4
――昼休み。
給食を食べ終えてしまうと、二人はそれぞれで聞きこみにあたった。とにかく、まずは情報を集めなくてはいけない。
ハルは食器トレイを給食のワゴンに戻すと、同じように食事を終えた小野俊樹の机に向かった。教室にはまだ何人か、給食を食べ終えていない生徒が残っている。
「ちょっといいかな?」
俊樹は気味悪そうな、不審げな表情でハルのことを見た。それはそうだろう。こっちが犯人だと言った相手から話しかけられているのだ。
「何だよ」
ぶっきらぼうな返事だった。小野俊樹はどちらかといえば背の低い、痩せた少年だった。髪が短くて、落ちつきのない目をしている。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど」
ハルは近くの机のイスを引っぱりだして、そこに座った。
「カードは見つかったのかよ?」
俊樹は不機嫌そうな顔をした。ハルのほうをまともに見ようとしないが、答える気がないわけではないらしい。
「まだだよ。その前にいろいろ聞いておきたくて。まず、盗られたカードっていうのは、どういうものだったの?」
「スタチャイの
「すた……よん……?」
どこから聞いていいのかわからなかった。
「とりあえず、〝すたちゃい〟って何?」
どこかの国のお菓子だろうか?
「〝スターチャイルド〟のことだよ。知らねえのか?」
「……そういえば、ちょっとだけ見たことある」
答えたが、内容は全然覚えていない。最近人気のアニメ番組だった。
「それにカードがあるの?」
「ああ」
「それで、えと、〝よんかー〟っていうのは?」
俊樹がめんどくさそうに説明した。
「四つ印のことだよ。四つ印カードで〝4カー〟。俺が持ってたのは主人公のカードのうち、四つ印のやつで、No.25には変異種が四枚あるけど、そのうち一つはめったに出ねえんだ。今、カードは第三セッションのツーエンドに入ってるから、初期カードはなかなか手に入んねえし」
さっぱりわからなかった。
「とりあえず、すごく珍しいってことだね?」
「カードショップ行ったら、五千円くらいするだろうな」
「そんなに?」
ちょっと驚いた。それなら、単純に金額が目当てだったということもありえるのだろうか?
「それくらい普通だよ。スタチャイのすげえカードとかはもっと高いんだぜ」
俊樹はそう言って、もの欲しそうな顔をした。変に熱っぽい表情だった。
「カードの大きさは、どのくらいあるの?」
「普通だよ、ってわかんねえか。ええと、まあトランプのカードくらいだな」
それならポケットにも入るし、どこにでも簡単に隠せそうだった。もっとも、高価なものらしいのであまり粗雑には扱えないだろうが。
「カードがなくなったのに気づいたのは、いつ頃?」
「教室に戻ってすぐだよ。集会が終わって、戻って調べてみたらなかった」
「一応聞くけど、なくした可能性は?」
「あるわけねえだろ」
うっとうしそうに言う。
「あれは絶対盗られたんだっつうの。俺は箱に鍵かけてたんだぞ」
「その鍵っていうのは、どういうのなの?」
これはちょっと重要なことだった。
俊樹は面倒くさそうにしながら、引きだしの中からごそごそと箱を取りだしている。
「それ?」
意外と物々しい外観の箱だった。直接鍵をかけられるようになっているらしく、横面に鍵穴がとりつけてある。金属製で、大きさは手の平に乗るくらいだった。
「鍵を持っているのは?」
「何だよ、俺だけに決まってるだろ」
「これ、鋏とか使って開かないかな?」
自転車の鍵くらいだったら、普通の鋏で開けられる。
「無理だね」
何故か自信ありげに俊樹は答えた。
「これ、元々小さい金庫だからな。鍵は見た目よりしっかりしてんだよ。ちょっとやそっとじゃ開かないようになってる。親父からもらったんだからな」
「へえ」
ハルはその箱を手にとって、しげしげと眺めてみた。意外と重みがあって、学校に持ってくるにはちょっとした荷物になりそうだった。こんこん、と叩いてみると硬く、簡単には壊れそうにない。確かに頑丈そうだった。
「教室に戻ってきたら、鍵が開いてて、中身が盗られてたんだね? 盗られたのは、カードだけ?」
「…………」
何故か俊樹は黙った。
「どうかした?」
「鍵は開いてなかった」
「?」
「戻ってきたとき、鍵は開いてなかったんだよ。俺が開けてみたら、中身がなくなってたんだだ。カードのほかには何も入れてなかった。盗られたのもそれだけだ」
「鍵はかかったままだった……?」
犯人は鍵をかけなおしたということだろうか。わざわざどうしてそんなことをしたのだろう? 発見を少しでも遅らせるために? でも結果的にはそれはまったくの無駄に終わっている。
「念のために聞くけど、カードを盗られる心当たりとかはない?」
「あったらそいつを疑ってるっつーの」
「それもそうだね」
これ以上、聞くことはなさそうだった。
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