第3話 勇者あああああの旅立ち
日が暮れてしまったので俺たちは一度解散し、次の日の朝、町を出た。
もちろんガリアンはおいていった。
仲間にしないと、先に進めそうにない予感がしたから、握手しただけだ。
それに・・・
「ぐふふふふふ」
「あああああさん、どうしたのですか」
アリゼがちょこんと首をかしげる。かわいい。
「何でもない。何でもない。」
これから始まる二人の幸せな未来を邪魔されてなるものか。
そんなやりとりをしながら俺たちは、森の中を歩いていた。
すると突然、辺りの茂みがガサガサとゆれた。
俺は、振り返った。4人組の男だ。
リーダー格と思われる鞭を持った男が、俺達を呼び止めた。
「待ちな!そこのお二人さん。ここを通りたかったら通行料を置いていくのが決まりだぜ?」
男が鞭を軽く振りながらニタニタとこちらを見てくる。
後ろの子分たちがはやし立てる。
「ウェーイ、ウェーイ」
「気を付けてください、あああああさん!この人たちは、最近この辺りを荒らしまわっていると噂の盗賊団です!」
アリゼが眉をひそめながら言う。かわいい。
「大丈夫だよ、アリゼ。ここは俺に任せて、後ろを向いて耳をふさいでいてくれ。」
「はい。あああああさん。」
アリゼがぎゅっと耳をおさえて縮こまる。かわいい。
それを確認した俺は懐に手を入れる。
男たちはそれを見て武器を構える。
辺りに走る緊張。
俺は、探していたブツを掴むとスッとそれを前へと突出し、こう言った。
「有り金全部置いてくので勘弁してください。」
「へっ。やたら素直じゃねえか。感心感心。」
鞭の男がそう言った。
子分たちがはやし立てる。
「ソレナー、ソレナー」
鞭の男が俺の財布をひったくる。
「へへっ。いくら持ってるのかな・・・って100Gしかねえじゃねえか!
子供の小遣いじゃねえんだぞ!薬草10個買ったら終わりじゃねえか!」
「ナイワー、ナイワー」
「お前らもそう思う?気が合うなあ」
「この野郎なめやがって!身ぐるみ剥いじまえ!」
子分たちが俺に向かって突っ込んでくる。
「ワンチャンアルデー、ワンチャンアルデー」
やばい!
だがそのときだった。斧が飛んできて、一人の子分の頭にめりこんだ。
「チャイゴッ!」
変な声をあげながら子分の男は倒れた。
「なんだ!」
全員の視線は斧の飛んできた方へうつる。
躍動する筋肉。
陽光をこれでもかと言わんばかりに反射するテカテカの肌。
「ガリアン!」
「このオレをおいていきやがって!だがこれで分かっただろ?オレが必要だって。」
ガリアンは、大胸筋をひくつかせながら、豪快に笑った。
そして、自慢の拳をビシッと突きつけ、盗賊団と対峙する。
俺もガリアンの勢いにつられ、ヒノキの棒を構え男たちを睨みつける。
「こうなったらやってやる!」
しかし、ガリアンが俺を制した。
「待ちな、あああああ。お前戦闘は久しぶりだろう。」
「そうだな。半年前、町はずれに迷い込んだスラーイムと戦って以来だ。」
「よし。それならオレがアドバイスをしてやるから、戦いのコツを思い出せよ。」
なんてありがたい。やはり持つべきは、戦いに慣れた友人というわけだ。
俺は感謝の意を視線に込めて送ると、ガリアンは親指を立ててそれに応えた。
「まずは、画面上部の数字に注目してくれ。HPが残りの体力を示している。この数値が0になると、死んじまう。
パーティーが全員死ぬと全滅になって、最後にセーブしたところからやり直しになってしまうから気をつけろ。
次にMPだが・・・」
「いやちょい待ち。画面上部とかHPとかさっきから何言ってんだよ!」
「何だ。もう一回聞きたいのか。HPが残りの体力を・・・」
「いや、そうじゃない。」
「スキップか。それもいいだろう。」
わかったぜ、みたいな顔して親指立てるなよ。会話噛み合ってないから。
たぶんガリアンは酔っぱらっているのだろう。うん、そうに違いない。
”たたかう”コマンドにカーソルを合わせろ、などと言い出したガリアンを無視して俺は眼前の敵に集中することにした。
俺は敵を注意深く観察する。鞭の男は場数を踏んでいそうだ。
目の前で一人やられたのに、動じていない。
しかし、取り巻きの連中はガリアンの気迫に押されているように見える。
ガリアンの支離滅裂な言動に引いているわけではない・・・はず、たぶん。
おれは残った二人の取り巻きのうち、やや腰の引けている右の男に狙いを定める。
いくぞっ!
心の中で気合を入れ、俺は大地を蹴った。
俺は、脇目もふらずに駆けた。
敵とは真逆の方向に。
気付くと俺は、逃げ出していた!
しかし回り込まれてしまった!
「お許しくだせぇ。いきなり逃げ出したらどうなるのか好奇心が抑えきれなくて!」
俺はそう言うと、地面にダイブして、土下座をした。
「おい、邪魔だからどけ」
ガリアンは、丸くなった俺をけりとばす。そして、落ちていた斧を拾うと、地面を力強く蹴り、子分の男に斧をフルスイングした。
「アカンパティーンヤー」
赤黒い血が、地面に飛び散った。男のからだは、まっぷたつに引き裂かれ、上半身が俺の目の前にどさりと落ちた。
俺は、すわったまま、とびあがった。
ガリアンは、もう一人の男めがけて、斧をなげた。
「ツンダー」
斧は、男の首を胴体から切り離した。頭を失った男の胴体はバランスをくずして後ろに倒れた。
「やったー俺たちの大勝利!!」
俺は、叫んだ。
そのときだった。
俺の目の前の、上半身だけになった男が、左手で地面からおきあがり、右手で地面に落ちた剣をにぎりしめた。そして、白目をむいたたまま、俺にむかって剣をふりあげた。
俺は、右に転がり、紙一重のところで、ふりおろされた剣をよけた。
「なんでまだ生きてんだよ」
「まだHPが残ってるんだろう」
そう言うと、ガリアンは、斧を上半身だけになった男の頭にふりおろした。
「オツカレー」
男は痙攣して、動かなくなった。
鞭の男が顔面蒼白になり、膝から崩れ落ちた。そして、土下座をした。
「お許しくだせぇ」
俺は立ち上がると、丸くなった鞭の男の頭を右足でふみつけた。
「おまえ、これだけのことをして、許されると思ってんの?」
「そこを何とか。ワビ料を払いますので」
「ふざけんなよ。金でカタがつくわけねぇだろ」
「1万Gでどうですか?」
「もう一声」
「1万5千」
「よし、手を打った!」
ガリアンが俺の頭をはたいた。
「ぜんぜん活躍してねぇくせに、急に元気になるなよ」
ガリアンが言った。
「ワタクシ、戦う意欲がくじかれた相手には、めっぽう強いのでして」
そんなことを言っていた時、アリゼが恐る恐る顔を上げ辺りを見回した。かわいい。
そして、戦闘が終わったことを悟ったのか、
「ステキ!かっこいい!」
そう言うと、俺にとびついた。かわいい。
「いや、どう考えても俺の方がすごいじゃん」
ガリアンがつぶやいた。
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