第2話  後編

季節は、夏。僕は、烏となり、見知らぬ土地にいる。キッチは、どうしてるだろう?久しぶりに、様子を見に行ってみよう。

夜、キッチとの出会いの公園に行くと、夏祭りが行われていた。彼女も来てるのだろうか?低空飛行で探し、漸く、キッチを発見した。以前にも増して、可愛らしくなっている。しかも、浴衣を着ていた。セッツやヒットもいるが、男子もいる事が、何故か気になる。途中で、キッチと一人の男子と二人きりになった。彼は、キッチと手を繋ぎ、一度、公園の外に出た。そして、彼女に、キスしようとしていた。それを見た瞬間、キッチが他の誰かに取られるのは、嫌だと思い、『やめろー!』と心で強く訴えた。そして、低空飛行し、男の頬を少しつついた。彼は、助けてくれと叫びながら、逃げて行った。僕は、漸く、君に、恋をしていたのだと自覚した。君の全てを守りたい。一番に、僕を頼って欲しい。僕も人間になりたい。最後の大切な1回で、君の理想の男になりたい。

「ねえ、さっきのあなた、格好良かったよ。恋敵って感じかな。もしかして、彼に、嫉妬してた?烏なのに、人間に好意を持つなんて、面白い。安心して。彼の片思いだから。」

本当?良かった。君が誰にも奪われなくて。

「それにしても、さっき、私の頭に、やめろーって叫び声がした気がするの。とても強い響きだった。それもあなた?」

そうだよ。君に伝わって、嬉しい。

「ねえ、家に来ない?あなたを飼おうと思うんだけど。」

君の温かい心に感謝するよ。でも、今の姿のままでは、君の傍に居られない。次に、君に会う時は、人間の姿でいたいから。僕は、再び、遠くへ飛び去った。

翌年の4月。僕が烏の姿になってから、5年が経とうとしていた。そろそろ、次の姿にならねばならない。朝、僕は、キッチの家の屋根に降りた。その矢先、窓を開ける音がした。

「気持ちー。」

キッチの声だ。とりあえず、中に入らねば。本当は、人間の姿になってから会いたかったけど・・。僕は、急ぎ、キッチの部屋の窓に飛んだ。キッチは、僕が真っ正面を飛んでいる事に、驚き、目を丸くした。

「え?烏?もしかして、去年の夏祭りの時の?」

そうだよ。

「だとしたら、嬉しい。人間好きの烏なんて、珍しいもの。おいで。家で飼ってあげる。でも、静かにしててね。ママには、内緒だから。」

僕は、部屋の中に入り、キッチの机の上に降りた。

「これから、中学に行くから、留守を宜しくね。行ってきます。」

行ってらっしゃい。・・ん?僕の横にノートが置かれてる。どれどれ?見てみたら、男性の絵が描かれていた。絵の横に、白のシャツ・ジーパン・シャープな輪郭・円らな瞳・前髪有のショートカット・身長154センチという文字が書かれていた。まさか、これなのか?彼女の理想は・・。いや、違うかも。でも、僕には、時間が無い。僕は、ノートの絵の上に立ち、目を閉じて強く念じた。目を開け、机から降りた僕は、全身鏡の前に立った。夢じゃない。僕、遂に、人間の姿になれたんだ。キッチが僕を見て、どんな反応をするのか、楽しみでならない。


夕方。部屋でキッチの帰りを待つ僕。・・ん・・階段を上がる音?彼女が帰って来た様だ。

「ただい・・ま・・。」

キッチは、僕を見て、赤面した。

「・・え?嘘でしょ?これは、夢?だって・・そんな筈無い・・。私がノートに描いた人が、何で、ここに?」

「夢じゃないよ。僕を触ってごらん。」

キッチは、僕の顔や手に触れた。

「本当だ。夢じゃない。嬉しい。私の理想が現実に。やったー。キャハハハ。」

キッチは、喜び、ジャンプした。この姿になって、良かった。

「あなた、魔法使いなの?」

「どうして?」

「ノートの中から出て来るから。・・それより、烏を見なかった?今朝、この部屋に入ったんだけど。」

「さあ・・この部屋に居たのは、僕だけだよ。」

「そう・・それは、残念。でも、あなたが居る。ねえ、名前は?」

「ムだよ。」

「たった一文字なの?あなた、魔法が使えるみたいだから、もっと、良い名を考えてあげる。・・そうね・・眩光は、どう?現実、魔法が使えない私にとって、眩しい光の様な存在だから。略して、ゲンで良い?」

名前を貰い、新たな命を吹き込まれた僕。僕は、この命を、君の為に使うよ。

「うん。ゲンで良いよ。君の事は、キッチで良いかい?」

「・・え?何で、私のあだ名を知ってるの?」

「秘密。」

「私の本名は、希癒なの。呼びにくいから、キッチにしてるの。」

「人々を癒し、希望の光になれだっけ。素敵な名前だね。」

「何で、そんな事まで知ってるの?それ、幼稚園の年長の頃、母から初めて聞いたの。他の誰にも、この事は、喋ってないのに。やっぱ、魔法使いだから?」

魔法使いか・・。僕は、一人の男として好かれたいな・・。

後に、僕は、キッチのクラスメートだが、親と喧嘩し、家に戻れないので、暫く泊めると伝えられた。彼女の母は、快く了承した。


就寝の時間。

「えっと、ゲンは、どこに寝る?」

「君の横が良い。」

キッチは、赤面した。

「な・・何言ってんの?ベットが一つしか無いからって。」

「僕が出現して、嬉しいんじゃなかったのかい?僕は、この姿で君の傍に居られて、とても嬉しい。」

僕は、キッチを強く抱きしめた。

「な・・何なの?急に・・。もしかして、挨拶のつもり?」

挨拶なんかじゃない。君が愛しいんだ。

「何で何も言わないの?・・もう、分かった。好きにして。」

「有難う。」

僕とキッチは、ベットに横になった。

僕が彼女の顔を見ると、彼女は、赤面した。ああ、何て可愛いんだ。

「わ・・私、こういうの、初めてなの。男の人と1つのベットで寝るの。漫画でなら、見た事あるけど・・。」

僕は、人間の姿で恋する人と過ごす初夜を大切にしたい。そして、君の全てを僕で満たしたい。そう思ったら、彼女の頬に、口付けてしまった。更に、赤面するキッチが可愛すぎる。

