第109話 関所

 俺たちが準備した荷物の最終確認を藤五郎が行うことになった。

 俺たちへの不信感を払拭するためか、藤五郎は「関所があるからです。」と理由を説明してくれた。

 そして、小夜に向かって「武器を隠し持ってはいませんか?」と聞いてきた。

 小夜が頷くと「全て出して下さい。」という。


 小夜が次々と暗器を俺たちの目の前に積み上げる。かなりの量だ。

 藤五郎が「これで全てですか?」と聞くと、俺の方を向いてきたので、全て出すように命じた。

 仕方なさそうにあと2つ暗器を出してきた。

 小夜は岩影で培った習慣として、武器を身に着けていないと落ち着かないのだろうが、隠岐の国に入るためには我慢してもらうしかない。

 それに、藤五郎に万が一にも迷惑が掛かったのでは申し訳がない。


 了解をもらって出発する。

 道すがら隠岐の国の補足事項や関所での注意事項などを聞く。

 すると、商人である藤五郎の同行という立場なら武器の持ち込みにさえ気を付けていれば、特に問題はないとのことであった。


 隠岐の関所は初めてみたが、俺がこれまで見たことのある関所とはかなり異なり、大きく堅固なものであった。一言で言えば「立派」というところだろう。

 俺は、今まで関所と言えば、便宜的なものしか見たことがなかったが、ここにはどうやら宿泊施設まであり、泊まり込みで警備などもできる感じだ。

 藤五郎が商人であることを証明する書付を見せて、訪問目的・同行者の人数を書いた書類などを提出している。


 更に武器の持ち込みがないか、審査官が服の上から俺たちの体を確認していく。

 小夜はどうなるのかと思っていたが、さすがに女には女の審査官を準備していた。

 確かにこれで下手に武器などを隠し持っていれば危ないところであった。

 藤五郎の言うとおり、俺たちの審査はそれほど問題なく終了した。


 ただ、その間、目にとまったのが、きたない身なりをした子供たちが数名別室に連れて行かれる様子だった。

 関所をこえたところで藤五郎に先程の子供たちについて聞く。

 すると「密入国です。」と言ってきた。

 何でも、隠岐は商業の国なので、金を稼ぐ機会は結構ある。結果、国境の農村から口減らしのために捨てられた子供たちが密入国を図ることが多々あるそうだ。


 基本的に仕事のない者が入国されると、治安の悪化をもたらすため、密入国は認めていない。

 ただ、隠岐にしてもある程度の労働力はほしいので、子供に限って、毎年数を決めて受け入れを行っているとのことであった。

 そのため、それを狙ってある程度の子供たちが集まるので、そこの中から労働力として使えそうなものを選別しているのだと教えてもらった。


 それを聞いて俺が普段見慣れた関所と、隠岐の関所の差が頭をよぎる。

 水穂は言うに及ばず、あの三川にしても東郷にしても農業国だ。

 土地を耕さなければ生きていけない。だからここは誰の土地ということはしっかり決まっているし、田植えや稲刈りは村中総出で行う。

 結果、よそ者が入り込む余地は殆どない。


 であれば、関所は変なものが入り込まないように最低限の見張りさえたてておけば十分だ。

 村に入りこんだとしても、よそ者はすぐ通報されることになるわけだから何の問題もない。

 しかし、隠岐の様に金儲けの機会がどこにでもあるとなれば、河津屋の様に、他国から商人が入ってくることが多々ある。

 そうなると自分の知らないよそ者が街中を歩いている方が自然だ。

 であれば、治安を守るためには、確かに今回のように関所で身元をしっかり確かめるしかないということになるであろう。


 ただ、同時に疑問も残る。

 商売をする以上はかなりの物資を国外に運んだり、持ち込んだりしなくてはならないはずだが、その確認はどうしているのだろうか。

 密入国の手段としてそれらの荷に紛れこんだりする方法は一般的だと思うがどうなのであろうか。 

 藤五郎にその疑問を聞くと、それはまた別に物資だけを確認する場所があると教えてくれた。


 先ほどの関所でも、表は人の確認を行うが、裏では専門に物資の確認を行う部署があり、そこで専門に、確認しているそうだ。

 隠岐に入る物資については人(密入国者)や武器が紛れ込んでいないかを特に入念に確認しているとのことであった。

 更に、特に大量の物資となるとどうしても船でも運搬となるので、隠岐の港では、専門にそうした確認を行う担当官がいることも教えてくれた。


 本当にびっくりすると同時にそれほどまでに隠岐に憧れる者が多いことを初めて知った。

 同時にその隠岐をこれから見れると思うと、俺はうれしくてたまらなくなってしまった。

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