第四章 英雄の片鱗

   一

 宇宙でる星は瞬かない。

 知識として知ってはいても、それをしみじみ自覚したのはいつのことだっただろうか。

 厚い大気の層による散乱効果を受けない星の輝きは強く、それでいて奇妙なほど無機質なものなのだという感慨を、かつて自身の双眸に映った景色へ抱いたことだけは覚えている。

 まだ若い―――20代だった頃の話だ。

 齢70を数える老いさらばえた我が身を振り返り、あらためて自身の老いを自覚する。

 ベースボールを趣味に持ち、週3回のジム通いも欠かさなかった40代までは、自身の身体に重さなど感じたことも無かった。

 手にしたバットよりも太い腕で投げるボールの風切り音、逆に打者として真芯を捉えて打ち返した際に覚える心地よい感触は、何物にも代えがたい喜びを与えてくれた。

 何かに取りつかれたかのごとく、ベースボールへ没頭していた少年の日々を思う。

 ローティーンからミドルティーン半ばにまで渡る“身体の成長期ゴールデンエイジ”全てを捧げてさえ、夢見たメジャーリーグのきざはしにも届かなかった記憶はいつも甘く、それでいて苦い。自身の非才へ絶望したあの日に一人の少年は夢を失い、大人への階段を一つ登らざるをえなかったのだから。

 暗中模索あんちゅうもさくの果てに見つけた科学者としての道に後悔など微塵も無いが、かつて見た夢とあまりにかけ離れた現状にふと、小さな痛みを胸に覚えることがある。

 多くの、そして大抵の人間が抱え持つのであろう“在りし日の残滓”が流す涙を乾かせるすべを、カジバ・ラプトは未だ見つけられてはいなかった。


 否―――見つけたと、思った事はあった。


 亡友とも の名を名乗り、戦うことを決意するより遥か以前のひとときがそうだった。

 心を許しあった仲間たちと共に研究へ没頭した一時期には、確かな充足を感じられていた。

 過去の苦さは酒とともに笑い語る思い出となり、歩む現在の道行きこそ自身の本流なのだと信じることができていた。

 12人であれた日々の中でなら。

 やむなき事情により彼らから離れ、11人と1人となってしまった日でさえも。

 あの日、10人が失われ、残された唯一の友が、ただ1人の仇敵と成り果てたことを知ってしまう瞬間までは。

「友よ……」

 我知らず漏らした囁きが、閉じた瞼を濡らしてゆく。

「あの日、私がおまえたちから離れなかったのならば……12人のままであり続けてさえいたのならば……違ったか? 防ぐことができていたか? あいつの裏切りも……おまえたちの死も……全てを……」

 塞翁さいおう が馬。そんな言葉がカジバの脳裏を過ぎった。


 人間万事にんげんばんじ、塞翁が馬


 古代の地球―――中国前漢時代の思想書“淮南子えなんじ”に記された故事に端を発する言葉だ。

 人の行く末も、未来も、神ならざる人間には予測もつかないもの。いま眼前に在る現実の善し悪しさえもまた、遥か未来に起こる結果でしか計ることはできない。

 定まらず、変転を続ける吉凶に翻弄される人間の無常をうたった言葉だが、今のカジバにとってそれは紛う事なき真実そのものだった。

 友を亡くし、仇敵かたきを得た。

 名を打ち捨て、始めた旅の道程で得た“道連れ少年”は、まるで己の鏡像のようだった。

 かつて忌避し、諦めていたはずの宇宙へ覚悟とともに踏み出して今、目指した戦線の眼前へ立っている。

 

 あと少し―――。


 焦燥が、胸の奥を焼き焦がし続けている。

 果たすと誓った約束だけが、今のカジバにとって全てだった。

 そのために全てを打ち捨て、文字通り自身の命を掛けてきたのだ。

 だからこそ恐ろしい。

 そうまでしておきながら、老いや不運によって果たせず終わるかもしれない不安が心から離れなかった。

 自身を突き動かす妄執とも呼べる思いで赤熱した心に、冷たい風を吹きつける恐怖という名の冷気が振り払えない。

 搾り出すような思いで奮った心が、声にならない叫びを上げている。

 我が火よ。絶えてくれるなと。

 我が記憶よ。消えてくれるなと。

 我が友たちよ。どうか不破の道しるべたれ―――――と。



 *  *   *   *   *



 甲高い電子音が、カジバ・ラプトを鬱々うつうつとした韜晦とうかいから引き戻した。

 重い―――否、老いて鈍くなった我が身に舌打ちしながら身を起こす。どうやら自室の机で資料を読んでいるうちに寝てしまったらしい。顔を起こすと、つっぷした両腕の下敷きとなったキーボードによって出鱈目に表示されたデータ群がそこにあった。