「ちょっ・・いい加減にして。彼氏じゃないんだから。」

「僕は、もう、君の彼氏だと思ってるよ。だって、僕のこの姿は、君の理想だから。」

「それは、外見の話。中身は、別。もう、寝る。」

僕は、横になりながら、キッチを抱きしめた。

「ちょっと。寝るって言ってるじゃない。」

「僕にとって、寝るとは、僕の全てで、君の身も心も癒す事だよ。どうか、僕の中で、1日の疲れを取り、ゆっくり休んで。」

「こんな事されたら、落ち着いて休めない。離して。」

「離さない。絶対離さない。」

君には、分からないかもしれないけど、長年、君に想いを募らせ、やっと、人間の姿で君に触れられる。それは、僕にとって、とても幸せな事なんだよ。

「お休み。キッチ。」

「だ・・だから、私・・。」

キッチが眠れたかどうかは、分からないけど、僕は、彼女を抱きながら、落ち着いて眠った。


翌朝。僕は、早起きし、ご飯炊きを教わった。それから、ゴミ出しもした。その後、部屋に戻ると、キッチが起きていた。

「おはよう。」

「ゲンは、起きるのが早いのね。」

「今日は、僕がご飯を炊いたんだ。食べてみて。」

「先に行ってて。着替えてから行く。」

キッチは、制服に着替えてから台所に来た。

「どう?口に合うかい?」

「固過ぎず、柔らか過ぎず、ちょうど良いよ。初めてにして、上出来じゃん。」

「喜んでくれて、嬉しいよ。」


中学に行く時間。

「その鞄、重そうだね。僕が持つよ。」

「大丈夫よ。気にしないで。」

僕は、キッチから鞄を取り上げた。

「こんなに重いのに、無理しないで。学校まで、僕が持って行く。」

キッチは、赤面した。

「・・じゃあ、お言葉に甘えて・・。」

通学路を歩く僕らは、周りから注目された。恋人だと思われていたら嬉しい。

校門でセッツに会った。

「キッチ、そちらは?」

「初めまして。ゲンだよ。」

「キッチとは、どういう関係?」

「昨夜から、私の家に居候中なの。」

「それにしても、彼、超優しいじゃん。キッチの鞄を代わりに持ってくれて。これからも、彼女の事、宜しくね。折角だから、教室まで持ってってもらったら?」

「駄目よ。制服着てないし、ここの生徒じゃないし。」

「何ならさ、授業見学させたら?先生に頼んでみるよ。ここで待ってて。」

暫くし、校門で待つ僕らの所に、セッツがやって来た。

「ゲン。校内に入るのOK。授業見学もOKだよ。」

「ゲン。鞄、ここまでで良いよ。有難う。」

「教室まで持ってく。君に無理させたくない。」

「キッチ。そうしなよ。そもそも、この手提げ、何も入れなくても重いじゃん。教科書自体の重みも加わって、持つの疲れんじゃん。折角の親切心に甘えちゃえ。」

「・・今日だけよ。」

「君の為なら、どんな事だってするよ。明日も明後日もずっと・・。」

僕は、教室に入り、彼女の座席まで鞄を持って行った。

「ここまで、有難う。」

「君の役に立てて良かった。」


僕は、特別生として、授業の見学をする事に。僕は、キッチの隣の席に座った。教科書を見せてもらう為、彼女の机と僕の机を付け、近寄れる事が嬉しくて、授業の内容など、どうでも良くなる。


英語の時間の前、キッチが動き出すので、僕もついて行った。

「どこに行くの?」

「職員室。私、英語係だから、オーディオを持ってかないとならないの。」

僕も、一緒に、職員室に入った。今日は、プリントもある様なので、僕がプリントを持った。

「何で、プリントの方を持ってくれたの?」

「見た感じ、プリントの方が重そうだったから。」

「確かに、紙は、重いけど。有難ね。わざわざ気を遣ってくれて。本当は、もう一人いるんだけど、ゲンがついて来るから、多分、遠慮したんだと思う。」

「じゃあ、バトンタッチして、これからは、僕と君のペアで行こう。」

「冗談言わないで。」

「僕は、本気なのに。」


給食の時間。僕は、キッチの後ろに並んだ。彼女の目が輝いていた。

「嬉しそうだね。」

「聞いて。今日は、ビーフ・・つまり、牛肉のカレーなの。」

「君は、本当に、肉好きなんだね。」

好きな食べ物に喜ぶ彼女も愛しい。

キッチがカレーの所に着いた時、僕は、当番の人に声を掛けた。

「彼女に、肉を沢山入れてあげて。」

「ちょっ・・余計な事言わないの。大丈夫だから、普通によそって。」

「遠慮したら、後悔するよ。好きな物を沢山食べて、パワーを付けなくちゃ。」

当番の人は、キッチに、少し多めにビーフを入れてくれた。


昼休み、僕とキッチとセッツは、外に出た。二人は、相変わらず、魔法ごっこをしているらしい。セッツは、僕を見て、目を輝かせた。

「ねえ、魔法使える?」

「・・分からないけど、やってみる。」

「じゃあ、空中に浮いてみて。」

出来るかな?そういうの、久しぶりだからなー。とにかく、やってみよう。僕は、目を閉じ、浮く様、強く念じた。

「凄い。ホントに浮いてる。是非、弟子にして。魔法少女目指してるから。」

「カッコイイよ。魔法が使える人って。」

キッチが喜んでくれて良かった。


翌日、学校が休みの為、僕とキッチは、お花見に行った。

「僕、桜の花、好きだよ。清らかで美しくて。」

「見ていて、心が安らぐよね。」

その時、桜の花びらが、彼女の髪に落ちた。

「まるで、髪飾りを付けてるみたいだね。とても可愛いよ。」

「そ・・そう?」

キッチは、赤面した。

暫くして、スズメが、僕らの近くに来て、鳴き声をあげた。

「スズメの鳴き声には、癒しの魔力があると思うの。身も心も自然と癒えてくる。」

「聴いてると、気持ち良いね。」

その後、僕らは、次々と落ちて来る花びらを追い掛け、手に取って楽しんだ。


5月。僕は、先月、キッチに買ってもらった制服を着て、毎朝、彼女と登校している。

今日は、1時間目から体育。女子は、体育館で、バスケ。そして、僕も女子側に居る。何故かというと、セッツが、体育教諭に、僕が淋しがりで、キッチが傍に居ないと命を絶つと言ったからである。まずは、パス練習から始まる。僕とキッチは、ペアになった。

「ボールに、抵抗は、無いのかい?」

「私が取りやすい様に、ゆっくりソフトに投げてくれるから、安心よ。」

「良かった。僕、君を愛する気持ちを、ボールに込めているんだよ。」

「え?愛?」

君は、僕が何を言い出すのかと思っただろうけど、君への愛しさは、真実だよ。

試合中、キッチにボールが回ったものの、相手チームがすぐに、ボールを奪おうとする。

「キッチ。パス。」

僕の居る位置が、たまたま、ゴールのすぐ近くだった為、キッチからボールを受け取った後、すぐに、シュートした。

「ゲン。アリガトね。助かった。それに、シュート、とてもカッコ良かったよ。」

僕は、キッチの一言が、とても、嬉しかった。。少しは、男として、認めてもらえたかな?


