第15話 次期領主2 

 さて、会うとしても、初めて会う相手に全く手土産なしで会うわけにもいかない。

 次男、三男へはそれぞれ渡すものがすぐに思いついたが、長男へ渡す適当なものがない。

 おそらく刀あたりが良いのであろうが、まさか今自分たちが使ってるものを渡すわけにもいかないので、困っていると、小夜が「明日まででよろしければ、うちのものに用意させますが。」と言ってくれた。

 ただというわけにもいかないので、買い取る形で必要な代金を渡し、用意してもらうこととした。


 渡すものも準備でき、面会の日を迎えた。

 この順番にも葛川家の様々な思惑があるようで、当然の如く長男、次男、三男の順で会うこととなった。


 長男の勝一だが、よく言えば豪気という感じで変に気取ったところがない。

 刀を家臣を通して渡そうとしたが、いきなり歩いてくると鞘から抜いて自分で検分しだしたのは、少なからず驚かされた。

 そして一言「悪くない」とつぶやくと、満足そうに鞘に収めた。

 どうもこうした武具には目がないようである。


 こちらでの生活など他愛もない話をした後、これから他の兄弟2人にも会う話になった。

 すると「何故俺たち兄弟の名前には数字が入っているかわかるか?」と聞かれた。

 返事に窮していると、「どうやら親父殿は数字の入った苗字に憧れがあるらしい。」と言われた。

 「つまり、おまえの苗字が羨ましくて仕方がないらしい。」とまで言われたときには、苦笑するしかなかった。

 確かに、裏表のない性格のようであると確信できたことと、葛川隆明の一面を知ることができたのは、確かな収穫であった。


 次男の克二だが、これは思ったより簡単に打ち解けることができた。

 あらかじめ歴史好きと聞いたいたので、持ってきた本の中から、彼が好きそうなものを送ると、予想どおり食いついてきた。

 如何に情報が大事かということを改めに身にしみた。

 葛川家の家臣にも当然それなりの教養を持ったものがいるが、家臣は家臣である。

 領主の息子に対する遠慮もあるだろうし、それなりの気遣いもされているのが面白くないようだった。

 ある意味、対等に議論ができる相手ができたのが嬉しくて仕方がないようだった。


 帰り際に「これからも会いに来る様に。」とまで言ってもらえた。

 長男の周りに控えている人数に比べると明らかに克二の周りにいる家臣の数は少なく、待遇の差も見て取れる。

 もしかすると、「歴史好きの家臣がいても、長男への遠慮があり、こちらに来るのができないのか」などとも思った。

 そんなことを考えながら「喜んで。」と答えると、「次はいつ来れる?」と聞いてくる。 

 「いつでも」と答えると、「では来週」と具体的な日時まで決められてしまったのには、少なからず驚かされた。

 ただ、これはある意味、最高の成果といえる。


 三男の信三だけが俺より年下だが、確かに聞いていたとおり、かなりの怖がりで神経質そうであった。  母親で側室である「西の方」が同席し、返答は基本的にこの西の方が行っており、信三自身の声は殆ど聞くことができなかった。

 唯一関心を示したのがこちらが準備をした独楽を回したときである。


 どこにでもある白地の独楽に、俺自身が模様を手書きしたものを、三種類ほど準備していた。

 模様自体はたわいもないものであるが、まわして見るといろいろ変化するから面白い。

 中でも一番気に入ってもらえたのが、黒一色で書いてある模様が、まわすと色を発するものだ。 

 散々国許でいろいろな模様を描いて遊んだ際に発見した俺の自信作である。


 西の方の話によると、当然信三も独楽遊びをしたことがあるが、これほどまでに喜んだことはなかったとのことであった。

 献上される独楽はそれなりの絵師が見事な風景などを描いたもので、とまっているときは見事だが、まわしてしまえば何の絵柄だかわからない状態になってしまっていたらしい。

 「当たり前だが、独楽とはまわして遊ぶものだと、つくづく思い知らされたわ」という言葉をもらったときは、内心「してやったり」と思った。


 退席する際に、こちらからも「また遊びに来るように」との言葉をもらうことができた。

 ただ、こちらの場合はどうも引っ込み思案の信三の適当な遊び相手ができたと思われたらしく、明日もまた来いと言う話だ。

 午前中は学校があることを伝え「午後なら」と提案すると、具体的な時間を指定された。


 その時間に再度訪れることを約束し、退席した。

 ある程度の効果はあるとは思っていたが、これほどまでとは思ってもみなかった。

 岩影に集めされた情報がなければ、ここまでのことはできなかっただろうから、「敵を知る」ことの重要さを改めて思い知らされた形だ。

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