第6話一日の終わり2
「アリス、お前今日まだ帰らなくてもいいのか?」
アリスが来てから早くも2時間程経とうとしていた。いつもなら、もう帰っている時間帯なのだが・・・・・・やはり何か変だ。
「えっ、もう、そんな時間!?」
そう言って、慌てて左手にはめている腕時計を見る。あ、俺が成人式の後にプレゼントしたやつだ。使ってくれてるんだ。選ぶの大変だったな〜。
「腕時計まだ使っててくれてるんだ」
「うん、デザインとか好きだから・・・・・・それに優羽ちゃんがくれたもだし、一生の宝物だよ」
「ん、最後の方なんて言ったんだ?」
「ううん、何でもない。そうだね、うーん、もっと優羽ちゃんといたいけど、さっきから咲ちゃんの視線が冷たいから今日はもう帰るね」
そう言って、バッグを持って玄関の方に歩いていく。
「駅まで送ろうか?」
まだ四月の5時は明るいとはいえ、女の子を一人で帰らせるのは危ない気がすると思いそう言うと、
「えっ、本当に!?いいの!?」
あまりに素直な返事に、
「う、うん。だって1人じゃ危ないだろ?」
と返しながら、咲の方を見るとすでに上着を着てきて、手には俺のお気に入りの黒のパーカーを持っていた。あ、地味とか言うなよ!黒が好きなだけだからな!そのパーカーを受け取って、
「咲、ありがとうな」
そういいながら、咲の頭を無造作に、しかし、優しくなでる。顔を赤く染めてうつむいてしまった咲を見て、素直な感謝になれてないのかな、と思いつつ、
「じゃあ、行こっか」
と咲の手をとって、アリスと一緒に部屋を出た。
外に出てみると空気はまだ暖かく、そして、明るい。空はオレンジ色に染まろうとしていた。駅に向かう道を歩きながら、道沿いに植えられた桜が散って葉桜だなーとか夕日が綺麗だなーなんて考えていると、隣から、
「なんだかこうやって歩いていると家族みたいだね」
とアリスが俺と咲の方を見てポツリとつぶやいた。俺はそう言われてみればなと思いながら3人の位置を改めて確認した。道路側を俺がその隣に咲が、そして、アリスといった感じの立ち位置。俺と咲は何かあった時が怖いから手を繋いでいる。そして、意外なことに咲はアリスとも手を繋いでいる。何があったんだろうかとは思いつつ、考えても仕方ないので考えないことにした。3人は駅につくまで俺とアリスの出会いから何からの過去の話をしながら歩いていった。(会話の内容は恥ずかしい話が多かったのでここには割愛)
アリスを駅まで送った、その帰り道。空と辺りが綺麗なオレンジ色に染まり、道には二人の影が長々と伸びていた。夕日に照らされている街道の桜を見ながら、綺麗だなぁと思いながら歩いていると、隣の咲が、
「アリスさんって不思議な人ですね」
そうポツリとこぼした。
「不思議な人って(笑)変人とか変わたっ人って言っていいんだよ。あ、どっちも同じか(笑)」
「あはは・・・ははは・・・」
「まあ、不思議な人に見えたのか、咲には」
「はい、アリスさんって、最初は、何この人って、感じだったんですけど、話してるうちにただ単純に子供が大好きな人なんだなぁってわかってきたから・・・・・・パパやアリスさんみたいな人、初めてです」
途中から目にに涙をためながら話す咲を見て、立ち止まり、しゃがんで咲を見つめて、
「咲、泣くことなんかないぞ。俺みたいなヤツはこの世に沢山いるし、アリスは少し特殊だがな。それに咲はこれからの人生でいろんな人と出会って、いろんなことを経験して、世の中を知っていくんだ。その中で、咲に対して嫌なことをしてくる人もいると思うんだよね。でも、反対に絶対に手を差し伸べてくれる人が絶対にいるんだ。世の中はそういう風になっていると俺は思ってるんだ。そうじゃないと、世の中のバランスが壊れちゃうからね。それにな、涙は、一生で泣ける量が決まってるからな」
と言いながら咲の頭をなでる。最後の一言を聞いた咲は、
「パパ、涙の量なんて聞いたことないよ」
といって涙を拭きながら笑う。それを見て俺は、
「ハンカチ使う?」
そう言ってポケットから男物のスポーツのメーカーのハンカチを咲に渡す。拭き終わったのを見て、
「さ、帰ろっか」
と右手を咲に差し出す。咲は、
「うん♪パパ」
といって、その手をとって、2人は歩き出した。
と、俺が立ち上がり、歩き出したときに、頭の中に一つの映像が流れてきた。そこは夕焼けが綺麗な所だった。
「うぇ〜ん。パパ〜グスン・・・」
一人の男の子が父親らしき大人に泣きながら走っていった。
「うん?どうした?」
その男の人はその子を見ると、
「ああ、こけたのか」
