第78話 未亡人
庭先に帰ると、あちこちで、引っ越しが行われていた。
旧三川兵は言うに及ばず、水穂からもかなりの人数が来ている。
正直、これまで庭先では殆ど人の異動等はなかったろうから、かなりの衝撃だろう。
それに言って見れば、隣人を殺した敵がこれまで見知った人の家に勝手に入ってきて住むというのだから、今まで庭先に住んでいた者にしてみれば、あまり面白い話ではないだろう。
出来るだけ反感を減らすためにもいろいろやることが山積みだ。
早急に取り組まなくてはならないのが、未亡人対策だ。
きちんとした後継ぎがいるものは、基本的にそのまま家督相続を認めたので問題は少ない。
問題は、後継ぎもろとも雪崩に巻き込まれて亡くなってしまった場合だ。
咲の様に、武芸に秀でていれば、女性(未亡人)であっても、家督を認めることとしたが、該当する者は殆どいなかった。
更に厄介なのが、後継ぎがいても、それが幼すぎた場合だ。
子供が12、3歳位になっていれば、ある程度の役にはたつ。
しかし、5,6歳ではまだなにも出来ない訳で、何もしていない者に対して、今まで通りの俸禄を払うというのは無理がある。
かといって、そうした者達を見捨てれば、間違いなく反感が強まる。
そこで、妥協策として、後継ぎ(子供)が10歳以下の場合は、俸禄を半分にすることとした。
そして、それ以降は、その後継ぎの働きを見ながら、どこまで戻すか決めることにした。
しかし、何にしても未亡人達の仕事をつくらなければならない。
売春など仕事につかせれば簡単なのだろうが、そんなことをさせれば、「武家の者になんということを」という話となり、それこそ何が起こるかわからない。
仕方がないので、まずは何が出来るか確認する。
武家の娘でそれなりに教育は受けているので、読み書き、そろばん、家事、裁縫などは一通りできるようだ。
さて、何がをさせるかだが、後継ぎがいなければ、住むところもないので、とりあえず彼女らを一ヶ所にまとめて何かをさせることを考える。
裁縫でもと思ったが、皆、自分達(家庭)で出来るので、誰も頼む人がいない。
農作業の手伝いでもと思ったが、やはり力仕事はどうしても、女性には不利だし、中には、これまで全く農作業をやったことがない者もいる。
「女性ならではの仕事」と思った瞬間、思いだしたのが、三川にいたとき、ある商人からふと聞いた蚕だった。
それは信三のところに遊びに行った時のことだった。
出入りの商人が、西の方に絹製の着物を売りにきており、暇つぶしに話をしていたことがあった。
その時、その商人が話していたものに、「蚕から生糸を取り出すには、男性の太い指では駄目で、女性ならではの細い指先でなくてはなりませぬ。」というのがあった。
更に蚕はやっかいで、幼虫の時は、朝から晩まで餌を食べるので、その世話が大変で、農家に片手間にやらせてもできず、困っていると話していたのを思いだした。
だったら、そのままこの未亡人たちにそれをやらせればよいのではないかと考えたわけだ。
時間もあるし、農業もできないとなれば、朝から晩までの世話も可能だろう。
それにそれなりの学もあるから、ある程度やり方がわかってくれば、自分たちで経営することも可能になるだろうとも考えた。
さて、誰を交渉にやるかと考えたが、正直荒木算造以外の者をしらないので、彼を呼んで計画を話す。
すると、彼は、「大変結構なこと。」と同意したうえで、「そういうことなら、私より適任の者がおります。」と言い出した。
「誰か?」と聞くと、「庭先に行商に来ている集団がおるのですが、その者達がなかなか交渉がうまく、うってつけかと。」と言ってきた。
どこかで聞いたような集団だと思っていると。
算造は更に、「その中には女性も結構いるので、彼女たちの苦労も良くわかってくれるのではないでしょうか。」と言ってきた。
その瞬間、あの集団かと思うと、同時に、俺たちに福音をもたらしてくれた彼女たちだったら、この未亡人たちのためにも役にたってくれるのではないかと思えた。
交渉の許可を与えて、これで1つ問題が片付いたと思うと同時に、俺は更に難しい問題、この旧三川、庭先、丹呉の寄せ集めの集団(兵)をどうやって、春までにまともに戦争ができる集団に変えていくかという更なる難問に頭を痛めていた。
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