第81話 風見2

 秋山風見は考える。「どうすれば、今の状況を打開出来るか?」

 三川には知った者がたくさんいるはずだった。

 しかし、内戦後、あの克二のせいで、皆、水穂に引き取られて行ってしまった。

 彼らが、水穂で肩身の狭い思いでもしていれば、手はあったのだろうが、今は庭先、丹呉にそれなりの領地をもっていると聞く。


 ここで、新しい生活を始めたばかりの、そ奴らと接触すれば、どう転ぶかわからない。

 確かに、我にこれまでの恩義を感じてくれている者もいようが、今の居候という没落した我にどれだけの者がついてきてくれようか。

 それに、敵も馬鹿ではないだろうから、旧三川兵の裏切り、動向についてはかなり厳しく目を光らせていることだろう。


 となると、もしやるなら、相手が思いもよらない人間を調略させるしかない。

 そこで、影に調べさせるといろいろ興味深い者が三条茜を嫌っていることが分かった。

 この「影」だが、もともと秋山家には練兵の赤井家に代表されるように、様々な専門家集団が付き従っており、支えていた。

 この「影」と呼ばれる集団も水穂の「岩影」同様、諜報活動などに優れた能力を発揮していた。

 既に没落してしまったとはいえ、そこは流石に、腐っても鯛でそれなりに付き従う者がいた。

 だからこそ風見にすれば、逆に、彼らのためにも、きちんとした領地を確保し、報いてやりたいと心の底から思うのであった。


 今我に本気で付き従ってくれるものは、100名程度だ。この100名で何が出来るか、必死で考えなくてはならない。

 まともに考えて、三川に向かうのは自殺行為だ。

 情けない話だが、水穂も今の我では既に手に余る。

 すれば残るのは、庭先しかない。庭先に向かうのが妥当だろう。

 今さら水穂が使った様な二番煎じは使えないが、相手が寄せ集めの軍なら手はあるだろう。

 集団戦は個人戦とは違う、如何に速く陣を展開出来るか、如何に相手の陣の上手くつくことができるかが勝敗を分ける。


 そんなことを考えていたら、影から報告が入り、庭先の兵たちがよりによってあの赤井家の者の指導を受け練兵を開始したとの報告をうける。

 これを聞いて、風見の機嫌はますます悪くなる。

 「何が何でも庭先を取り返す。」風見の目に強い決意が宿った。


 といってもやはり、敵も練兵を始めたとなると、いくらこちらが百戦錬磨の100名だといっても、100名程度で、正面突破を図るのは無理がある。

 それに、相手はその気になれば、砦から出てこないという選択肢もあるわけで、そうなると100名ではまず手も足もでない。

 やはり何か搦め手から攻めるしかないか。


 風見は考える。「何にしても冬の間は向こうもこれ以上攻めて来ることはあるまい。今のうちに何か準備をして春に備えるのが得策か・・・」

 そこでもう一度影を呼んで、先程の調略の話を聞いて相談を始める。

 風見が聞いた三條茜を嫌っている人物とは、1人目は意外でも何でもない次席家老の伊藤上総である。

 この2人の仲の悪さは水穂ではある程度誰もが気づいていることなので、これだけだったら誰も驚かない。

 風見を驚かしたのは、影が調べあげたもう1人の存在である。


 それは、風見が全く想像もしていない人物であった。

 ただ、その名を聞いて、風見は「これでいろいろな手が打てる。うまく行けば、俺たちがやられたように、水穂を2つに割ることもできる。」と1人でほくそえんだ。

 そして、影と今後どのようにその人物と連絡をとり、支援を行っていくか相談し始めた。

 同時に、上総とどのように連絡をとっていくかなどについても具体的な話は、既にかなり進んでいるようであった。

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