 血流が妨げられていたためだろう。両腕が痺れ、思うように動かない。老化による心臓と血管の衰えのせいか、最近は特に痺れやすかった。

(やれやれ。老いてしみじみ感じるのぅ。若い時分の頑健さというものを)

 両肩と首の後ろにひどい強張りを覚えながら、いまだ鳴り止まぬインターホンの受話器へと右手を伸ばす。

「来たのか?」

 受話器を手に発したのは問いかけではなかった。

 胡乱な声音に受話器の先から鼻じろむ気配が伝わってくる。だがそんな応答も予想していたのだろう。すぐに緊張をはらんだ少年の声音が返ってきた。

「はい。艦のレーダーが捕捉した機体の識別信号は間違いなくテンザネスとのことです」

「わかった。すぐに行く。第一ポートの連中に着艦準備を進めておくように伝えておいてくれ」

「了解しました」

 通話の切れた受話器をインターホンへと戻し、深いため息をつく。

 たったそれだけの運動ですら、まるで全力疾走をした後のように四肢は重く、心臓の鼓動ははやっていた。

 無重力適応障害。

 宇宙開発時代初期の宇宙飛行士たちを悩ませた自律神経失調症の一種だ。

 人間の身体は、地球という惑星上で常に1Gの重力にさらされている。その重力に抗う強度を前提に筋骨は形成され、かつ自律的に維持されているのだ。

 だが無重力という環境では、その負荷が無い。そのため長期間に渡る宇宙生活を送ると、肉体が無重力という過剰な軽負荷へ適応してしまい、筋骨が極端に衰えていってしまうのだ。

 そのため1日数回の定期運動や栄養摂取によってそれを防ぐ処置が取られていたが、現在ではほとんど行われていない。

 宇宙開発が本格化した200年ほど前に無重力環境への適応因子が開発され、そういった措置が必要なくなったからだ。

 世代を重ねて因子を受け継いでいる宇宙生活者は生まれつきそれを備え、地球から宇宙へと上がる者は投与を受けることで無重力への抵抗力を得ることができた。

「情けない……これさえなければ……」

 震える右手を伸ばす。

 テーブルの上へ乱雑に散らばる手のひらサイズのケースを一つ取り上げ、親指で留め具ごと蓋を跳ね上げさせると、直径2センチ程度の金属管があった。それを取り出して片側端の蓋を回し開けて放り、あらわとなった先端を右の首筋へ押し当てる。同時に歯を食いしばり、右手の親指で反対側の先端部を強く押した。

 風船から空気が抜けるような鋭い音が室内へ響き渡り、衝撃にカジバはよろめいていた。

 首筋から冷たい感触が全身に広がり、のしかかるようだった倦怠感が治まってゆく。

 圧縮空気による浸透式の注射器が注入したのは、濃縮された栄養剤と鎮静剤、そして無重力環境適応因子だ。

「無重力への……適応障害も……ひどくなるばかり……か。もはや幾ばくもないな。ワシの命も」

 荒い息づかいとともに注射器を取り落としたカジバの胸中を、苦い思いが占めてゆく。

 人類が宇宙への本格進出を開始してから約300年―――無重力適応因子は人類そのものへ広く浸透し、地球生活者でさえ因子保有率は60%を超えている。遺伝子改良とはいえ、因子の適合率は90%以上と非常に高く副作用も無いことから、宇宙生活者ならずともちょっとした資格取得程度の意味合いで因子を打ち込む地球生活者も多い。

 だが何事にも例外はあるもので、ごく稀に無重力適応因子に対して拒絶反応を起こす人々があった。

 長い宇宙開拓史においても100人といない稀有な体質だ。それが、まさか我が身のうちにあるだなどとは想像さえしなかった。地球圏でも名だたる才能が呼び集められた、まさに探求の徒たちの最高峰たる新興の技術結社“ザ・ゲイト”へ参集した一人として、宇宙は文字通りの新境地となるはずであったのだ。

 だがそれはかなわなかった。

 研究者として破格の賛辞を受けた才能は、宇宙に拒絶されたのだ。

「どれだけ宇宙に拒まれようとも、ワシは進まねばならん。友らの無念を晴らせる者は、もはやワシ一人しかおらぬのだから」

 宇宙がカジバを拒絶したのか。カジバの肉体が宇宙を拒絶したのか。拒絶反応により定着しない因子を定期的に我が身へと打ち込み、残り少ない寿命を削りながら、かぶりを振ってカジバは席を立った。

