第23話 会談

 克二に会った際に、西の方より「内々で会いたい。」との連絡があった旨を伝えると、克二も真剣に考え出した。

 克二も彼女と会うことについては、異存はない。

 しかし、ここで会ったのでは人目につきすぎる。

 問題は、どこで会うかだが、克二も西の方も懇意にしている寺でどうかということでまとまった。

 別々に訪問したということにしておけば、誰かに見られてもたまたま会ったという形にもできるので、それが良いのではないかという結論に至った。


 西の方にも伝えたが、彼女もそれで異存はなかった。

 西の方が一人で外出しては目立つので、信三の外出に付き添うという形で、出掛けることにした。

 最初は部屋から出掛けることさえ渋っていた信三であったが、俺と遊ぶ様になってから戸外に出掛けることは、それほど嫌がらなくなった。

 それでも屋敷の外に出掛けるのはかなり怖かった様で、三ケ月位かかってやっと屋敷の外に出れるようになった。

 今回出掛ける寺にも、既に二三度出掛けているので不審がられることはないであろう。


 俺と信三、西の方の三人が寺の一室で待っていると、1時間程して克二がやってきた。

 予定通りである。

 あまりに似通った時間に克二と西の方が寺を訪問すれば、あやしがる者が出るかもしれない。

 このくらいの時間はあけなくてはならない。


 克二が入室したのを確認し、退席しようとすると、克二がまたしても「ここにいろ。」という。

 そして、「いい機会だから言っておくが、茜が自分を利用しようと思っている様に、自分も茜を利用しようと思っている。」と言われた。

 その時、俺は自分がどのような顔をしていたか想像出来ない。


 克二は、続けて「西の方も同じ考えではないか?」と西の方に尋ねた。

 ゆっくりと頷く西の方。

 更に克二が続ける。「自分は次男で、後ろ楯がない。今回かろうじて麻生家という味方を得たが、あまりに心もとない。」

 「そこで、使えるものは全て使いたい。」

 「例えば水穂の国の支援であったり、西の方が青柳家に持っているコネだったり」とはっきりとした口調で話す克二。


 それを聞いて俺はやっと自分の立場を理解した。

 俺は、良いように領主の息子に取り入ったつもりだったが、彼らには彼らの打算があったのだ。

 同時に、俺は自分の国を巻き込んでしまったことを理解した。

 克二がいろいろ考えていても不思議ではなかったが、西の方までが、そうした考えを持っていたということに今気付く様では、相変わらず、俺はお人好しのままだ。


 そうであれば、西の方が、いろいろ理由をつけて、俺が信三と一緒にここに来ることに、拘ったのにも頷ける。

 俺に、故郷を巻き込んでしまった後悔や恐れがなかったといえば、嘘になるが、今となっては腹をくくるしかない。

 俺は、大きく息をつくと、「わかりました。」と大きく返事をした。


 とりあえず、俺たちは克二を何とか、次期領主候補として認められるように尽力することで一致した。

 克二に当然異存はないし、西の方にしても、もし勝一が領主となるということは、これまで以上に正室(母親)である北の方の力が強くなってしまうため、何としても避けたい事態であった。

 西の方は身の危険も感じている程で、もしかすると俺に接近してきたのも最悪、水穂の国に逃れるという考えもあってのことかもしれないと今さらながらに思ったりした。 


 そして皆の認識が一致したのは、俺たち3者が共同関係にあるということは絶対秘密にしておかなければならないということだ。

 ただでさえ、俺が克二と信三の間を行ったり来たりしているので、両者の関係を怪しむものがいつ出てきても不思議ではない。

 しかし、俺達には全く力が足りない。

 今、下手に勝一陣営に怪しまれて、何か因縁をつけられたりしたら、対抗する手段がない。

 特に俺は水穂の国の領主の息子だ、そうした疑いがかかれば、国もただではすまないだろう。


 であれば、表面上は克二と信三(西の方)が敵対しているようにする位でちょうど良いのではないかとの話にまでなった。

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