休みの日、僕とキッチは、『ラビットパーク』に行った。一面野原で、兎が離し飼いされている。僕らは、兎を撫でた。

「可愛過ぎるー。私も、兎に生まれたかったなー。」

「兎も可愛いけど、君は、もっと可愛いよ。」

毎度ながら、赤面する彼女が愛しい。


次に、僕らは、兎が跳んで行くのを、追い掛けた。

「運動になるわね。」

「可愛い動物を見て走っていると、癒されるよ。それに、君と一緒に走れる事が幸せなんだ。」

「変なの。私達、いつも、一緒に居るのに。」

君は、特別だよ。

走り終わり、僕らは、野原に座った。その矢先、白兎と茶兎が目の前に現れ、野草を食べ始めた。

「微笑ましい光景ね。」

「まるで、僕らみたいだね。」

「言っとくけど、私達は、友達よ。」


6月。最近、朝から、雨が降る事が多い。キッチが、僕の傘を買うと言ってくれたけど、僕は、キッチと1つの傘に入る事を望んだ。彼女は、頑なに拒んだけど、もし、叶わないなら、抱きしめると言ったら、了承した。傘は、僕が持っている。

「ねえ、恥ずかしいんだけど。」

「僕は、嬉しいよ。僕と君の心か一つになれた様で。」

「誤解されるの。恋人同士だって。」

「違うのかい?」

「オッハー。お、相合い傘やってんねー。」

「ゲンが原因なの。」

「積極的じゃん。さすが、彼氏ー。」

「彼氏じゃない。」


休み時間、相変わらず、僕とキッチとセッツは、魔法ごっこをしている。今は、雨の為、体育館で。二人が、僕に呪文をかけ、それに、僕が応えるのだ。まずは、キッチから。

「空中に浮いて、ヘディング。」

僕は、ボールを持って浮き、上に投げ、落ちて来たのを頭で受けた。

「素敵。」

キッチの目が輝いている。彼女が喜んでくれると、やり甲斐がある。

次にセッツ。

「空中に浮いて、片足立ち。」

バランス取れるかな?恐怖を感じながらも、空中で恐る恐る片足を上げた。以外にも、長持ちした。

「どう?アタシからの挑戦は。」

「足を上げたら、落ちると心配してたけど、大丈夫だったみたい。」


給食の時間は、今日限定で、弁当持参である。キッチの弁当は、鶏肉と卵のそぼろご飯とタコウィンナーとほうれん草。ちなみに、僕が作っている。

「んー、そぼろもタコウィンも美味しい。」

笑顔で喜んで食べてくれる彼女もまた、愛しい。

「良かった。君は、肉好きだから、肉尽くしにしたんだ。」

「私の好みを、ちゃんと分かってくれてるのが、嬉しい。」

君の褒め言葉が、僕の最高のプレゼントだよ。


7月。体育では、水泳が始まった。今回は、50メートルのバタ足。キッチの番になり、バタ足で泳ぎ始めたが、25メートル泳ぎ、疲れた様だ。よし、僕の出番だ。僕は、プールに入り、キッチに、手を差し出した。

「僕に捕まって。」

「え?」

「僕が、君をゴールに連れて行く。君は、足だけ動かして。僕は、君の手を持って、前に歩き進むから。」

「大丈夫よ。少し休めば。だから、戻って。」

「無理しないで。君は、ただ、僕に身を預けてくれれば良いんだ。後25メートル。一緒にゴールに行こう。」

キッチは、涙ぐんだ。

「嫌だって言っても、やめないんでしょ。いいわ。勝手にして。」

僕は、キッチの手を持ち、先へと進んだ。

「少しは、楽に足を動かせるかい?」

「ええ、おかげさまで。」

僕は、君の役に立つ度、幸せになれるんだ。

「愛する姫を支える王子。超素敵じゃん。」

「過保護なのよ。」

「ヒット、冷た過ぎ。」

「あれじゃあ、まるで、小学生じゃない。一番、本人が、恥ずかしさを感じてると思うわ。」


8月。僕とキッチは、毎日、近所を散歩している。白い小猫にいつも会い、僕らは、撫でている。そして、ミルクという名を付けた。

「よちよち、ミルク。暑いのに、いつも元気な姿を見せてくれて、有難う。」

キッチが小猫を撫でるのを見ると、猫が羨ましくなる。

「いいなー。ミルクは。キッチに可愛がられて。」

「ゲンだって、瞳が可愛らしいよ。私、可愛いのが好みで、円らに描いたんだから。」

僕は、君に触れてもらいたいんだ。僕も、君に触れたい。


次に、公園で走る。僕がキッチと初めて出会った運命の公園は、広く、別名、マラソン公園と呼ばれる。僕らが出会ったのは、その一部で、お花広場と呼ばれる場所である。走りながら、それを眺めるのが目当てなのだ。

「朝顔さーん。今日も元気にラッパ吹いてるー?」

「朝顔が大好きなんだね。」

「彼は、淋しがりな私の傍にずっと居てくれた、大切な親友なの。」

僕だよ。それは、僕なんだ。いずれ、君に、僕の愛が伝わったら、話すよ。

最後に、ブランコに乗る事に。いつもは、走って、そのまま帰るけど・・。

「僕と一緒に、乗らないかい?」

「どういう事?」

僕は、先にブランコに座った。そして、キッチの手をグイッと引っ張り、僕の上に乗せた。

「危ないじゃない。二人乗りなんて。」

「君だから、するんだよ。」

「え?」

僕は、低く揺らした。

「君が傍に居ると、心が温まり、落ち着くんだ。ずっと、そのままで居たい。」

「ブランコなんて、小さい頃以来だけど、まさか、男の人と二人乗りになるなんて、思いもしなかった。」

「ねえ。この公園で夏祭りやるんだよね。」

「ええ。最後に、花火も見れるの。」

「二人で行きたい。」

「プックククッ。アハハハハ。」

「何がおかしいんだい?」

「昨年、面白い出来事があって。でも、内容は、秘密ね。少し可哀相な事だから。」

烏の僕が、ある男子の頬をつついた事だね。今年は、正式に、君を僕のものにする。


夏祭りの日。いつもは、三つ編みのキッチが、今日は、髪を降ろし、後ろに、ハートの髪飾りをしていた。

「どうしたの?じっと見つめて。」

「あまりにも、可愛らしいから。・・手・・繋いで良い?」

「ただの友達なのに?」

「お願い。今日だけで構わないから。」

本当は、いつも繋ぎたいけど・・。

「・・分かった。いつも、あなたに、救われてるから、そのお礼ね。」

僕は、キッチと手を繋ぎ、夏祭りに向かった。

祭会場で、まず、タコ焼きと、かき氷を食べ、その後、金魚掬いに挑戦。

「これ、すぐ破れるから、なかなか取れないのよね。」

「僕も、全然だよ。」

でも、諦めたくない。成功させて、キッチにプレゼントするんだ。

「おじさん。次の頂戴。」

買い過ぎを追う毎に、まだやる気かと呆れた様な顔をされたが、7回挑戦して、漸く1匹取れた。

「はい、キッチ。」

「私にくれるの?嬉しい。有難う。」

君の笑顔が見たかったんだ。

いよいよ、クライマックスの花火の時間。噴水形・小鳥形・木形・ランナー形・蝶々形・向日葵形と 続く。

「僕、初めて花火を見るけど、綺麗で感動して、涙が出そうだよ。」

「来て良かったね。」

次の瞬間、朝顔形の花火が上がった。僕は、君に伝えたくなった。君が出会った朝顔は、僕なんだと。そう思ったら、自然と体が動き、キッチにキスをしてしまった。彼女は、キスの最中に、僕を突き放した。

「いきなり、何するの?あなたとは、良い友達で居たかった。なのに、何で?ファーストキスは、本当に、心から愛する人としたい。ふざけないで。もう絶交よ。私の前に現れないで。」

君に、僕の本気が伝わらない事が、とても辛い。でも、君の傍に居られない事は、もっと辛い。

「君の気分を害したなら、謝るよ。本当にゴメン。もう、しないから、今まで通り、友達でいて欲しい。」

「・・本当にしない?」

「もう、しない。」

「・・分かった。無かった事にしてあげる。仲直りね。」

傍に居られるのは、嬉しいけど、このまま、僕の想いは、キッチに、伝えられないのだろうか?