 ともすればよろける我が身を叱咤し、壁掛けから白衣を取り上げて羽織る。

 棒立ちのまま数度、深呼吸をして息を整え、なけなしの気力を奮い起こして背筋を伸ばした。

「そして導いてやらねばならん。あまりにもワシとよく似たあの少年を」

 それまでの衰弱ぶりが嘘だったかのように、カジバは歩を踏み出した。

 強がりでも見せかけでも、自身に呼応し集った仲間たちへ弱った姿を見せるわけにはいかなかった。

「レイジ。イノリ。どうか見守っていておくれ。おまえたちが世に送り出した子供達が、災禍の未来を打ち壊す強さを手に出来るように。我らの罪を、その無垢な炎で焼き尽くしてくれるように」



   二

 響き渡る電子音が、優人を浅い眠りから引き戻した。

 甲高い警報音ではない。眠る前にセットした目覚ましのチャイムだ。

 発泡ウレタンを内包した干渉材で組まれた簡易ベッドから身を起こし、顔を上げる。そうして見た先には、展開されたコクピットハッチと、その奥で自動稼働を続ける操縦席があった。左手を挙げ、電子音を歌い続けるシールギアの上面を右の人差し指でなぞるとチャイム音が止み、日付と時刻が表示されてゆく。

「予定通りなら、そろそろか」

 左の壁面に並ぶ小窓の一つを開け、冷蔵庫からチューブパック入りの飲料水を取り出す。

 それを左手に一口すすり、手探りで伸ばした右の指先が壁面のスイッチを押すと、暖色の淡いダウンライトから蛍光色の白色照明へと切り替わった。

 真白い明かりにしばし目を細め、かぶりを振る優人はTシャツにスウェットという軽装だ。

「急ごしらえにしては悪くない居心地だけれど、さすがに居住ユニットで10日あまりはキツイね」

 無重力による軽負荷のおかげで血行阻害による肩こりや強張りはほとんどない。上下の感覚が曖昧であることと、普段からコクピットという狭い空間に慣れているためなのだろう。閉塞感による心理ストレスは考えていたよりもずっと少なかったが、やはりたった3メートル四方のスペースで見込み20日にも及ぶ機中生活は退屈にすぎた。

「お互いの自動航法システムとオートジャイロが正常に同期してくれていると良いのだけれど……」

 クッション材の床を蹴り、無重力の宙を泳いでコクピットへと飛び込む。

 シートには座らず、起動させたままのヘッドアップ・ディスプレイを外から覗き込むと、球体型の三次元レーダーに近傍の航宙図が表示されていた。同時に自機を示す緑の光点と、そこから予定進路を指し示す矢印が伸びている。

「宇宙空間でのランデヴーは運任せ、か……」

 なにしろ目印ひとつない上に、天体間の距離ともなれば光年単位にまでなる無窮の空間だ。

 互いの進路がコンマ1°ずれただけで、到着地点の差異は数百、数千キロとなりかねない。

 それ故に、異なる港を発った艦船が宇宙空間で直接合流を果たそうとすることは非常に難しく、高度な航法システムや正確な航宙図以上に、何より幸運が必要なのだった。

「自動灯台のポインティングのおかげで航路の補正はできているはずだけれど、タイミングがズレるなら先行を優先しないと」

 開拓された宇宙航路の途上には、一定間隔で自動灯台が設置されている。

 宇宙では天体の公転や引力・潮汐力の影響で常に小惑星や重力異常地帯などの位置関係が変化し続けている。それを把握し、宇宙航路を行く艦船の自動航行システムへフィードバックさせるため、点在する無数の自動灯台が正規航路を監視しているのだ。

「ここまでの道のりで航路の異物排除用ミサイルの消費はたったの3発? 思ったよりも随分少ない……やっぱり、ヴォルフ大尉たちが通過した後だから、かな」

 ヘッドアップ・ディスプレイのタッチディスプレイを操作して表示させた自動航法システムの動作ログと機体ステータスを流し読み、優人は身をひるがえした。

 再び居住ユニットへ降り立ち、壁面のクローゼットを開けてパイロットスーツとヘルメットを取り出してゆく。

「どちらにしろ、ここから先は敵の勢力圏内だ。最悪は遭遇戦も覚悟しておかないと」

 スウェットを放り捨て、パイロットスーツへ袖を通してゆく。たったの10日とはいえ、運動不足によりわずかに筋肉が衰えたのだろう。思いのほか通りの良い袖口に、我知らず小さな苦笑がもれていた。

