黒き勇者

黒き勇者。

それは異世界から呼ばれた娘であった。

勇者候補と呼ばれたその娘はクラスメート30名と呼ばれ、最初は普通の勇者候補としての娘であった。

コウコウセイというものだったらしい。

最初はよく笑うものだったという。

だが、最初に入った迷宮にあった魔剣に会ってしまったのが悪かった。

それは血を吸うたびに強くなる。ヴラッドソードと呼ばれるものであり、歴代の勇者が魔剣士となって、多くの敵の血を吸い、敵をなぎ倒した。

修羅、とある異世界の勇者は言ったもの。


「いいじゃん。こんなの。中2病に呑み込まれるか呑み込まれないか、私との勝負だよ」


彼女は明るかった。みんなのリーダーであり、そこには追放された仲間もいたもののそんなことにはへこまず、粘り強い。

そんな彼女は強く気高く、心が強くあった。

しかし、それに黒き勇者は呑み込まれてしまった。


戦場。魔族と魔王との戦いで彼女は活躍した。


「私はやる。彼らを倒すまで力尽きないッ」


雄々しい叫び声は大いに皆を鼓舞し、戦いの旗頭として彼女は戦った。

金色の甲冑に頭を見せるほどの甲と黒いインナーを着た姿は勇ましく女性でありながら、国一番の戦士として戦いを続けた。

強く、激しく。

だが、その戦い方は一人で突っ込む無謀な形であったが、ベルセルクと呼ばれる孤高の蛮勇でありながらの勇者であるものを彷彿とさせて、強かった。

魔剣を振るうと魔族たちが吹っ飛ぶ。数名は吹き飛ばしながら、そいつらをなぎ倒す。


「戦場に咲く大輪の薔薇よ。私って」


何てことを最初はうそぶきながら、彼女はほかの仲間と戦っていった。

しかし、それもいつしか力尽きる仲間たちや戦い方に異論を持つクラスメートが外れていく。

気づけば彼女は一人ワンマンアーミーなどというようになった。

孤高の勇者は本当の孤高の勇者となってしまったのだ。


そこに魔王は現れた。


角を付けた浅黒い体の美丈夫。2メートルを超える体躯に優れた魔術を操るその戦力は、最後にして最高の戦力であった。

彼は最初に出会った黒き勇者を睥睨する。

黒き勇者は恐れを知らなかった。負けを知らないほどに戦場を駆け抜け、ダンジョンを攻略した彼女は恐怖なんてものを知っていても、恐れてはならない。

それよりも魔剣に飲まれて死んでしまうような強迫観念のようなものがあったとようにも思える。

だから、魔王の前に立った彼女は剣呑な笑みを浮かべながら、魔剣を彼の喉元に突きつける。


「甘いわ」


しかし、魔王は魔億を束ねる王だ。簡単に倒せるものではない。

突きつけられた魔剣を簡単にはじき返す。


「やっぱり、簡単にはいかないね」


彼女はぺろりと舌なめずりする。

魔王の瞳には何故か憐みの目があった。


「毒には毒を、といったところだが、中々痛々しい姿よ」

「やっぱりわかったか。でも、それももうお終いだよ」


彼女の目が赤く光る。

それは魔剣の力。赤い光は魔王の腹を貫きながら、上段へと向きを変える。

しかし、魔王も一筋縄ではいかなかった。


「ぬっ」


その光を両手で止める。そして、


「行け! デュラハン!」


魔王の声に後ろから顔のないフルアーマーの騎士が立ち上がり、槍で彼女の胸を貫く。

そこで魔王の力が尽きる。


「な、何でこんなところに」

しかし、彼女の視線は違うところへと向かう。デュラハンの胸に置かれた顔。それは自分の幼馴染であり、転移してきたクラスメートの少年だった。


「それが彼の願いだからだ」

魔王は力尽きようとしたしわがれた声で答えた。


デュラハンの少年は答えた。

「俺はその魔剣で魔王に勝った。けれども、それによって、魔剣の魔王として世界を征服しようとした。そこに魔王の最期の力が時を戻して」

彼は血を吐くように答えた。

そして、彼は魔剣を槍でへし折った。

「魔槍を持つデュラハンとなって、ここに現れた。だから、あとは君が生きてくれればいい」


「やめて」


魔王は倒れ、力尽きた。

 

「私ももう魔王をするのは疲れた。だから、これで良かったのだ――最後の一撃はこれで良い」


魔王の体が沸騰するように煙を出して消えていく。

デュラハンは自分の体を貫いて、彼女にその血を飲ませる。


「俺の血は魔族でありながら回復の妙薬だから。これで君は魔王にならずに帰れる」


そして、黒き勇者は涙を流しながら立ち上がった。

けれども、そこには悲しいものしかない。

彼女の手には魔槍があるだけで、手を挙げる。


戦いは終わった。


人の歓喜の声は上がる。

けれども、彼女はその黒き勇者としての服装だけはやめなかった。


「1年だけ、せめて、1年この格好はさせてください」


そうして、彼女は黒き勇者は彼のことを忘れず。

槍を戦場に置き、魔王とそのデュラハンのことを忘れることをしなかったという。


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