第21話 初陣1
小夜(岩影)を通して、麻生家がどのような状態だったかを探らせていたが、次の日には報告を聞くことができた。
返事が遅れたことからわかる通り、かなりもめたというのだ。
麻生家当主麻生辰則は、実はかなり消極的だったらしい。
理由は言わずもがなで、秋山・青柳の2大巨頭と事を荒立てなくないということだ。
かといって、夜盗退治が領主から克二に下った命令であり、それを受けて克二が使命してきたとなれば、断るにもそれなりの理由がいる。
一番角が立たないのは、病気にでもなることであろうが、すれば代わりの者を立てろといわれるだろう。
「自分には荷が重すぎるので、秋山家を頼ってくれ」というのも癪だし、下手にそのようなことして本当に秋山家を頼られでもしたら、これまで以上に秋山家に馬鹿にされるのは目に見えている。
結果「あーでもない。こうでもない。」と時間を無駄に費やしたものの、適当な理由が見つからず、やむを得ず引き受けたということらしい。
どうも麻生家の当主はかなり優柔不断な性格らしいということはよくわかった。
更に、麻生家はやはり秋山家とは事を構える気はない様で、あくまで領主の命令による「夜盗退治」に協力するという形をとるだけで、反主流派をまとめる気などはないということも良くわかった。
とすれば麻生家はこれ一回限りで、克二から手を引こうとするかもしれない。
最悪そうならないように何か策を講じなくければならない。
そこで、次に克二のところに行った際に、克二にそれとなく麻生家が克二を支援することについて積極的でないという噂を聞いたと、話を振ってみた。
これについては、克二も思いあたるところがあった。
何だかんだ言って支援してくれたと浮かれていたが、土台、返事が来るのがあまりにも遅すぎた。
どう考えても迷っていたことは明らかである。
克二にしてみれば、ここで麻生家に手を引かれては、もはや頼るべき後ろ盾がないことはあきらかだったので、さっと顔色が変わった。
そこで、二人してかなりの時間をかけて作戦を練ることとなった。
克二が夜盗退治に出かける日が来た。
一応は初陣であるので、城内で出陣式が行われ、そこには領主である葛川隆明も参加していた。母親である側室、東の方も心配そうに克二を見ている。
俺も克二の意向でかろうじて参加を認められたが、初めて秋山家当主秋山風見、青柳家当主青柳新右衛門を拝見した。
誰も俺に説明してくれなかったが、領主の傍にいる二人なので、まず間違いないだろう。
特に秋山風見の態度は露骨で、領主の機嫌をとることにかかりっきりで、今日の主役が克二であるということなど全く理解していないようだ。
領主が父の情けで参加する以上、やむを得ず参加しているという感じが明らかに見て取れる。
克二が俺に何を求めているのかわかったような気がした。
出陣の時間が来た。
克二を先頭に、麻生辰則、麻生家の家臣が続く。
領主の手前それほど露骨ではないが、秋山風見は明らかに麻生辰則を馬鹿にしている感じが見て取れる。
確かに、麻生辰則の風貌は正直今一ぱっとしていなかったし、小夜の報告で俺も優柔不断ぶりを散々きかされていたので、「さもありなん」と思っていた。
そういうい意味で以外だったのが、青柳新右衛門の行動である。
彼は秋山風見とは全く正反対に、静かに頭を垂れながら、克二と麻生辰則の出陣を見送っている。
これを見た時、俺は無性に青柳新右衛門という男に興味がわいた。
ある意味、秋山風見がどのような男かは既にわかったような気がしていた。
ただ、青柳新右衛門が何を考えているのか、全くわからなかった。
領主の傍にいる時も、新右衛門は静かに笑みを浮かべて立っているだけで、その立ち居振る舞いから何を考えているのか全く見て取れなかった。
これは岩影に探らせる恰好の目標ができたと、1人ほくそ笑みながら、俺は出陣を見送っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます