第80話 風見1

 秋山風見は、怒り狂っていた。三川という大国の筆頭家老をしていたのが、まるで夢のような現在の凋落ぶりだ。

 あの頃は、これからもずっとそうした生活が続くと思っていたのに、気が付くと、かつての敵というか、一方的に滅ぼす対象という認識しかなかった信夫の世話になっている様だ。


 現在信夫地方で独立を保っているのは南の3国(信前、信中、信後)、中央の3国(夫前、夫中、夫後

)、北の2国(柿崎、俵)の計8ケ国であった。

 風見は今現在、そのうち最も大きい信中城に身を寄せていた。

 内戦で負けた時、西には三川領内が続いているし、東は三川の同盟国の東郷の国、南は海だから、北しか逃げる場所はなかったわけだ。

 逃げてきた風見も風見だが、受けれた信中も信中だと思っている。

 これまで、信夫攻略の最先端にいた風見をよくも受けれてくれたものである。


 ま、あの時の風見の様子は普通ではなく、克二たちの「新三川」というでもいうべきものに、激しい怒りを表していたので、捨て駒位には使えると思ったのであろう。

 それに秋山家の強さについては信夫では知らない者がない。

 数は100名程度と少なくなってしまっているが、それが今後は味方になるというのだから、確かに受け入れるのもわからない話ではない。


 風見の様々な思いは止まらない。

 あの青柳新右衛門が、あの様な行動に出るとは思えなかった。ただ、あいつの場合は訳ありだった感じだから、まだ許せる。

 多分、西の方絡みで、どうしようもない理由が、あったのだろう。

 その点、麻生辰則は調子に乗って、許すことができぬ。普段は、あれだけペコペコしていたくせに何だ、あの態度は、本当に腹がたつ。


 あの水穂の連中も何なのだ。

 俺と新右衛門が、正々堂々雌雄を決しようという時に、いきなり後ろから切り込むなど「卑怯」以外の言葉が見つからない。

 本当に腹がたつ。

 あの若さで切腹とは、勝一様がお痛わしくてならない。

 北の方様に、申し訳無さすぎて、何と言ったら良いか、わからない。


 水穂の連中が自力だけで、信夫の2国を落としたのも信じられない。

 だから、我があれほど増援を出すべきだと言ったのに、たかが百程度の敵、庭先、丹呉だけで、充分だ等と侮っているから、ああいう目にあうのだ。

 雪でまともに行軍も出来ない時期の、出兵に何かあると気づかなかったのか

 異常に遅い行軍を見て、何か策があると、誰もおかしいと思わなかったのか。

 ただ単に雪のせいで行軍速度が遅い等と思っているから信夫の連中はだめなのだ。


 しかし、我は今やただの居候の身、それどころかこれまでの敵と我を憎んでいる者も多い始末。

 そんな我の言う事など、誰が真面目に聞いてくれよう。

 腹がたって、腹がたって仕方がない。

 庭先が落ちたという情報を我が影を使って仕入れた時も、信夫の連中は全く気づいていないとは、本当に情けない。


 そして、そんなところに身を寄せなくてはならない、我が情けなさ過ぎる。

 我が説得して信夫の全勢力を集めるも、既に遅すぎた。

 庭先が落ちた直後なら丹呉はまだ落ちて居なかったのだから簡単に奪いかえせたものを、敵に砦の整備をさせる時間を与えるとは、情けなさ過ぎる。

 それに何なのだ。庭先の領主の娘が、我々になぎなたを突き付けるというのは、だから女は駄目なのだ。

 「何もかもが面白くない。」それが今の風見の置かれた偽らざる気持ちであった。

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