9月。自宅で、中間テストに向けて勉強するキッチに、ご飯と、豚肉をタレに付けて炒めたものを持って行った。勿論、僕が作っている。

「キッチ。ここに置いとくね。」

「有難う。助かる。」

「僕には、この位しか、出来ないから。」

僕は、あくまで特別生で、テストは、受けないので、その期間は、自宅待機なのだ。そもそも、勉強は、全く分からないけどね。


テスト期間の学校では・・。

「キッチー。これって、どんな漢字だっけ?」

「えーと、何だっけ?」

「二人共。魔法ごっこばかりやってるから、頭が働かないのよ。もう中1よ。小学生の遊びして、どうするのよ。」

「ヒット。どうしちゃったの?何か変だよ。」

「私は、いつも通りよ。」


テスト期間終了後、自宅で、キッチは、ヒットの事について、相談して来た。

「そっか。親しい友達が急に、離れて行くのは、辛いよね。」

「こういう時、昔に戻らないかなって、思うの。」

僕も、昨年の夏祭りの時、キッチが、いつの間にか彼氏が出来てしまい、僕の事を忘れたんじゃないかって、気持ちが焦ってたなー。

「僕には、急に変わるとか、よく分からないけど、思い出の中には、昔の姿がずっと、生きてるんだよね。それなら、無理して今を見ず、思い出に浸れば良いと思うよ。そして、いつか、今を自然に受け入れられ様になったら、また、新しい友情が生まれるのかもしれないね。」

