第18話 消えてしまった本文

 入力したはずのものが消えてしまった。どこかにいってしまった。自分が書いたはずの文章はかすかに頭に残っている。それは思い出のように曖昧としている。今この瞬間生み出しているようにも思える。

 思いつきやアイデアが発生する瞬間について書いていた……気がする。

 事実に妄想を付け加える。

 事実を別の見方で見る。 

 常識を疑い、潜る。

 ダイビング。

 自分が常識だと思うものを考えてみる。

 

 消えてしまったからこそ価値があるように感じる。

 それに価値があったと思いたくなる。

 失ってしまったものに対して強い価値を覚えてしまうのはなぜだろう。

 遺伝的なレベルで失うことへの恐怖が刻み込まれているのだろうか。



 冗談やジョークはどこか悪意を含みつつ、

 そのからかいが嘘であることを前提としている。

 親しみがあるからこそ、軽くからかえる。からかっても、それがからかいだと相手がわかっているからこそ、冗談になる。

 冗談に悪意が満ち満ちているとそれは攻撃になる場合がある。

 

 取り戻そうとして、書き連ねていく。


 風のそよぐ感触や、溶けたチョコレートが包装袋にくっつく最悪さとか、

 些細な日常的なことを頭の中で思い浮かべる。


 記憶。疑似記憶。

 昔のことを思い出す。事実。

 脚色。

 そこにあるなにものか。

 東奔西走して、手に入れるものがある。

 振り向けば世界の終わり。

 道の隣を流れる川に、川沿いの桜並木の桜の花びらが落ちていく。

 僕は橋の欄干に身をまかせながら流れゆくその光景をじっと見ていた。

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