第24話 十蔵の教え2
俺はかなりの衝撃を受けて居候先に帰った。
帰る途中、ぼそぼそと何か独り言を言っていたらしい。傍目に見ればかなり危ないやつに見えたかもしれない。
しかし、誰かに話をしないと耐え切れないと思った。
当然相手は十蔵しかいない。
正直に俺がかなりの衝撃を受けたことも話した。
当初、俺は十蔵は俺に同情してくれる、慰めてくれると思っていた。
ところが聞き終わるや否や、十蔵から「何を当たり前のことで衝撃を受けているのですか?」と言われてしまった。
俺は頭が真っ白になった。
十蔵は続けて言う。「克二様も、信三様も、何故若様とお付き合いなさっていると思いますか?」
「どうも、若様は克二様は若様の知識に感心したからご学友として、信三様はいろいろな遊びを知っていらっしゃるから遊び友達として、お目にかなったと思ってらっしゃるかもしれませんが、もし若様が一介の町人だったら彼らは同じように接してくれたでしょうか?」
確かにその通りだ、土台一介の町人にはお目通りすらかなわない相手だ。
俺は自分の彼らに対する下調べがうまくいって彼らを利用できると考えていた。
しかし、彼らも同じように俺を値踏みしており、俺が使える相手かどうか、信頼できる相手かどうか確かめていたというわけだ。
俺は急に笑いがこみ上げてきた。
どうも俺はお人よしというより、己惚れていたようだ。
「全てうまくいっている、自分の計画通りに行っている。」と思っていたが、これは相手(克二や西の方)も同じだったに過ぎない。
十蔵がそんな俺を見ていった。
「以前、若様は私が小夜にどうしても勝てない時、私が小夜の関節をとることに意識が集中してしまい、小夜も私の関節を狙っているということを忘れているとおっしゃたことがありました。」
「今回、同様に若様は相手を利用することにばかり意識がいっていたために、相手も同様に若様を利用なさっているということを忘れてしまったいたのではないでしょうか?」
まさにその通りだ。
俺が相手を利用できる距離にいるということは、相手も俺を利用できる距離にいるということで、何故こんな当たり前すぎることに気付かなかったのかと腹が立つ位だった。
ただ、同時に気が楽になった。
また、俺に利用価値があることが少しうれしくなった。
領主の葛川隆明に初めて会ったときは、俺に何の取引材料もなく、良いようにあしらわれたことがすごくくやしかった。
しかし、今考えてみると、何もないわけではなかった、俺が利用できていないだけであった。
小さい頃、本をあちこちに放り出しておき、どこにあるかわからなくなり、探している時に父親に散々言われたことと同じだ。
「きちんと整理されていない資料、すぐに使えない資料は、ないのと同じだ。」
はっきり言って、俺はあまり父親を尊敬していないが、この言葉だけは妙に印象に残っている。
俺は克二や西の方だけではなく、勝一や秋山風見、青柳新右衛門、ひいては葛川隆明ともやりあっていかなくてはならない。
彼らとやりあっていくためには駆け引きの材料、つまりは俺の利用価値が必要だ。
俺にどれだけの利用価値があるか、それを必死に探さなくてはならない。
ないなら無理矢理にでも、増やしていかなければならない。
もし無理なら、なくても、まるで何か持っているように相手に思わせなくてはならない。
そう考えたら、さっきまで受けていた衝撃が馬鹿みたいに思えてきた。
と同時にやることが山のようにあることに気付いた。
何にしても味方が少なすぎる、切り札が属国のような取り扱いを受けている水穂の国だけではあまりにも弱すぎる。
克二や西の方にしてみれば、利用価値とみなしてくれるかもしれないが、秋山風見や青柳新右衛門は言うまでもなく、葛川隆明にしてみれば、併合してしまえば済むだけの話だ。
またしても、俺は自分の考えの甘さを呪った。
ただ、落ち込んでいても仕方がない。
やるべきことはたくさんあるのだ。俺は何をなすべきか、十蔵と本気で相談し始めた。
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