第2話二人の出会い2

そんな決意を固めた俺は自宅の玄関の前に立っていた・・・・・・。なぜかと言うと・・・・・・出る時に部屋のすべての電気は消したはずなのに部屋に明かりが灯っている。今日は妹も来れないってメールがあったし、合鍵を持っている友達もいない。そう不思議に思いながらも玄関の戸をガチャりと開け、家の中に入るや否や俺の目に入ってきたのは、綺麗に磨かれた黒のローファー。そして、奥からは人の気配とシャワーの音。まさかとは思いつつ家の中に入り、テーブルを咲と挟んで座り、話そうとした時に、勢いよく俺の後ろの襖が開け放たれた。と、同時に俺の背中に衝撃とふくよかな感触が伝わり、首にはシミ一つない艶のある腕。はぁ・・・・・・やっぱり、お前か。

「お兄ちゃん、帰ってたんだ」

そう言って、俺に後ろから抱きついてきたのは、結城葵ゆうきあおい。俺の三つ下の妹だ。

「葵。お前、今日は学校の課題が多過ぎて来れないんじゃなかったのか?」

と、咲が来る前にメールで来れないって言ってきたのに・・・・・・。

「それはね〜お兄ちゃんに会いたくて、早く終わらせて来ちゃった」

と、マンガならハートが付きそうな顔でウインクしてくる血の繋がった妹の葵。

「そうか。じゃあ、ついでに、離れてくれないか?」

いつもならこれくらいなら俺も許すのだが、今は俺の目の前には咲が座っているのだ。ハッキリ言って教育に良くない。だから、今はそういうのだが・・・・・・、

「やだ。せっかくお兄ちゃんに会えたんだからイイじゃん、もう少し〜」

と、なかなか離れてくれない、いや、離れない妹を、

「離れろ〜」

と、少し強引に引きはがす。

「えぇー」

と言いながらどこかふざけているような本当に残念そうな顔で離れていく。そして、俺の隣に座る。ふう、やっと静かになったのを確認して、俺は、

「咲が困惑してるからあまりそういう事は自粛してくれ、これからは」

と言うと、

「咲?誰それ?」

と今気付いたように俺が座っている反対の方へ視線を向ける。そして、二人の目が合うと同時に咲が「こんばんは」と軽く会釈する姿を見て固まる葵。

そして、固まって数秒後何とか絞り出すような声で

「どちら様で?」

と言ったと同時に何故かガクりと膝をついて、

「そんな、お兄ちゃんがロリコンなだったなんて・・・・・・ノーマルだと思っていたのに・・・・・・」

と、ブツブツと言い始める。いや、待て待て、俺がいつロリコンになった・・・・・・ハッ!咲のことを勘違いしてるのか、葵は。これはすぐに誤解を解かないとな。それに、と咲の方を見ると、「えっと・・・・・・その・・・・・・」と初めて会う葵についていけない様子。しかし何と言ったらいいものか・・・・・・と、考えた末に俺が言った言葉は悪手だった。



「葵、えっと咲はな俺の娘なんだ」



それを聞いた途端に葵の何かが崩れる音がしたような気がした。多分、気のせいじゃないような気がする。俺の娘発言を聞いてフリーズしていた葵がいきなり立ち上がり、玄関に向かって部屋を出ようと横を通り過ぎて行く。そして、その両手には一体どこから出したのかわからないスタンガンとロープが・・・・・・、

「おい、ちょ、待ててって、葵!!そんな物騒なもの持ってどこ行くんだよ!!」

そう言って葵の左腕を掴む。流石にこれは止めないといけない。放って置くと死人が出かねない。

「お兄ちゃん、離してください!!私は私は殺らなければいけない事があるのです!!」

「いやいや、待て待て。今のやるって殺すって書くだろ、お前。とにかく、その物騒なものしまえって!!」

と、説得するが全く効果なく、

「嫌です!!これを使って私は私はお兄ちゃんを誑かした女狐を退治しに行かなければならないのです!」

あ、なるほどこいつは誤解してるんだな、俺に女ができたと。いやでも、こんなに取り乱すか、普通?でも、誤解はしっかりと解かないとな・・・・・・、

「葵、言っておくが俺はまだ童貞で彼女なんていないからな?」

と俺の言葉を聞くと同時に葵の体がピタリと止まった。おっ、効果有りかな?