そう言われて、男の子は涙を腕で無造作に拭って途切れ途切れに、
「うん・・・すごく痛い・・・グスン」
と、また泣きだそうとしている。
「そうか、それは痛かったな。でもな、そんなことで泣かない方がいいぞ?」
急に真剣な顔になってその男の人は語り始める。
「それはな、人は一生で泣ける涙の量が決まっているんだ。そんなことで泣いていると、将来ほんとに泣けない時、例えばパパやママが死んだ時に泣けなかったら、嫌だろ?」
「うん・・・・・・グスン」
男の子は涙をまた拭きながら、ポツリと呟く。それを聞いて、男の人はまたはなしを続ける。
「だからな、うーん、なんていうだろう。男だから泣くなとは言わないけど、泣きすぎるのも良くないってことかな?うん、だから、本当に悲しい時に思いっきりなくんだぞ?あれ、これって結局泣くなってことじゃ・・・・・・ま、いっか(笑)」
それを聞いた男の子はなんでパパは笑ってるんだろう?と頭を悩ませている。
「さ、もうそろそろ遅いから帰るぞ。今日の晩御飯はお前の好きなカレーライスらしいぞ?」
カレーライスと聞いた途端に、男の子の顔から涙が消え、代わりに笑顔が生まれた。
「ほんとに!?やった〜!!早く帰ろう、パパ!!」
そう言って、家に向かって駆け出していく。その後ろを、
「そんなに急がなくてもママのカレーは逃げないぞ〜」
笑顔で追いかけていった。
なんだ今の記憶は・・・・・・まさか、俺の記憶?全く覚えてない。でも、どこか懐かしい感じがする。ってことは、あの男性は本当におれの・・・・・・、
「・・・・・・パ・・・・・・パパ!」
はっ、何を考えているんだ俺は。もうそんなの関係ないじゃないか。父親は俺が小学校2年生の時に急にいなくなったんだから、今更、なんで、
「ごめん、ごめん、咲。ちょっと考え事してたんだ。心配させてごめんな」
そう言って、咲の頭をなでる。
「びっくりしました。パパ、急に止まったから・・・・・・」
「もう大丈夫だよ、ちょっと昔のことを思い出しただけだから。さ、帰ろう」
と、急いで歩き出した俺の腕の裾を咲が掴み、止める。
「あ、パパ、今日の晩御飯って、決まってますか?私、ちょっと食べたいものがあるんです・・・・・・」
お、咲からのリクエスト!!とうとうここまで・・・・・・(泣)←まだ2日目(笑)
「いいよ、なんでも言ってごらん。じゃあ、スーパー寄っていこうか」
「えっと、唐揚げというやつを食べてみたいです。今読んでる本で主人公達が食べてて美味しいって書いてあったから・・・・・・」
「うん、任せなさい!パパの腕の見せて上げるね!」
「はい!楽しみです!」
そして、2人は沈む夕日を背にして影を伸ばしながら、家への道を歩いていった。
スーパーで材料を買い、2人が家に着いた頃には夕日は沈み、均等に道に設置された街灯が照らしていた。
「「ただいま〜(・・・・・・です)」」
って、誰もいないか。まぁ、誰かいたら怖いし(笑)そう思いながら、キッチンに袋を置き、
「ちょっと、買い過ぎたかな」
そう言いながら、袋を開けて中を見る。中には唐揚げの材料の他に、まぁ、なんと言うか、雑貨?かな。しかし、なぜ、俺は色々な物に目移りしてついつい他の物を買ってしまうのだろうか。うーん、今度葵にでも、聞いてみるか。
チラリと部屋の方を見てみると、咲が本を読みながら棒付きあめを口にくわえていた。それを微笑ましく思いながら、「よし、頑張るか」と小さく声に出して、気合を入れて料理に入った。
ーーーーーー1時間後ーーーーーー
咲のリクエストの唐揚げと付け合わせにポテトサラダを作り、テーブルに置く。
「わぁ、凄い。パパ、この茶色の塊が唐揚げというものなんですか?」
「うん、そうだよ。じゃあ、食べようか」
2人は手をパチンと合わせて、
「「いただきます」」
2人は同時に唐揚げに箸を進める。唐揚げを口に運ぶ。
「美味しい〜♪」
そう言いながら、2個目3個目と箸が進んでいく。それを見ながら、「よかった。いつもより小さく切ってて」と思う俺だった。
ーーーーー更に1時間後ーーーーー
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
2人で使った食器をシンクに置いて、そして、俺は皿洗いを、咲は・・・・・・1人で風呂に入って欲しかったが、読書をしていた。(まあ、別にいいんだけど・・・・・・)
その夜のお風呂は昨日のこともあり最初から一緒に入った。布団ももう1枚しかしかず、一緒に寝ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます