第3話一日の終わり

葵が帰ってから少し経って時計の針が9時を誘うとしていた時に、

「そういえば、咲」

と、葵が帰っても俺に抱きついたままの咲に呼びかけてみる。

「……?」

と顔を上げて俺の方を見てくる。しかしながら、抱いた状態で顔を上げるとこんなにも近かったとは・・・・・・これからはあまりしないようにしないと。ロリコンでもない俺でも少しだけクラっときてしまうから・・・・・・。少しだけだからな!!少しだけ!!

「咲はいつも何時ぐらいに寝てるの?」

ふと浮き上がった疑問を咲に聞いてみることにした。だって、俺が小学校の時は9時が過ぎると睡魔が襲ってきて寝ていたから咲はどうなのかなと思って聞いたんだが・・・・・・、

「いつもは・・・・・・大体9時から10時の間には寝てました・・・・・・」

うん、やっぱり、そうだよね。小学生位はそんな感じだよね、うん。じゃあ、もう、風呂に入って寝る準備しないといけないな。と、考えながら次の質問に、

「続けてなんだけど、咲は1人でお風呂は入れる?」

ちなみに、さっきに続き俺の小学生の時は4.5年生辺りからしか1人で入れなかった・・・・・・これは誰にも言うなよ?

「それが、まだ1人で髪が上手に洗えなくて・・・・・・よければ、一緒に入ってもらえたら・・・・・・嬉しいです・・・・・・」

少し恥ずかしそうに俯いてそう言う咲を見て、俺は――マジか!!だったら葵のヤツがいる時に頼めば良かった――とは思いつつ、もう葵が帰ってから、そこそこ時間が経っているため、呼び戻す訳にも行かず、仕方なく、

「そうだよな・・・・・・じゃあ、体とかは自分で洗えるよね?」

「はい・・・・・・体は大丈夫です」

「よし、わかった。髪だけ洗えばいいってことだね」

やましい気持ちとかは無いからな!!頼まれて仕方なくだからな?そこは勘違いするなよ?

「じゃあ、風呂溜めるから、溜まるまで少し時間かかるから、なにかして待っててくれる?」

「分かりました」

そう言って、俺は風呂に湯を張るためにお風呂場に移動する。


優羽が部屋を出て行ったのを見て、さっきまで座っていた咲が立ち上がり、いつも優羽が執筆をする時に使う机に向って座る。そして、咲が優羽のパソコンの電源を入れようとした時、お風呂場の方から、

「咲〜言い忘れたんだけど、俺のパソコン、勝手に開いて次回の原稿読もうとしないでね?本棚にある本は読んだりしていいから」

と、言われピタッと電源を入れようとした指が止まる。

「はい・・・・・・分かりました・・・・・・」

そう言って、咲は渋々座っていた椅子から降りて自分のバッグから本を取り出して読み始める。そして、咲が読み始めて数分後、優羽が部屋に戻ってくる。

「あと数分で、溜まると思うから、待っててね」

そう言って、咲の隣に座る。しかし、咲が本のページをめくる音だけがするだけで会話も何も無く沈黙だけが流れていた時に、

「咲、あのな、さっきの事なんだけど」

と、俺はさっきの咲の様子がどうしても気になって聞いてみることにした。

「さっきの事って・・・・・・?」

「その、妹の葵のことなんだけど――」

と話そうとした時にピーっとお湯が溜まったことを知らせるブザーがなる。

「あ、溜まったみたいだから入ろっか、着替えとかは?」

「えっと、多分、神楽さんが持ってきてるはずで・・・・・・」

玄関に行き、ドアを開けると壁に立てかけるようにキャリーバッグが置いてあった。

「パパ、あの・・・・・・キャリーバッグ・・・・・・重くて・・・・・・」

どこか遠慮しているような様子で言ってきた咲に俺は、

「大丈夫だよ、咲。咲は小さいんだから持てなくてしかたないよ」

にしても、神楽さんいつ持ってきたんだろう。一言ぐらい言ってくれたら良かったのに・・・・・・と思いつつ玄関に向かう。そして、キャリーバッグを持って家に上がりタイヤを拭いて部屋に置く。咲はキャリーバッグを開けて、中から着替えを選んで立ち上がる。

「じゃあ、行こっか」

そう言って、お風呂場に行き、俺は長袖の裾を限界までまくり、長ズボンも同じぐらいまくる。その隣で、咲は上に着ていたTシャツを脱ごうとすると上手く脱げずに「うう、うう」と何か言っている。俺は俺も小さい頃なってたなーと思いつつ、

「咲、ほら、バンザイして」

咲は言われた通りに両手を上げる。

「じゃあ、いくよ?それっ」

俺は素早くしかし、優しくTシャツを引っ張る。そして、脱げたと同時に、

「プはぁ、苦しかった」

なんて言いながら、続けて下も脱いでいく。そして、咲の準備が終わったのを見て、風呂場の戸を開ける。洗い場にはいつも洗わない小さなイス(使うかもと思って買ったが物置に眠っていた所を引っ張り出してきた)を出し、咲をそこに座らせ、

「じゃあ、洗うから目つぶって」

と言って、お湯を汲み、頭の上からゆっくりとかけていく。そして、適量より少し多めの量のシャンプーを手に取って、優しく丁寧に洗っていく。

「咲。さっき言いかけた事だけど」

入る前に言おうとしたことを俺は独り言のように話していく。

「葵はな、見ても分かるように重度のブラコンなんだよな。俺ん家はな片親でシングルマザーだったんだ。まあ、そんな事もあって、基本、親が家にいないことが多かったんだ。だから、俺が親代わりみたいな感じで、だからかな、自分で言うのもなんだけど、あいつ、俺のこと超大好きで俺は葵だけの物って感じになってるんだよね。まあ、俺が拒否しないのも問題だと思うんだけど。でも、俺がここに住んでるのも少しは努力したんだけど結局今こんな状況だからね(笑)そんなこんなで、俺に娘ができたってことがよほど衝撃だったんだろうね。だからまあ、葵のことは嫌いにいや、苦手にならないでくれな、俺のことになると人が変わっちゃうけど、普通はいいやつだから。2人の関係がギスギスしていくのだけはカンベンな」