「えっ、じゃあ、誰の子になるの?」

「えっと、俺の娘なんだけど、まあ、養子みたいな感じな訳で・・・・・・」

そうして、俺は葵に咲が家にいた事情をすべて説明することになった。

「そういう事なら、先に言ってよね。ついつい、私が人殺しになっちゃうところだったじゃない」

うん、それは大変だな・・・・・・これから、俺がしっかりと止めてやらないとなどと考えていた時に何故か知らないが少しだけ嫌な予感がして咲の方を見るとやはり悪い予感とは当たるもので咲は部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震えていた。それを見て俺はハッとまた悟る。咲には葵が虐待をしていた母親と被ったのかもしれない。

「おい、葵。咲が怖がってるじゃないか!!その物騒なものしまうか捨てるかどうにかしてくれ!!」

俺が少し強い口調で言うと葵は

「わかった・・・・・・」

と、渋々とまたどこかにしまう。そして、俺は咲の方に駆け寄り、頭を撫でながら、

「怖い思いさせてごめんな、咲。あいつ、葵にはしっかりと言っておくから、怖がらなくていいからな。それに、ここには俺がいるから」

と言っていると後ろから、

「・・・・・・ごめんなさい、咲ちゃん・・・・・・私のせいで・・・・・・」

今にも泣き出しそうな顔で落ち込んだ葵は咲に謝る。それを見た咲は、

「・・・・・・これからは・・・・・・しないで下さい・・・・・・」

と葵から顔を背けて途切れ途切れに一言だけ言って俺に抱きついてきた。俺は咲をしっかりと受け止め、抱きしめ返しながら「よしよし、怖かったな」と頭を撫でていると、後ろから、

「いいなー私でさえされたことないのに・・・・・・」

と葵らしからぬ声が聞こえてきたような気がするが聞いていないふりをする。それに、今の状況は傍から見たら、いや俺個人の視点から見ると中々カオスな状況なので話題を変えることにしよう。

「そういえば、葵。今日は何しに来たんだ?」

俺は葵が家に来ていることに気付いてからずっと気になっていたことを聞くことにした。

「今日は、シャワーを借りに来ただけだよ。浴びたら帰ろうと思ってたんだけど、お兄ちゃんが帰ってきたから・・・・・・」

「ん、そうか。で、時間とかは大丈夫か?」

俺はテレビの後ろの壁にかけてある時計を見ながら葵に聞いてみる。それを聞いて葵はエッ!と言いながら俺が見ている時計を見る。時刻は既に8時半を今にも過ぎようとしていた。

「ゲッ!やば・・・早くいえに帰らなきゃ!!」

と慌てて帰る支度を始める。

そして支度が終わり、家を出ようと葵がドアノブに手をかけた時に、

「葵、ちょっと待って。途中まで送っていくよ」

俺は葵を引き止めながら、近くに脱いでそのままにしていたコートに手を伸ばした時、玄関の方から、

「ううん、今夜は咲ちゃんといてあげて私は大丈夫だから」

ん、そうだな、よく意味は分からん――ここは、葵に甘えさせてもらうとするか・・・・・・。

「そうか、じゃあ、気をつけて帰れよ」

俺がそう言うと、

「じゃあね、咲ちゃん、お兄ちゃん♡」

ん、何故か俺の時だけハートが付いていなかったか?まあ、いつもの事だけど。

「おう、気をつけてな」

「またね・・・・・・です」

その2人の言葉を背に聞きながら葵は家を出た。


少し歩いて優羽のアパートから離れた道で葵は立ち止まって、

「お兄ちゃんに娘か・・・・・・でも、咲ちゃん、可愛かったなぁ・・・・・・ふふ」

そう言ってまた歩き出した。その時の夜空は葵の心情を写したかのように晴天で星がキラキラと瞬いていた。

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