第6章 信夫攻略2

第77話 同盟

 当然、いろいろ問題は残っているが、一番大きな問題は片付いたので、後は十蔵に任せて、三川に行くことにする。

 庭先と丹呉の攻略が終わったので、その報告もあったし、更に今後の信夫攻略についても、相談したいことがあった。

 

 これからは、皆が所領を持つようになったし、家来の数も増えてきた。

 今までの様に何でもかんでも十蔵にやらせる訳にもいかない。

 実は今回、咲を侍大将に推挙するにあたり、十蔵にも「お前も侍大将になってはどうだ?」という話をしたのだが、「自分は今のままで。」と言われ、あきらめた経緯がある。


 十蔵には、「下手に部下を持つと、その面倒に時間をとられ、若の面倒を見る時間がなくなってしまうので。」と言われてしまった。

 口では怒ったが、内心嬉しくもあったのが、本当のところだった。


 前回の失敗があったし、既に克二は掛け値なしの当主となっているので、予め克二に面談の予定を入れておく。

 ただ、前回も思ったが、取り次ぎの担当が煩わしくて仕方ない。

 何故こいつらは自分が領主でもないのにこんなに偉そうにしているのか不思議で仕方なかった。

 今回も克二は、幸い昔のまま俺に接してくれた。


 庭先と丹呉を攻略したことを話すと、当然既に報告は聞いていただろうが、俺から直接話を聞きたがった。

 一通り話が終わると、俺の方から当初の約束通り、水穂と三川の軍事同盟と庭先、丹呉の支配権の確認を行う。

 2国の支配権については、特に何の問題もなかった様だ。

 三川にして見れば、無理にこの2国を支配下においたとしても、今のままでは飛び地になってしまう。

 それ以前に最大の理由は、あんな山岳の小国等、どうでも良いと言うことであろう。


 ただ、軍事同盟については、やはり家臣から、格の問題とか、水穂ごとき小国がと言う意見があり、今すぐには難しいらしい。

 だったら力を見せれば良い訳で、克二に春になって雪が融けしだい、残る信夫8国の攻略を進言する。

 つまり、三川が南から、水穂が西から攻めて、一気にもう4国程落としてはどうかという話をしたわけだ。


 三川は、昨年内乱があった関係で毎年恒例の秋の信夫攻略をしていない。

 今となっては既に落ち着いているだろうから、春の攻略は悪い話ではない。

 それに、もし俺が言った通り、本当に4国が落ち、残り4国となれば、そのまま、ほおっておいても、同盟関係は瓦解するだろうから、来年を待たずに、三川念願の信夫攻略が達成出来るかもしれない。

 克二は俺の説明にかなり興味をひかれた様だ。

 「春の信夫攻略について、前向きに検討しよう。」と言ってくれた。


 退席しようとすると、「久し振りに来たのだから、信三にあって行け。」と言う。

 何でも、未だにかつて住んでいた館に、西の方と、わずかな身の回りの世話をする者に囲まれて、そのまま暮らしているという。

 かつては領主である葛川隆明が暮らしていたので、訪ねる者も多かっが、克二は別に都の暮らしにも憧れているわけではないので、そんな防御の難しい寝殿作りの館ではなく、基本的に城で暮らしている。


 結果、今では訪れる者も少なくなり、「ひっそり」という言葉がぴったりの生活を送っていた。

 俺が訪問すると、信三は変わらず喜んでくれた。

 ただ、既に以前の「人質」と立場が変わっていることも理解しているようで、それなりに気をつかってくれているのがどこか痛々しい。


 西の方は相変わらず、信三の傍にいることが多いのだが、やはり俺に対する視線は以前とは変わってしまっている。

 口では「よく来てくれた。」と言いながらも、あきらかに前とは態度が異なっている。

 確かにあれだけのことをさせてしまった以上、俺に何のわだかまりもないはずはなく、それも仕方ないかと思う。


 そんなことを考えていると、西の方が「そなたと初めて会った時と、大分立場が変わってしまいましたね。」としみじみとした口調で言ってきた。

 俺は何と返事をしたら良いか躊躇していると、「妾はとりあえず、今の生活に満足しています。」とぼそっとつぶやかれた。


 確かに今の信三なら、ある意味忘れ去られた存在になっており、誰かに疎まれることも、命を狙われる危険もないだろう。

 これも1つの生き方かと思う。

 別にそうした生き方を否定するつもりはない、ただ、俺はそういう生き方は良しとしない。

 ただ、それだけだと思いながら、彼らの住むところを後にした。

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