突然、キッチが涙したので、僕は、焦った。

「わぁー。ゴメンゴメン。僕、気に障る様な事言った?」

「違うよ。感動で涙が出たの。そうだよね。無理して今を見ていたから、余計に辛くなったんだよね。有難う。なんか、スッキリした。さすが、頼れる親友だね。」

「そうかい?」

「まだ無理だけど、いつか、本当に、今のヒットを受け入れられる時が来ると良いな。」

僕も、キッチに親友だと思われてる今が辛い。


10月。今日は、体育祭。僕とキッチは、綱引きに参加中。僕は、綱を挟み、キッチの横に居る。相手チームが強く、僕らが踏ん張るのは、限界に近付いていた。

「フーン・・クッ。やばい。引っ張られそう。」

「諦めないで。・・クッ・・。まだ、終わってない。最後まで、一緒に頑張ろう。」

僕の声が同じチームの他の人達にも響いたのか、皆が、残りの力を振り絞り、必死で対抗し、時間ギリギリで、僕らのチームが勝した。

「疲れたよー。」

「お疲れ様、キッチ。」

「ゲンもお疲れ。何かさ、一人でやってる気になってたけど、一緒に頑張ろうって言ってくれた時、気持ちが楽になって、ゲンが隣に居る事を意識したら、踏ん張れた。」

「僕も、君が居るから、力を出せた。有難う。」

「こちらこそ。」

リレーでは、キッチが走っている時、僕も一緒に走りながら、

「キッチ。僕も一緒だよ。今日の夜食は、サイコロステーキだよ。」と叫んだ。

彼女の走りが終わった後、彼女は、赤面した。

「普通、一緒に走る人なんて、いない。それに、何で、人前で、自分の家の夜食を明かす訳?」

「君の好きな物を口に出せば、力が湧くんじゃないかって思ったから。ちなみに、本当にやるよ。サイコロステーキ。」

「もう、恥ずかし過ぎ。ゲンのバカ。」

彼女は、赤面のまま、僕の体を叩いた。照れて叩く君もまた、愛しい。


11月。今日は、キッチの誕生日。僕と彼女は、遊園地に行った。まずは、ジェットコースター。

「うー、後少しで、45度の坂だよー。」

「乗って平気だったのかい?」

「大丈夫。何とかなる。」

・・と言いつつも、坂で急速になり、恐怖の叫びを上げるキッチ。

「キャー。」

しかも、坂を落ちた直後に、コースターが、グルグルと円を描き、何回か回る。

終わった直後、キッチの顔が青ざめていた。

「気持ち悪いー。」

「座ろうか?」

「うん。そうしよ。」

僕らは、ベンチに座った。

「無理してたのかい?随分、恐怖症なんだね。坂を落ちた時から、目を閉じて、支えをギュッと、しっかり握って、叫んでたから。」

「ゲンの反応を見たかったの。で、どうだった?」

「初めて乗ったけど、新鮮で、面白かったよ。」

「それだけ?・・そうよね。目を開けてられる程、余裕だったんだもんね。」

次は、ミラーハウスという迷路に行った。

「こっちよ。きっと。」

進もうとしたら、僕らは、鏡にぶつかった。

「イタタタ。僕らの目の錯覚だったんだね。」

「いつになったら、ゴールに辿り着くの?」

かれこれ、30分かかり、出口に着いた。

「僕、疲れたよ。先が見えないと、気が遠くなるね。」

「ホント。頭が痛くなってくる。」

次に、メリーゴーランドへ。白馬に乗る僕を見て、キッチが、「まるで、王子様みたい。」と言うので、ドキドキした。

やめて。そんな事を言われたら、キスしたくなる。

次に、お化け屋敷。中を歩いていたら、急に、キッチが、「キャー。」と大きく叫んだ。

「大丈夫かい?」

「い・・今、後ろから、何かに触られた。」

「気のせいだよ。」

「本当だってば。」

「じゃあ、僕が、君の後ろを歩くよ。」

「見張っててね。」

「分かった。」

暫く歩くと、キッチの横から、急に、お化けが現れたので、僕は、彼女の手をグイッと引っ張り、走った。お化けが追いかけて来る。

「ゲン。恐い。」

「ここから、早く脱出しよう。」

「うん。」

僕は、彼女の手を引っ張ったまま、ひたすら走り続けた。そして、漸く、外に出た。

「助かったー。恐怖から救ってくれて、有難う、ゲン。」

僕は、屋敷の中を、キッチと走った時、ただ、君を守りたいという想いで走っていた。本当に、彼女の王子になれた様で、ドキドキした。

最後に、観覧車に乗った。僕は、キッチの隣に座った。高い所に行くと、まるで、烏に戻った様だ。空を飛んでいたから。

「今更だけど、ゲンは、高い所平気なんだ。」

「うん。慣れてる。」

今は、君と一緒に、空を飛んでいる気分で、とても嬉しい。けれど、キッチは、外を見ながら、悲しい表情をしていた。僕は、彼女の手を握った。

「大丈夫かい?」

「ふと、思い出したの。小さい頃、ずっと傍に居た存在が、突然、姿を消した事を。」

「今は、僕が居るよ。僕の手、拒まないんだね。」

「手位は、良いよ。だって、私を守ってくれた、優しい手だから。」

君の温かい言葉に癒され、僕は、涙ぐんだ。

「どうしたの?ゲン。涙出そうだよ。」

僕は、キッチの頬に、手で触れた。

「ゲン?」

「誕生日、おめでとう。」

「有難う。」

この時の僕は、まだ、知らなかった。今の幸せが、一瞬にして、崩壊する事を。


12月。今日は、クリスマス。僕とキッチは、手を繋いで、街を歩いている。

「ゲンの手、ポカポカしてる。手袋みたい。」

「君の手が温まってくれて、良かった。」

街中には、ゴールドの光の街路樹があった。

「綺麗な光だね。」

「宝石みたいね。そういえば、自分で名付けといて、言うのも何だけど、眩光という名、イルミネーションっぽくて、クリスマスらしい感じがする。」

「じゃあ、今日は、僕の名を、沢山呼んでもらわないとね。」

本当は、夏生まれだけど、光輝く美しいクリスマスの夜に生まれたという設定も悪くない。

次に、僕らは、店に入り、それぞれ別のフロアへ行き、クリスマスプレゼントを買った。

「はい、君へのプレゼント。開けてみて。」

「どれどれ・・これは、何?物が小さいわね。鉛筆削りに似てる。」

「手で回すと、音の鳴るオルゴールだよ。」

「何の曲なの?」

「聴いてみて。」

「・・これ、『きよしこの夜』じゃない。オルゴールは、音の宝石よね。1音ずつ輝いていて、聴いてると、心が清らかになるの。」

「店員さんに許可を得て、色々なオルゴールを回させてもらったんだけど、この曲を聴いていたら、感動で涙ぐんでしまったんだ。」

「ゲンは、良い感性してるね。有難う。大切にするね。」

君の喜ぶ顔が、僕のエネルギーだよ。僕を、幸せにしてくれる。

「ゲンには、これ。ベージュのマフラー。あなたは、体が温かいから、必要ないかもしれないけど、必ずしも、風邪をひかないとは、限らないでしょ。万が一の為にと思って。余計だったかな?」

僕は、キッチの心遣いが、とても嬉しくて、涙ぐんでしまった。

「余計だなんて、とんでもないよ。僕の体を心配してくれて、有難う。」

「どうしたの?そこ、泣くところ?」

「だって・・幸せだから。」

店の外で、僕は、早速、マフラーを巻いた。

「どう?似合ってる?」

「無理に巻かなくても良いよ。」

「返答になってないよ。」

「・・似合うよ。」

「よし。元気が出て来た。じゃあ、行こう。」

再び、キッチと手を繋ぎ、次に向かったのは、船である。建物や橋のイルミネーションを船から見物するのだ。

「僕、船に乗るの初めてなんだ。」

「実は、私も。」

船が動き出し、僕らは、船の外で建物を眺めた。

「あっちは、赤と茶ね。」

「こっちは、黄色と緑。青もある。銀と金も。」

「もしかして、クリスマスツリーをイメージしてるのかな?」

「そうか。金が上の星で、茶がツリーの下。後は、飾りという事か。」

「次は、赤と白よ。」

「サンタクロースのイメージかな。次は、赤とピンクだね。何のイメージかな?」

「うーん、どっちも恋愛色って感じだけど。敢えて別のイメージをするなら、ピンクがプレゼントの包みで、赤がリボンってとこかな。」

想像を膨らませ、盛り上がったところで、一旦、船の中に入り、食事する事に。僕らは、フライドチキンとケーキを注文した。

「チキン最高。」

「好きな物を食べると、幸せな気持ちになるよね。僕は、このハートのケーキが気になるよ。」

「私は、イチゴの赤。ゲンは、ピーチのピンクね。」

「頂きます。・・程良い甘さだね。ほんわりした感じ。」

「幸せになれた?」

「うん。なれたよ。」

本当は、食べ物でなく、君と、こうしてデートしてる事が、幸せなんだけどね。

食後、僕らは、再び、船の外に出た。すると、目の前に、橋が見えた。

「上からピンク・白だね。何を意味してるの?」

「この橋の照明は、毎年、『冬の恋』というテーマらしいの。白は、雪。ピンクは、恋心を表現してるんですって。これを見ながらキスした二人は、永遠に結ばれると言われているの。」

本当は、キスしたいけど、君と離れたくないから出来ない。それが、残念でならない。

最後に、お馴染みの公園に行った。噴水の照明が、水色からゴールドに変わった。その瞬間、バックに、ハープの音色が流れる。

「何て美しい響きなんだろう。身も心も癒される。」

「水の中から、女神様が現れた様で、素敵ね。」

美しい物を見て、純粋に素敵だと思う清らかな君の心は、とても愛しい。その心も僕が守りたい。でも、僕が君と一緒に過ごせる日々は、限りがある。このまま、何の進展もなく、君と別れるのは、あまりにも、辛い。僕の自制心は、崩壊し、遂に、キッチに、キスをした。

「ん・んん・・」

愛してる。一人の女性として、心から愛してる。ずっと、このままでいたい。なのに、何故、また、僕を突き放すんだ。

「・・どうして?私、前に言ったよね。絶交するって。」

「どうして?それは、僕が聞きたい。僕のこの姿は、君の望む姿。つまり、僕を心から愛してるって事でしょ?なら、良いじゃん。」

「何も分かってない。確かに、私は、こんな人がいたらいいなって思い、あなたを描いた。確かに、外見も重要だけど、一番重要なのは、中身なの。やたらキスするのは、ただの遊び人じゃない。そういうのは、互いの心が通じ合って、初めてするものだと思う。私があなたを愛してるですって?勝手に決め付けないで。最低。もう二度と、私の前に姿を見せないで。大嫌い。」

彼女は、涙ながら走った。僕は、追い掛け、手首を掴んだが、強い力で離された。キッチが去ってから少し後、我に返った僕は、彼女を傷付けたショックで、涙を禁じ得なかった。二度と元に戻れない。これから、僕は、どうしたら良いんだ。


翌年の1月。中学では・・。

「キッチ、大丈夫?調子悪いの?顔色が良くないし・・。」

「やだ、セッツってば。幻覚よ。」

「・・なら良いけど。ゲン、突然、姿消したじゃん。何かあった?」

「別に、何も無いよ。そもそも、ただの居候だし。」


体育の時間。グランド4周をしている最中、キッチが突然、気を失い倒れたので、ヒットが、保健室に連れて行った。

暫く経ち、キッチが目を開けた。

「・・ここは?」

「保健室よ。」

「ヒット。」

「たまには、ゆっくり休みなよ。家で、ちゃんと、ご飯食べてる?」

「・・ヒットー。」

キッチは、涙した。

「どうしたの?悩みなら、いつでも聞くよ。」

「私、ゲンの事、傷付けちゃった。クリスマスの日、突然キスされて、ふざけるなとか遊び人とか最低とか二度と姿を見せるなって、言ったの。」

「それで、ゲンは、姿を消したのね。彼、本当に、キッチ想いだったね。あの姿だって、あなたの好きな外見でしょ?通学鞄を持ってくれたり、お弁当を作ってくれた。バスケのパス練習で、キッチが取りやすい様、配慮したり、試合中、キッチが誰にパスしようか困ってた時、すぐに駆け付けてくれた。他にも色々あるけど、ゲンはさ、キッチの事、真剣なんだよ。なら、ちゃんと、その想いと向き合わなきゃ。自分が、本当は、彼の事をどう思っているのか考える良い機会なんじゃない?キッチが、自分の気持ちに正直になった時、きっと、彼は、戻って来るよ。」

