第25話 学校2

 俺と十蔵は何が出来るか考えた。

 厄介なのは、俺は所詮人質の身で、この国の者ではないことだ。

 下手に動くと、間者と思われかねない。

 そうすると選択肢は1つしかなかった。

 俺が毎日通わされている学校である。


 幸いエリートと自称する者たちが集まるところだから、それなりに身分のある者の子弟が揃っている。

 こいつらに食い込むことができれば、間違いなく役に立つ。

 しかし、問題は俺が同級生と全くうまくやれていないことだった。

 以前話した通り、学校の授業は学問に関していえば、単なる暗記で、俺はそうした授業を嫌っていたし、エリート意識丸出しの同級生も、正直馬鹿にしていた。


 俺に親しくしてきたのは多助と川路という下級武士出身の二人だけだった。

 彼らにしても本気で俺を慕っていた訳ではない。

 学校では建前上皆同じ学生ということになっているが、当然建前に過ぎず、親の身分がかなりものをいうのが現実だ。

 彼らは下級武士と言うことで、いじめられていたので、俺に庇護を求めて来たに過ぎない。

 さすがに、そいつらも三條家嫡男で、克二と親しくしている俺に直接手出しをして来ることはなかったからだ。


 少し補足しておくと、この学校に下級武士出身の者はそう多くはなかった。

 理由は極めて簡単で、漢文の試験があるからだ。

 こればかりは小さい頃から教育を受けてこなければかなりきつい。

 下級武士でも親が教育熱心だったり、そちらの方に理解があれば問題はないが、どうしても生活が第一となると子供に勉強される時間が制限される。

 その点、生活の苦労のない上流階級なら好きなだけ勉強されることができるし、所詮は暗記なので、どれだけ時間をかけたかが大事となるので、圧倒的に優位なのだ。


 とりあえず、俺は授業態度を改めることにした。

 真面目に授業に参加することとし、大きな声で本を読むようにしたし、教師の質問にも、積極的に答えることにした。

 教師の評価は直ぐに変わった。

 夕食の時、五島種臣からも、「最近、頑張っている様ではないか。他の教師も誉めていたぞ。」と言ってもらえる様になった。


 問題は同級生だ。

 こちらから無理をして、明るく話しかけても、胡散臭そうな視線しか返してよこさない。

 ま、いままで露骨に馬鹿にしていた様な態度しかとって来なかった者が、いきなりにこやかに話しかけて来ても薄気味悪いというのはわからないではない。


 本来、俺が通っていた学校は文武両道をモットーとしていた。

 「武」は言うまでもなく剣術である。

 それも戦国の世らしく、実践形式を重んじるものであった。

 死んでしまえばお仕舞であるから、使えるものは何でも使ってよく、格闘技(打撃系や投げ技)を組み合わせて使うことも良しとされていた。


 結果、怪我人が後をたたず、高級武士の子弟を預かる学校としては、少し取り扱いに困っていた。

 その為、「武」の方は選択として、希望する者だけが、怪我をしても厭わないという条件で参加していた。

 俺は、これまで武術を人に見られたくないが故に、不参加を続けてきた。

 しかし、どう考えても教室ででかい顔をしている奴は、この「武」でそれなりの結果を残している者である。


 なりふり構っている場合ではないので、俺は「武」にも参加することにした。

 学校には下は10歳から上は15,6歳位までの者が通っていた。

 俺は12だから、ある意味真ん中位だが、それでも15歳の最上級生と比べるとものすごい体格差があった。

 結果、道場では、俺より一回りも体のでかい奴が、重そうな木刀を、軽々と振り回しているという話だ。


 俺が道場に入った時、皆が俺に注目した。

 当然だろう、いままで一度も参加したことがない俺が急に道場に来たのだから。

 多助と川路をいつも馬鹿にしている(「虐めている」とも言う)俺の前に、青柳勝間がやってきた。

 青柳という名から分かる通りこいつは次席家老を排出しているあの青柳家の一族だ。

 本家筋ではないが、父親はそれなりの役職を勤めていると聞いている。


 「これは、これは、どこぞの坊ちゃんは怖くて剣の練習には参加しないのではなかったんですか。」

 「いつもどおり女中の後でも追いかけていれば良いのではないのですか。」

 と笑いながら俺をからかってきた。

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