第66話 進軍4
俺たちが冬の最中に進軍を開始したことは当然大きな話題となる。
ひとつ目の理由は農閑期で、皆基本的に暇を持て余しているからだ。
雪の降った冬に出来ることは限られているし、雪景色も最初は面白がっているかもしれないが、所詮は白一色で途中から飽きてしまう。
そこへ派手な格好をした武者が出兵行進をしているとなれば格好の見せ物となる。
もうひとつの理由は、雪が降ってろくに進軍も出来ないこの時期に、あえて出兵する馬鹿者の顔を見てやれと言ったところであろうか。
わざと先に城に寄って出兵の挨拶もしてきたので、家臣も俺たちの見送りのために道に立っているので、何事と思う人たちが集まってきて、益々見物人が増える。
その中を敢えて速度を落として進む。
家臣達の目はどこか冷ややかだ。
ま、詳細な作戦は慎介以外には伝えていないのだから、仕方がないと言えば、仕方がない。
ただ、俺が玉砕覚悟で、敵兵に突っ込んで旧三川兵を減らして帰ってくることでも期待しているかの様であるのは何とかしてほしいと思う。
たとえ、そうなれば、自分たちの俸禄から彼らに分け与える分を減らすことができるとしてもだ。
そんなことを思いながら進んで行くと町外れに出て人気が少なくなる。
昼過ぎに出発したが、街を出るまでに、いろいろ道草を食ったので隣村に着いた頃には、既に辺りは暗くなっていた。
当初の予定通り、ここで一泊する。
翌日は当然朝から進軍を開始するが、雪の影響もあり、余り速度は上がらず、国境の山のふもとの村で一泊する。
更にその翌日、山を登って行くと、遠くに敵兵が見える。
山頂付近にはもともと庭先の砦が設置されている。そして、その手前にこちらを攻めるのに便利な様に陣を敷いている。
定石通りだ。戦争は勢いが大事なので、下から上より、上から下を攻める方が圧倒的に有利だ。
さらに上から物を落とす等の攻撃が出来るので、どうしても高いところに陣を敷くことが多い。
数は千人程であろうか。
恐らく、俺たちの出兵が余りに常識外れの時期だったので、後ろからの援軍は間に合わず、水穂に接している2国(丹呉、庭先)だけでも、総力を上げて対峙することななったというところだろうか。
皆に雪の上でも体重を回りに分散させることで雪の中に埋まり難くなる、かんじきをきちんと装備しているか再度確認する。
俺たちは何があろうとも予定の地点までは進まなくてはならない。
敵兵とはまだかなり距離がある。
向こうも雪の中では中々動きにくい訳だから、やはり予想通り弓で攻撃をしてくる。
上からの弓攻撃は正直きつい。それでも、板戸で弓を防ぎながら進む。
板戸の後ろは予め竹で補強してあるので、少し位の弓ではどうということはない。
少しづつ距離を縮める。
ひたすら我慢比べだ。
ようやく予定の地点にたどり着いた。
もう少し頑張らなくてはならない。
更に距離を縮める。当然弓矢での攻撃は更に激しさを増してくる。
当然、向こうもこのまま弓矢での攻撃では今一決定的になりえないことは分かっている。
そうこうしている間に、わが軍は、そこに板戸を立てて、簡易の陣を敷く。
俺たちがこれ以上動く気がないのを確認すると、敵兵が一気に俺たちを飲み込む様に進軍を開始する。
それを見て、小夜に合図を送る、同時に俺たちも、撤退を始める。
その時、少し小高いところで、聞きなれない音が聞こえたかと思うと、「ずん」という音がして、かすかにあたりが揺れたような感じがした。
何か不思議な気配がしたと同時に、何か迫ってくる音が段々大きくなってくる。
それが聞こえるや否や、最初の打ち合わせ通り、俺たちは敵のことなど気にせずに、ひたすら予定地点まで走って逃げた。
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