「・・久しぶりだね。こんなに、優しくしてくれたの。中学に入ってから、ずっと、嫌われたのかと思ってた。」

「嫌いになんて、ならないよ。背伸びしてたんだ。中学生らしくしなくちゃって。本当は、自分らしさを保ち、変わらない、キッチとセッツが羨ましかった。」

「じゃあ、また、3人で、休み時間に、魔法ごっこやろうよ。毎回って訳には、行かないだろうけど。」

「そうね。そうしようかな。」

「約束ね。」

「うん。約束。」

キッチとヒットは、友情を再確認した。


2月。僕は、公園の噴水の前に立ち、涙に暮れていた。その矢先、光の中から、神様が現れた。

「どうしたのだ。昨年末から、知らぬ場所をあちこち歩き、食事を一切取らず、結局、ここに戻るのか。未練があるのだな。」

「神様・・。」

「理由を話してもらえぬか。」

「・・僕は、一人の女の子を心から愛していました。淋しくて涙する彼女、悩む彼女、笑顔の可愛らしい彼女、みんなくるめて・・。でも、想いが伝わらず、フラれてしまいました。もう、姿を見せるなって・・。僕、何の為に、この姿になったんだろう・・。」

「お前は、今後、どうしたい?正直に申せ。」

「・・キッチの所に戻りたい。彼女を、誰にも取られたくない。もう一度、告白して、抱きしめたいし、キスもしたい。でも、僕は、後、4年経てば、消滅してしまう。もし、想いが伝わっても、ずっと一緒に居られない。それが、辛いです。」

「まずは、想いを伝えねばならぬな。そなた、心の中で、ずっと言えぬ事があるだろう。そなたの本当の正体じゃ。」

「彼女を悲しませると思い、言えずにいたのです。あの時、突然、傍を離れたから。」

「傷付ける事を恐れては、真実の愛は、伝わらぬぞ。覚悟を決めるのだ。それから、そなたの寿命の事じゃが、相思相愛となり、キスをすれば、普通の人間の体となり、消滅する事は、無くなる。」

「本当に?」

「ああ、本当じゃ。そうなれば、互いに辛くなる事は、無かろう。」

「・・僕、覚悟を決めました。自分の全てを、彼女に明かします。」

「では、行って参れ。見守っておるぞ。」

「行って参ります。」


僕は、急いで、キッチの家に向かった。すると、学校帰りのキッチを発見した。僕は、大きな声で叫んだ。

「キッチ。」

彼女は、僕に振り向いた。

「君に、どうしても、話したい事があるんだ。聞いて欲しい。」

「・・分かった。」

僕は、キッチの家に上がり、彼女の部屋に入った。

「話って、何?」

「その前に、僕を拒まないでくれて、有難う。」

「ヒットに、あなたの心と向き合えって、言われたから。」

「それなら、ちょうど良かった。実は、僕、人間じゃないんだ。僕は、元々、一つの大きな川から、神の魔力により分裂した内の1つだったんだ。」

「水・・つまり、形を持たない・・だから、ムという名だったのね。」

「うん。僕以外の水達も、同じ名だよ。神に与えられた名だから・・。僕が生まれたのは、夏。台風の影響で川が溢れたのを見兼ねた神が、複数の水の塊に分裂させた上、地上のあらゆる場所に、僕らを飛ばした。変形能力とその他の条件を付けて。」

「変形?どこかで聞いた様な・・。」

「なりたいモノに触れて、強く念じる事で、それになれる能力だよ。」

「やっぱり、覚えがある。小さい頃、そういうモノに、出会った気がする。それとも、夢?」

「夢じゃないよ。そもそも、僕が君と出会ったのは、この姿が初めてじゃない。」

「え?どこかで会った?」

「君が5歳の時、初めて出会ってからずっと、君を見ていたよ。」

「え?嘘。どこで?」

「公園で、朝顔を見てたよね。」

その瞬間、キッチの目から、涙がこぼれた。

「・・それ、本当なの?あなたが、あの時の朝顔なの?じゃあ、幼稚園鞄やランドセルや鉛筆 ・国語の教科書・布団・髪ゴム ・ボール・ 水泳帽も? 麦藁帽子や体操着や手袋・マフラーも皆、あなただったの?」

「・・そうだよ。僕だよ。」

「・・どうして?どうして突然、姿を消したの?私が、どれだけあなたを探したと・・。あなたが居なくなって、どれだけ淋しかったか分かる?私が、ただ変形を面白がってたと思う?あなたが傍に居るという安心感があったの。それで、嬉しくて、興奮してたの。ずっと、あなたを忘れられなかった。いつ帰って来るんだろうって、ずっと待ってたのに・・。」

「・・僕が君の傍を去ったのは、変形を無駄に使用したくなかったからだよ。変形は、ずっと出来る訳じゃない。」

「どういう事?」

「神により、寿命が定められてるんだ。変形回数は、15回。同じ姿を維持可能なのは、5年。最後の変形から5年経つと、僕は、消滅してしまうんだ。」

キッチは、涙した。

「・そ・・そんな。あまりにも残酷過ぎる。・・ごめんなさい。私、何も知らず、無神経だった。」

「朝顔だった時、僕を見る君の笑顔が可愛らしくて、一目惚れしたんだ。それが、恋の始まりだった。もっと、君を見ていたくて、幼稚園鞄になった。そしたら、朝顔の僕が消えた事が辛く涙する君を見た。そんな君も愛しくて、たまらなかった。鞄の僕を、お守りで、大切な心の友で、傍にいると安心する存在だと思ってくれた事、とても嬉しかった。」

「滑り台で遊んだよね。楽しかった?」

「うん。滑り落ちる感覚が、気持ち良かったよ。」

「私の肩に掛かってたおかげね。」

「ブランコの時は、魔法で、空まで高く揺れる様になればなって言ってたね。」

「そんな事も覚えてるの?じゃあ、魔法ごっこも覚えてるよね。」

「シャイン・ミラクル・スターだっけ。」

「その呪文、『星の精霊ピモ』という魔法少女アニメでピモが使用する台詞よ。私の大好きな台詞を覚えていてくれたのね。嬉しい。他は?」

「ピンク!ヒラヒラレイン!」

「それ、散り行く花びらからイメージした創作呪文よ。それも覚えていてくれたのね。」

「君らしい可愛い呪文だと思っていたよ。」

「・そ・・そう?」

「年長になった春、君がスズメを撫でるのを見て、嫉妬したよ。僕は、君を想い、傍にいるのに、何故、スズメなんだって。悔しいけど、そんな君もまた、可愛らしく、心を惹かれた。スズメと遊ぶ君も。どんな君も静かに包む僕の存在を、幸せだと言って、撫でてくれた、優しい心にも惹かれた。6歳の誕生日に、君は、何をしたか、覚えてるかい?」

キッチは、赤面した。

「わ・・私が、何したって言うの?」

「鞄の僕に、口付けたんだ。ご褒美と称して。あの日を境に、僕の恋心に、一層、火がついたんだ。」

「あれは、特別よ。通常、物には、しないから。それにしても、卒園式の日、あなたを捨てるって、ママに言われた時、凄いショックだった。あの時、暫く変形しないでくれたのは、私への気遣いだったの?」

「君が、僕に二度と会えないと悲しんでいるのを、放っておけなかった。僕を大切に想い、抱きしめてくれて、とても幸せだった。だから、もう少し、そのままでいたいと思ったんだ。」

キッチは、再び、涙した。

「あなたは、優しいのね。私を大切に想ってくれて、嬉しい。」

「それを言うには、まだ早いよ。先があるんだから。」

「そうね。ランドセルとして、一緒に登校した。私、坂ばかりの道を15分歩くのは、嫌だって、愚痴ったよね。迷惑だった?」

「とんでもない。君の新たな一面が見れて、嬉しかったよ。」

「鉛筆の時は、公園のお花のスケッチから始まり、勉強や魔法ごっこに、役立ってくれた。嫌な勉強も、あなたと一緒にやってると思うと、楽しくなった。」

「そう言ってもらえると、鉛筆になった甲斐があるよ。魔法ごっこの時、僕は、ステッキ代わりだったね。飼育小屋で、暴れるニワトリを静止させようと、僕を使い、ストップって叫んでたね。」

