第9章 隠岐の国

第108話 商人の国

 隠岐を訪問するに当たって、いろいろ商人から話を聞きたいので、若家老の片桐慎介に無理を言って、水穂領内で、隠岐と商売をしている商人、河津屋藤五郎を紹介してもらった。

 彼に隠岐のことを聞くと、「あの地こそが商人にとっての理想。」とまで言ってきた。


 何でも金を持っているのが当たり前で、なにより金が大事なので、皆が如何に金を稼ぐかと言うことに目敏くなっているという。

 農民も米は主食なので栽培するが、金を稼ぐために、服の色を染める染料の原料など、金になる(商人に売れる)作物を栽培することに力を入れているとのことであった。

 では、武士は何をしているのかと思って聞くと、「国防」という最も重要な仕事を担っているので、かなりの高給と言われた。

 ただ、役にたたない(国防を担えない)と見なされれば、直ぐに解雇されるという。


 「ここから先はあまり大っぴらにできる話ではないのですが」と断ったうえで、隠岐には、確かに領主がいるが、どうも国の実権を握っているのは商人たちらしいことも教えてくれた。

 正直これはかなりびっくりしてしまった。

 ただ、少し冷静に考えると、ある意味東郷と同じことかもしれないと思った。


 東郷では農民が武士を雇い、武士の真似をし、農民が武士になって建国したと言っても良い国だ。

 隠岐の場合はもしかしたら、商人が商人のまま生き残り(金儲けを継続し)、武士を引き続き雇ったということだけなのだろう。

 商人にとって一番大事なのは国の治安と防衛だ。

 そしてそれを金で買っていると言い換えても良いのかもいうことなのだろう。


 聞けば聞くほど興味がわいてきた。

 「できれば隠岐の商人から直接話を聞いてみたい。」という話をすると、河津屋は「お武家様が訪問なされるのは・・・」と難色を示してきた。

 確かに、武士が、それも次期領主が直接乗り込んでいくとなると、「何のために?」という話になるだろう。


 特に商人が実際の権力を握っているとなると、なおさらだ。

 でも河津屋の話を聞いて何としても隠岐に行きたくなったしまった。そこで、武士がまずいのだったら、商人になればよいと思った。

 「では、俺たちは商人の見習いということでどうだろう。」という話をしていた。

 ただ、なりきるのはいろいろ難しいだろうから、誰か一人貸してもらい、そのお供という形で俺たちが付いていくのはどうかと提案してみた。


 すると「そんな恐れ多い。」と拒否をしてきたが、俺は、「隠岐の国が商人の理想だというのなら、俺たちを使いこなすくらいでなくてどうする。」という話をすると、少し驚いた様な顔をしたが、黙って考えこみ始めた。

 しばらくすると「良いでしょう。だったら私のお供ということでお願いします。」と言ってくれた。


 藤五郎自らが行ってくれるのであれば心強い。

 続けて、「あくまで手前のお供である以上、それなりの扱いとなりますし、場合によってはいろいろ仕事を手伝ってもらうことになりますが、それはあらかじめ了承願います。」と言ってきた。

 「もろちん承知の上だ。」と返答する。

 後ろでは十蔵があきれているが、知ったことではない。


 前回は信義だったので、今回は十蔵位の簡単な気持ちで選んだが、こういうことなら間違いなく十蔵の方が頼りになるであろう。

 いろいろ仕事を振られたとしても十蔵ならそつなくこなしてくれそうだ。

 小夜はどうしたものかと思って聞いてみると、「旅では調理を自分でしなくてはならないこともあるので、女を連れていくことも良くあるから大丈夫です。」と答えてくれた。


 それを聞いて小夜の顔が少しゆがむ。

 「実は・・・」と小夜は体力専門で料理などは全くだめだという話をすると、「形だけでもそう見えれば大丈夫でしょう・・・。」と今度は不安そうに答えてくれた。

 ま、とりあえず、出発は明後日ということにして、それまで各自旅たちの準備をすることにした。

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