第14話 次期領主1
俺がしでかしたことは当然、居候先の五島家に当主には真っ先に連絡がいっているだろうから、城内で主人の五島種臣と落ち合った時には、何か一言あるかなと思っていたが、特には何も言われなかった。
彼は明らかに何か言いたそうな顔をしていたが、少なくとも俺は言われたことは行ったわけで、どういったらよいかわからなかったというところであろう。
居候先に帰ると、十蔵が「やれやれ」という顔をしている。
しかし、そんなことはどうでも良い。
俺は葛川家から一方的に言いように難題を押し付けられ、それにどう対処するかを考えるだけに終わってしまている現状や、今回のことで思い知った俺の甘い発想について十蔵に話した。
彼も思うところがある様で、真剣に考えだした。
そしてどうするかという話になったが、「これまでのように、葛川家から何かが来るのを待っていてはだめだと」いうことでは一致した。
では具体的に何をするかだが、今の俺たちにできることは限られている。
とりあえず思いついたのが、次期領主となるであろう葛川隆明の3人の息子に会うことだ。
彼らの名前は上から勝一、克二、信三といい、歳は16、13、11歳と俺と大差なかった。
勝一だけが正室の子で、下2人はそれぞれ別の側室の子である。
それに勝一だけが既に元服しており、初陣にも参加済みであった。
他に俺が知っていることといえば、勝一はどちらかというと好戦的な性格らしく、初陣でもかなりの戦果を挙げたということくらいだ。
結果、誰が次期当主になるか正式には決まっていなかったが、正室の子という生まれ、歳の順、功績という点からも、勝一が他の2人より一歩先を歩んでいるのは間違いなかった。
克二は勝一に比べて多少穏やかな性格で本が好きという話位しか流れてこない。
信三に至っては全くといってよいほど何も情報がなかった。
自分が知っていることを整理してみて、如何に情報量が少ないかに愕然とした。
間違いなく三條家では、岩影に情報収集をさせているはずであるが、俺はそれを積極的に利用しようと思ったことすらない。
これ以上自己嫌悪に陥っても何も良いことはないので、気を取り直してできることを考えていくことにした。
幸いここには小夜がいる。
何か3人の息子について知っていることはないか聞いてみるが、俺が知っている以上のことはしらない様子であった。
何とかして岩影と連絡をとり、3人の情報をできるだけ多く俺に伝えるよう依頼した。
「言うまでもないことだが、五島家の者たちには見つからないように」と念を押したが、これについては「影」に生きてきた者として、絶対の自信を持っているようであった。
翌日、朝一番に五島種臣と話をし、3人へのお目通りを正式に依頼した。
領主の前であんなことがあったばかりなので、「やれやれ」という感じであったが、三條家次期領主が葛川家次期領主に面談をとなると断ることもできないはずだ。
実際、その次の日の午後には正式な日程の連絡が届き、3人と会う日が通知された。
正直こんなに早く決まるとは思っていなかったので、びっくりした。
岩影からの情報は間に合うのかとやきもきしたが、杞憂に終わったようで、通知を受け取った日の夜には小夜から3人についての詳しい説明を受けることができた。
こちらの速さにも正直びっくりした。
いつの間に連絡をとったのかもわからなかったが、いつ情報を受け取ったのかも全くわからなかった。
さすがは「影」である。
それによると、長男勝一は単純に好戦的というわけではなく、性格的にもさっぱりしたところがある様で、武闘派と呼ばれる者たちからかなりの信頼を得ているらしい。
初陣での成果も、当然それなりのお膳立てをしてもらった結果であるようだが、それをさせてもらるような信頼関係を築いてきた結果ともいえる。
次男の克二はやはり本が好きとのことだったが、具体的に愛読している本の名前まで教えてもらえるとは思ってもいかなった。
「影」恐るべしである。
克二の周辺では、正直長男が次期領主の座をめぐる争いで先んじられていることに対して、大分あせりがあるようであった。
何でも今更、長男以上の軍功をあげるのは難しいので、何とか内政面における領主の補助という形で食い込めないかいろいろ画策しているらしい。
ただ、正室的にはそんな甘いことは許す気はないようで、できればどこかに養子にでも出してしまえという思惑もあるとのことであった。
これを聞いた時は、正直「大国は大国で大変だ。」と苦笑いを禁じえなかった。
三男の信三はどうもかなりの怖がりで、自分の部屋からあまり外にでることはないとのことであった。
これは側室である母親の影響がかなり強いようで、信三が小さいとき病気をしたが、それが正室から毒をもられたのではないかと思ってしまったようである。
結果、何かあると殺されるのではないかと疑心暗鬼にかかってしまい、常に自分の手元において、自ら作ったものしか食べさせないというかなり極端な育てられ方をした結果、こうなってしまったらしい。
正直、今では母親も大分後悔しているらしいが、下手に有能なふりをして、殺されるよりはマシと思っているようであった。
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