「もし、本当に、静止したら、魔法が効いたって気分に浸れるもの。」

「魔法があると純粋に信じる君も愛しい。だから、君が、親にプレゼントされた『ピモ』のステッキを使用し、何事も起こらなかった為、魔法なんて存在しないと、一度は、夢を失った時、とても悲しかった。何も出来ない自分が悔しかった。」

「そんな事を考えてくれてたんだ。その気持ちだけで、嬉しい。今は、あなたを通して、実際に、魔法があると分かった。だから、夢を失う事は、無いよ。だから、あなたの存在に感謝ね。有難う。」

「良かった。僕が、君の夢になれて。」

「国語の教科書になってくれた時は、本当に助かった。あの日、本読みに当てられたんだよね。」

「君の救世主だと言ってもらえて、嬉しかった。それに、君に、口付けられて、一人の男として見られたいという感情が強まったんだ。」

「だから、急に、変形回数が増えたのね。」

僕は、赤面した。

「布団に変形し、君の体を包んでいると、抱きしめてる様で、少し、男らしくなれた気がしたんだ。」

「おかげさまで、結婚式場で王子様にキスをされるという素敵な夢を見れて、身も心も癒えた。そして、私の体を温めてくれて、有難う。」

僕は、更に、赤面した。

「ヘアゴムになった時は、何を考えてたの?」

「君の髪に、口付ける僕を想像したよ。そして、髪を縛る時、君が僕に触れ、ドキドキしてしまったんだ。」

「フフ・・可愛らしい。」

「何がだい?」

「縛るのよ。触れるのは、当たり前じゃない。それでドキドキするなんて、本当に、男なのね。」

「凄く嬉しい。君に、男と言ってもらえるなんて。」

「じゃあ、もっと喜ばせてあげる。あなたがボールだった時よ。ボール恐怖症の私だったけど、ドッジボールで、相手チームが、こちらにボールを投げた時、自らの意識で減速してくれた。おかげで、無事に、ボールを取る事が出来た。あなたの優しさが伝わったし、それまで、静止しか出来なかったのが、自分の意志で動きをコントロール出来る様になり、カッコ良かったよ。」

「それは、男として?」

「今思えば、男らしかったと思うわ。そういえば、運動会のリレーで、私の直前になり、緊張で体が震えた時、頭の中に、『一人じゃない。僕も付いてる。一緒に頑張ろう。』という、励ましの言葉が流れ込んで来たけど、あなたなの?」

「そうだよ。事前練習で、君がバトン待ちをしてた時、緊張の余り、倒れた事があったから、心配になったんだ。」

「ゲンは、本当に、優しいね。あの時、あなたの言葉が無かったら、また、倒れてたかもしれない。私の心を支えてくれて、有難う。・・ていうか、減速に続き、言葉を伝える能力まで使用出来て、益々カッコイイよ。」

僕の赤面は、まだ続いた。

「冬、手袋になって、私の手を温めてくれて、有難う。」

「役に立てる事もだけど、付けてもらう間、君の手に、ずっと触れられる事に、幸せを感じていたよ。」

「また男心なの?」

赤面するキッチ。

「そういえば、私の知らぬ内に、自分の意志で飛ぶ能力まで身に付け、マフラーの所に飛び、それになった。あの時は、本当に、驚いたよ。手袋のままでも良かったのに、一体、どうしちゃったの?」

「正月に、お参りに行った時、キッチに口付けられた事が幸せ過ぎて、もっと役に立ちたいと思ってしまったんだ。」

「まあ、首が温まるから、十分、役に立ったけどね。そういえば、魔法ごっこで、私の首に巻き付く様、指示し、実際に巻き付いた後、何故、急に、発熱したの?新たな能力?」

僕の赤面は、まだまだ続く。

「君への愛しさに溢れ、緊張したからだよ。僕自身も驚いてるよ。」

「ゲン。あなたが居なくなってからの話を聞きたい。」

「君と別れてから、マフラー姿のまま、暫く空を飛び、遠く離れた田舎に行った。木の枝の上に降りた後、変形せず、そのままでいた。君に大切にしてもらった思い出に浸りたくて。ある時、烏が僕の隣に来たんだ。飛ぶのに、自分で念じるという手間があったけど、鳥になれば、羽で楽に移動出来ると思い、烏の背中に飛んだ後、念じて、烏になったんだ。いずれ、君の所に、戻る予定だったから。」

「・・烏?ねえ、もしかして、一昨年、夏祭りに来てなかった?」

「うん。君と一緒にいた男の子の頬をつついたのは、僕だよ。」

キッチは、涙した。

「そうだったのね。不思議に思ってたの。まるで、彼に嫉妬している様だったから。あの時、本当に、嫉妬してたの?」

「君を、誰にも取られたくなかった。君を幸せにするのは、僕だって思ってた。」

「嬉しい。今、とても幸せな気分。私の所に、ちゃんと帰って来てくれたもの。でも、私があなたを飼いたいと言ったら、拒み、去った。何故なの?」

「人間の姿で、君の傍にいたかったからだよ。君が、ノートに、理想の男性像を描いてくれたから、こうして、人間の姿で傍に居られる。」

「昨年の4月、烏の姿で、再び、姿を現したのは、人間の姿になるきっかけを探してたからなのね。」

「いつか、君が、魔法があれば、王子様を出現させる事が出来るのにって言ってたよね。僕では、駄目かい?君の王子には、なれないかい?」

キッチは、暫く間を置いてから、話し始めた。

「・・まずは、謝らせて。あなたの正体を知らなかった為に、ふざけるなとか、二度と姿を見せるなって言って、あなたを傷付けたから。」

「悪いのは、正体を明かさずにいた僕だよ。だから、どうか、気に病まないで。」

「優し過ぎだよ。ゲンは。・・でも、そういう所が好きなの。私、あなたが突然、家から居なくなって、淋しくなって、小2から今日に至るまで、ずっと、あなたが忘れられなかった。今、その理由がやっと分かった。あなたの事を友達だと言って来たけど、それは、逃げだったの。自分の気持ちに、正直になれなかったから・・。あなたの話を聞いて、今迄の変形は、私への愛だったんだって知って、とても幸せな気持ちになったの。どんな私も、温かく優しく包み込んでくれた。あなたが人間になってからも、通学鞄を持ってくれたり、係の手伝いで重い紙を持ってくれたよね。給食でビーフカレーが出た時、当番の人に、肉を沢山入れてと言ってくれたのは、小さい頃、あなたが鞄として家に居る時から、母に、肉を沢山貰って、喜んで食べる私を見て来たからよね。給食の時間、1日限定で弁当持参の日、あなたが肉弁を作ってくれて、とても嬉しかった。バスケのパス練習の時、取りやすい様に、ゆっくり、ソフトに投げてくれたのは、私が、ボール恐怖症だと知っていたからよね。休み時間の魔法ごっこの時、あなたは、空中に浮いて、魔法好きな私の夢を壊さないでくれた。プールの5

