と他人のふりをすればよいし、最悪小夜だけならあの程度の関所なら、なんとか水穂に帰れるだろうという計算もあった。


 ところが、ここで想定外のことが起こる。

 子供を助けた小夜に感動したのか、雅も子供を守ろうとして警備担当の前に立ちふさがっていたのだ。

 こうなると小夜も逃げるわけにいかないから、最初の俺の想定が全く崩れてしまった。

 警備担当の顔を見るとかなり、いらだっていることが良くわかり、どうもただではすみそうにない。

 やはり領主の警備ということでかなり神経を使っているところに、面倒事をおこした雅たちを許す気はないようである。


 ただ、ここでまともにやりあったら、如何に信義と小夜が強いと言っても、多勢に無勢でどうにもならないのは火を見るよりも明らかだ。

 仕方がないので、前に進み出て、警備担当に「子供のしたことだから、何とかお許し願えませんか?」と頭を下げる。

 ところが、警備担当は一人だけでなく、結果3人も前に立ちふさがった形になっていることに頭に血が上っているらしく俺の話を聞く耳を持たない。

 「これは困ったことになった。」と内心かなりあせりながら、嫌な汗が流れるのが自分でもわかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る