第18話 学校
斯様にして、俺は三男の信三とは一日おきに会って遊ぶことになったが、克二とも頻繁に会うようになっていた。
克二はもっと頻繁に俺と会いたいようだったが、同じ側室の子として、信三のことは彼も気に留めていたので、あの信三が何とか外に出れるようになれるのであればと一歩譲った形だ。
前に述べたように彼らの住んでいるところは、基本的に同じ館の西の部屋と東の部屋であるかの違いだけだったので、俺にしてみればどちらに行こうが大差はない。
正直俺は克二の好きな唐の歴史にはあまり詳しくない。
ただ、一通り本は読んでいたし、俺の好きな軍記物と歴史はかなり関係が深かったので、付け焼刃でもボロがでない程度には話しができた。
それに克二にしてみれば、俺より知識があるところを示せるところがすこし嬉しかったようなので、その方がかえって都合が良かった。
何だかんだ言って、週の半分は信三のところへ行っていたし、克二のところへも週に1,2度の割合で通っていたから、午前中学校が終わると、殆ど毎日どちらかのところへ通っていたことになる。
これは俺にしてみれば、極めて都合が良かった。
もし彼らのところに通っていなければ、午後も五島家で主人の種臣と一対一で講義をうけることになっていたであろうから。
別に講義自体が嫌なわけではなかったが、実際は講義という名の監視であることが明らかだったので、毎日となると耐え切れた自信がない。
領主の息子からのご指名で会いに行くとなれば、誰も反対はできないし、行き帰りはさすがに自由だったので、小夜や十蔵と落ち合って多少なりとも武芸の稽古をすることもできた。
三川の学校で習うことは最初期待していたほどのものではない。
ひたすら唐の本を読み、教師が教える解釈を聞き、本を暗記するだけである。
間違っても教師の意見に反論などは許されそうにない雰囲気で、皆ひたすら本を読んでいるだけである。
学校で使っていた本は俺も読んだことがあったが、暗記まではしていなかったので、入学したばかりのとき、俺の評価は最低であった。
午後は領主の息子に会いに行っているので、基本的に夜しか時間がない。
夜になると、十蔵と共に本を開き、ひたすら自習をし、わからないところがあれば、朝の朝食のときに主人の種臣にまとめて聞くという生活を送った。
もともと覚えているかどうかが問われているわけであるから、覚えてしまえば何ということはない。
それに暗記などは、どれだけ繰り替したかが問題なので、1ヶ月も経たずに追いつくことができた。
たったこれだけのこと(本に書いてあること)を覚えているかどうかで、俺のことを馬鹿にし、見下していた葛川家の家臣の息子(生徒)たちが哀れになるくらいだ。
もっと情けないのが俺が追いつくや否や、今度は「教師の家に居候しているからだ」とか、「特別にひいきしてもらっているからだ」などということを言い出すやつもいたことだ。
当初は知らなかったが、この学校には武士の子弟であれば誰でも入れるというものではなく、試験があったらしい。
どうもこの学校に通っている奴らは、「自分は試験に受かったエリートだ」と思っているところがあるようだった。
それが、試験も受けずに特別枠で入ってきた俺が追いついてしまったので面白くないというところもあったのだろう。
ただ、彼らが誤解しているのは、唐の本(漢文)は漢字の読みと書きを覚えるのが大変なだけだということだ。
俺がしてこなったのは暗記だけで、小さい頃から当然読み書きは、やらされてきているし、それなりに本も読んできている。
漢字の意味は大体わかるわけだから、自信のないところを教師に確認さえすれば、基本的に本の内容は理解できる。
その後は、繰り返し読んでいれば、本を覚えることはそんなに難しくない。
俺にしてみればたったそれだけのことであるが、それができることが彼らの誇りだったようである。
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