0メートルバタ足で、私が25メートルで疲れて止まった後、残り25メートルは、私の手を持ち、バタ足する私を、前にグイグイ引っ張ってくれた。だから、疲労感が減り、助かった。体育祭のリレーの時、私が精一杯走れる様に、夜食は、サイコロステーキだって言い、一緒に走り、励ましてくれた。おかげで、身も心も癒えた。私をこんなに大切にしてくれていた。本当は、幸せなのに、あなたを傷付けた。昨年の夏祭りに、朝顔の花火が出た時、あなたが私にキスしたのは、朝顔の正体が自分だと気付いてもらいたかったからなのね。今なら、言える。キスの相手があなたで良かった。今更だけど、あなたの本心を知って、心を惹かれたの。あなたになら、私の全てを奪われても良いと思ったの。」

「・・それは・・つまり・・僕を恋人として見てくれるという事?」

「もう、どこにも行かないで。私の王子様。」

僕は、あまりにも幸せで、キッチを強く抱きしめた。

「ゲン。」

「どこにも行かないよ。これからもずっと、傍にいて、君の全てを抱きしめたい。キスだってしたい。もう、遠慮しないよ。したくなったら、すぐにするから、覚悟して。」

「はい。」

君に、僕の想いが届いて、とても幸せだよ。でも、最後の試練が残ってる。僕は、キッチを離した。

「どうしたの?」

「君に、まだ、言わねばならない事があるんだ。」

「何?」

「僕は、もう、15回変形してる。このままだと、僕は、いずれ、消滅してしまう。」

「何言ってるの?今、約束したばかりじゃない。どこにも行かないって。嫌よ。二度と離れたくない。」

涙するキッチの頬に、手で触れた。

「君と相思相愛になり、キスをすれば、僕は、ただの人間になり、消滅しないらしいんだ。」

「じゃあ、すぐにして。それとも、私が信用出来ない?」

「積極的だね。」

「したい時に、すぐすると言ったのは、あなたじゃない。今がその時でしょ?早くして。」

「キッチ。愛してる。」

「私も、ゲンの事、愛してる。」

僕は、キッチに、キスをした。すると、僕の体が光に包まれた。暫くし、光が消えた時、神が現れた。

「良かったのう。今、そなたは、完全な人間体となった。これで、もう、消滅する事は、無い。さて、まだ、もう一つ、儀式が残っておるぞ。結婚じゃ。」

「神様、お待ち下さい。私、まだ、結婚出来る年齢では、ありません。」

「こちらではな。おまえ達に、これを渡そう。」

神様は、僕ら一人一人に、金の指輪を渡した。

「これは、こちらで言う、婚姻届に当たる。ゲンの持つ指輪を希癒に、希癒の持つ指輪をゲンの指に、はめなさい。」

「キッチ。僕は、これからも、一人の男として、君の全てを愛し、片時も離れず、君を守る事を誓うよ。」

僕は、キッチの薬指に、指輪をはめた。

「ゲン。私も、一人の女として、あなたの全てを愛し、片時も離れない。そして、笑顔の絶えない幸せな家庭を築く事を誓います。」

キッチは、僕の薬指に、指輪をはめた。

「僕、今、とても幸せだよ。漸く、愛する君と結ばれたんだもの。」

「これからは、ずっと、二人で居られるのね。本当に、消滅しないよね。」

「うん。君が僕を愛してくれて、完全に、人間になれたから。」

「良かった。私、あなたが居ないと、幸せになれないもの。」

「僕もだよ。」

僕は、再び、キッチに、キスをした。

「もう終わりなの?そのまま続けて欲しかったのに。」

「つい、してしまったけど、神様の前だから・・。」

「今更、何をためらう。もっとするが良い。」

僕は、かなり赤面した。

「神様。ゲンを生み出して下さり、有難うございました。」

「礼などいらぬ。私は、ただ、厄介払いしただけだ。私が何もせねば、家を飲み込む程の大惨事になっていたかもしれぬからの。」

「僕を、悪者の様に、おっしゃらないで下さい。」

「神様。周囲の記憶を変えて頂く事は、可能ですか?」

「ゲンがそなたの家の婿養子だと記憶を変えてやろう。」

「感謝致します。」

「私は、これにて失礼する。二人で、必ず、幸せになるのだぞ。」

神様は、消え去った。

「ねえ。今日の夜食は、何を作ってくれるの?」

「そうだなー・・牛丼を作ろうか。」

「とても嬉しい。つゆもたっぷりかけてね。学年末テストの勉強しなきゃだから、エネルギーが必要なの。」

「任せて。」


暫く経ち、僕は、キッチの机に、牛丼を置いた。彼女は、目を輝かせていた。

「わあ、美味しそう。」

「冷めない内に、召し上がれ。」

「いただきます。・・うん。美味しい。」

「これで、勉強の為のエネルギーが蓄えられたかい?」

「ええ。もし、まだ、おかわりがあるなら、頂戴。」

「気に入ってもらえて、嬉しい。まだあるから、持って来るね。」


就寝時間、僕とキッチは、横になる前に、キスをした。3回も。

「この指輪を見ると、本当に、あなたと結婚したんだって、実感が湧くの。」

「キッチ。僕が、必ず、君を幸せにしてみせる。」

「今だって、充分、幸せよ。私は、ただ、あなたが傍に居てくれたら、それで良いの。」

「キッチ・・。」

赤面する僕。

「さあ、寝ましょ。明日も学校だしね。」

「うん。」

僕は、キッチを抱きしめながら、横になった。

「ゲンの体、とても温かくて、気持ち良い。1日の疲れが吹き飛ぶよ。あなたの愛に包まれて、身も心も癒えるわ。」

「僕も、君を抱きしめるだけで、心が清らかなり、身も癒えて行く。」

「眠ってる間、離さないで。私の体に、ずっと、触れていて。」

「絶対に、離さない。君の体に、ずっと、触れていたい。キッチ。愛してる。」

「私も、ゲンを愛してる。」

「おやすみ、キッチ。」

「おやすみ、ゲン。」



時が経ち、キッチは、22歳。季節は、春。大学を卒業してすぐ、僕らは、家を出て、二人暮らしを始めた。お花畑の傍に、木の家を建てて。毎日、ドアを開けると、目の前に、お花畑がある事が、僕らを癒してくれる。お花に止まる蝶、毎日遊びに来るスズメ、猫、栗鼠も皆、僕らの家族である。特に、栗鼠は、僕らの体を登り、肩に乗って来るのが、とても可愛くて、心をくすぐられる。

今、僕らは、手を繋ぎ、スズメが鳴く声を聞きながら、お花畑を眺めている。すると、足元に猫や栗鼠が来るので、それを僕らが撫でる。

「こんな素敵な生活が出来るなんて、夢みたい。」

「可愛い動物達に、美しいお花。癒しの光景だね。」

「あなたが傍にいるから、癒しの光景になるの。幸せよ。今、こうして、当たり前の様に、あなたが、私の横に居る事。」

「僕が人間の姿で、今も君の傍に居られるのは、君の愛があるからだよ。本当に、有難う。そして、これから先もずっと、二人で幸せになろうね。」

「はい。」

「キッチ、愛してる。」

「ゲン、愛してる。」

僕らは、キスした。

これからも、僕らの幸せは、ずっと、続く。

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僕の身は、いつ固まるだろう? ファイヤー★アップル @415829

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