そこまで話して、一旦話を切り、泡を流す。そして、咲に浴槽に入るように言う。咲が浴槽に入ったのを見て、俺は風呂場を出ようとした時に、浴槽に浸かっていた咲にシャツを後ろから掴まれて引き止められた。

「一人ぼっちだと・・・・・・嫌なこと思い出しちゃうので・・・・・・一緒にいて欲しいです」

と言われ、そっか一人ぼっちなのがトラウマになったりしてるのかなと思いつつ、また、多分咲は今俯いて顔を真っ赤にしているのかなとか考えながら、これは入った方がいいのか・・・・・・それともここにそのまま入ればいいのだろうか・・・・・・わからん・・・・・・。やばい、ドツボにはまって、いや、この思考の渦に落ちていってる気がする。恐らく「うーん、うーん」と唸っていたのかもしれない。

「パパ・・・・・・大丈夫・・・・・・?」

と、浴槽から上半身を出した状態の咲が後ろから覗き込んでくる。俺は突然目の前に咲の顔が出てきたわけで、俺は驚いて後ろにひっくり返りそ――うになったがなんとか踏みとどまった。いやー人間って凄いですね。

「ふう、危なかった・・・・・・あ、咲、もう上がる?」

意外と俺は長い時間考え込んでいたようで、咲の顔や腕はほんのりと赤みがかかっていた。

「うん・・・・・・少しのぼせてきました」

「うん。じゃあ、あがろっか。それで、自分で体ふける?」

「はい、一応、ふけると思うので大丈夫・・・・・・です」

「そっか、じゃあ、手洗い場のどこかにドライヤーがあると思うから勝手に使っていいからね。では、俺も入ってきますか」

俺は服を脱いで風呂に入って、髪を洗い浴槽に入る。一方その頃、体を拭き終わって(若干拭けていない所もあるが)、ドライヤーを見つけ、慣れない手つきで髪を乾かしていた。


はぁ、今日の私って変な子だって思われなかったかな・・・・・・パパは今まで会ってきた人とはどこか違うような気がする。施設のママや神楽さんとは違う、何かほかの、まだ私が知らない何かを教えてくれるかもしれない。それにしても、なんでパパって、初めて会った私なんかにこんなに優しくしてくれるんだろう・・・・・・。と、咲が物思いにふけっている時、浴槽に使っていた優羽も似たようなことを考えていた。


ふぅ・・・・・・はぁ、今日の俺、どうしちゃったんだろう・・・・・・らしくなかったな。葵以外の人にあんなに優しくするなんて。パパ・・・か 。これから、どうなるんだろ、俺。

と、また思考の渦に落ちていきそうだったのでもうここで考えることをやめることにした。だんだんのぼせてきたのであがることにした。ある程度中で拭いてから風呂場の戸を開ける。脱衣場には先の姿はもうなく、恐らく、部屋に戻ったんだろう。そう考えながら、あらかじめ準備をしていた服を着る。タオルで念入りに髪を拭きながら部屋に行くと、咲が横になって寝ていた。近くに本が落ちているのを見て、多分、横になって読んでいて、そのまま寝ちゃったのかな?などと考えつつ、襖を開けて布団を2組敷いていく。敷き終わって、咲を片方の布団に寝かせる。そして、電気を消して俺も布団に入る。寝ようと目を閉じてみると隣から安らかな咲の寝息が聞こえてきた。それを聞きながら、こうやって一人で寝たいのはいつ以来だろう、と考えながら、俺は静かに夢の世界へと落ちていった。


「お母さーん?お父さーん?」

ううん、誰だろう。声が聞こえる。迷子なのだろうか、いや、それは違うな。ここは誰かの家の中だ。じゃあ、なぜ、この声の主は、親を呼んでいるのだろう・・・・・・。

「お母さーん、お腹空いたよー・・・・・・お父さーん、どこいったの・・・・・・」

少女は泣きながら自分の親をひたすら呼び続けている。部屋の隅にはパンの袋、カップ麺や惣菜の容器が入った袋が3.4個置いてあった。中央には、所々にカビらしきものが生えた布団が敷いてあった。少女の服は何度も同じのを着ていたのか所々敗れていたり、穴があいてあったり、シミがついていたりしている。スボンや服から出て見えている腕や足はやせ細っていた。髪の毛にはフケがそこらじゅうに付き、肌にもあかが溜まっている。この子の親は何をしているんだろう。


ピンポーン、ピンポーン、


いきなり家のチャイムが鳴った。そして、

「一条さーん、いないんですか?一条さーん?」

と男性の低いよく通る声が聞こえてくる。部屋で泣いていた少女は、チャイムがなったと同時に、部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震えている。そして、呼びかけは「入りますよー?」を最後にして、鍵がガチャりと音を立てて、ドアが開けられた。そこには、2人の男性と1人の女性が立っていた。服装から見て、男性の2人は警察と大家さん、女性は保育士かなにかのように見えた。その男性2人は部屋に入ったと同時に部屋の異臭に顔をしかめ、鼻を腕で押さえ、女性は部屋を見渡して、少女を見つけると駆け寄って「もう大丈夫、大丈夫だから」と言葉をかけている。しかし、少女の目に光は無く、ただとこかを見つめているだけだった。その後、少女はその女性に連れられて、その部屋を出ていった

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