第125話 龍神神社

 甘利達はここで仕入れた毛皮をもって松原城下に向かう。

 今回かなりの量の毛皮を手に入れたようで、皆重そうにしている。

 流石に雅に持たせるという選択肢はないので、俺が少し手伝ってやることにする。

 毛皮を持つのは初めてだったが、結構重い。


 口では、「これを担いで下まで行って換金して帰ってくるだけ。」と簡単に言えるが、実際にやってみるとかなりの重労働だ。

 確かに、それなりの手数料をとってもバチが当たるとは思えない。

 下りだから結構な早歩きだったと思うが、それでも松原城下につくまで3日もかかった。


 おそらく荷物(毛皮)がなければ、2日ほどでたどり着くと思われる距離だが、やはりそれだけ重かったということだろう。

 初めて見る、松原城下は結構栄えていた。

 確かに「商人の町」と言われる隠岐と比べると流石におちるが、それでも三川にも十分引けをとらない規模の商店が並んでいた。


 まず、毛皮をどうにかしないことには重くてロクに動けないので、甘利達がいつも利用している店を訪問し、毛皮を引き渡す。

 後は、ここでしばらく滞在し、隠岐の名産品などを購入し、今度はそれを信夫地方の山岳地帯にいる人たちに売りつけるという話だ。


 前原は海に面しているので、信夫への行商では、特に海産物が好まれるという。

 ただ、どうしても保存の関係で、塩じゃけなども保存様に加工された魚や乾燥させた貝や海藻などが中心になってしまうと教えてもらった。


 さて、どこを見るかと考えていると、甘利が、「ここに来たのなら、まずは何といっても龍神神社でしょう。」と教えてくれた。

 何でも領主の皇青龍(何度聞いてもすごい名だと思う)が、自分の前世と信じている龍神を祀った神社が龍神神社だという。


 確かにそれなら、ということで、甘利の案内で、雅、信義、小夜を連れて行ってみることにする。

 神社は小高い、如何にもという感じのところに造られていた。

 ただ、そこに至るまでの道はかなり広く、その両脇にはここが本当の中心地ではないかと思えるほどの商店が所せましと並んでいた。


 甘利に聞くと昔ながらの大店は、もともと先程の毛皮を下したところに店を構えていた。

 元来、あそこいらが松原城下の中心だったのだが、青龍が自分を「龍の生まれかわり」と自称し、この神社を厚遇するようになってから、変わってきたと教えてくれた。

 何といっても、領主である青龍が毎日参拝しないと気が済まないらしい。


 結果、参拝に便利な様に道が整備された。

 領主が参拝すれば、一人で行くはずがないから(ここいらは耳が痛い)、当然部下も一緒に参拝することとなる。

 時にはかなりの部下を引き連れて参拝することもあるそうだ。


 そうなると、領主と一緒に参拝する直属の部下以外にも、武士は参拝するようになる。

 斯様に皆が毎日とは言わないが、かなりの頻度で参拝に訪れるようになると、それを目当てに食べ物などを売る者が出始める。


 するとそれが話題となり、近隣の村などからも参拝に来る者が出始める。

 彼らは、神社ではお札などを購入するわけだが、それ以外にも土産物などを所望するものも出て来る。

 すると龍の置物や、絵画などを売る店ができる。

 ここでも一回こうした流れができてしまうと、後は自然に後から後から新しい店が進出するようになってきたらしい。


 そして気が付くといつの間にか、松原城下で最も栄えているところは、龍神神社という感じになってしまったそうだ。

 ここの管理は誰がやっているのかと甘利に聞くと、建前上は龍神神社だが、実際は松原の国の直轄地のようになっていると教えてくれた。

 そのため、ここに店を出すには国の許可がいるわけで、結果、風俗などのいかがわしい店は出すことができないそうだ。


 ただ、あくまで建て前だけで、かなりの泊り客がいる以上、一本裏を歩けばそういう店もあると、勝手に話始めた。

 俺的には雅の前でそうした話はやめてもらいたかったが、今さら仕方がない。


 正規の店だけでなく、露天でものを売ったりしている者もいるが、あれもかなり厳しく管理されていると教えてくれた。

 何といっても領主自らが直属の武士を連れて、毎日参拝にくるのだから、そこいらは結構厳しくやられているそうだ。


 思ったのは、「確かにここは、ものすごい活気がある。」ということだ。

 これは隠岐の商人たちから感じたものとはまた別の活気だ。

 当然店を出すということは、ここで金儲けをしてやろうという意図があるわけだが、それだけではない別の熱いものが感じられたというのが正直なところだ。


 俺はそれを感じながら、「これが松原か。」と一人で実感していた。

 口ではうまく言えないが、実際こうしたものは自分で肌で感じてみないとわからないものだとつくづく思った。

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