「……今のうちに難易度を上げて2、3戦くらいシミュレーションをしておいた方がいいのかな」

 襟元の気密ファスナーを閉じ、同様にグローブとブーツとの接続箇所のそれも閉じてゆく。ストレス軽減と体温調整のため収縮性を緩めに設定されているインナーのおかげで息苦しさは少ないが、それでも拭えない窮屈さに軽く伸びをする。

「シミュレーションのスコアはだいぶ上がっているけれど、まだまだアンディの最高得点には遠い、か……」

 収納ロッカーの大扉を開け、散乱した着替えや小物を乱雑に放り込んでゆく。入れ替わりに、飲料や食料パック、簡易医療キットなどが入ったリュックサックを取り出した。ここから先は第二種戦闘準備態勢となるため、基本的にコクピット詰めとなる。もし戦闘ともなれば軽量化のため、居住ユニットは脱着して廃棄することとなるためだ。

「外でおおっぴらに機体を動かせていたなら、もう少しイナーシャのムラを調整できたのだけれど……たぶん実戦で使えるレベルまでは消しきれてないだろうな。手持ちのオリジナルデータは全部が全部、訓練機で育てたものだし……初期設定で入っている基本戦闘プログラムをやりくりして使いこなすしかない、か。教科書通りの戦い方は得意なつもりだけれど」

 コクピットへ向けて放ったヘルメットとバッグを追ってクッション材の床を軽く蹴る。無重力の宙をまっすぐに泳ぎ、操縦席の背もたれに当たって跳ね返ってきた荷物たちを受け止めるのと同時に、優人はコクピットハッチへ足を掛けていた。

「うん?」

 ヘッドアップ・ディスプレイから警報音が上がった。

 身をひるがえして背中からコクピットシートに着座し、画面を見やると航法システムの航宙図にレーダーが捉えた艦船が表示されている。艦船自体に強力な索敵妨害機能があるのだろう。相当な至近距離だ。すでに距離は10kmを割り込もうとしている。

「トリニティ・ウィーセル……よかった。これで航程も大幅に短縮できるはず」

 艦船が発する識別信号は、味方として機体のコンピューターに登録されているものだった。船名はトリニティ・ウィーセル。秘密裏に合流を予定していた優人も知る艦船だった。

柾人まさと……」

 恐らくは、それに乗艦しているであろう弟の名がこぼれる。

 無事の合流に胸を撫で下ろす間もなく、トリニティ・ウィーセルからの通信音がコクピットに響き渡った。

 簡素な電子メールの内容は、無事の合流を祝福する形式儀礼文と、艦への着艦位置と誘導コースを知らせるものだった。

「全て了解。システムの同期申請許可。“機体制御を貴艦の管制制御へ預けますYou have control > ”」

 コクピットシートの固定具で身体を固定し、ヘッドアップ・ディスプレイへ告げる。音声入力を受け付けた機体の自動航法システムが、トリニティ・ウィーセルのシステムと同期を果たした旨のメッセージをヘッドアップ・ディスプレイに表示させてきた。

「中央からやってきた艦……か」

 右方を見やると、遠く画面にトリニティ・ウィーセルの船体が見えた。

 視線入力により拡大画像の小ウィンドゥが画面上に開き、拡大画像が表示される。特異な形状をした船体だった。光学的な簡易測長にして約150メートルほど―――紡錘形の航宙巡洋艦の三隻を、四基のアーチ状パーツで並列に連結しているのだ。

 見るからに急造の船体だが、相当に綿密な同調調整と連結パーツの剛性を備えているのだろう。重心の分散や、三隻の推力バランスの差異による負荷での挙動不安定やダメージは微塵も伺えない。

 優人側へ速度と姿勢を同期させるためなのだろう。後部の主推進器以外にも、細かな姿勢制御用ノズルの吐き出す火が、船体の各所から断続的に吐き出されていた。

「彼らはどうしてここまで……」

 中央という強大な枠組みを敵に回してまで、なぜ彼らは戦う道を選んだのだろう。そんな疑問がふと、浮かんだ。

 二たび目の再会を果たすのだろう柾人―――現在はレイジ・トライエフと名を変えた弟の言によれば、様々な理由で中央から追われ、カジバ博士と名乗る人物に拾われた者たちなのだという。その一部には、月の収容所から救い出されたテレパシストたちも混じっているのだとも。

 トリニティ・ウィーセルの左舷艦が、前部上甲板をワニの口のごとく上へと跳ね上げさせてゆく。

 全長100メートル強と短い船体のため艦載スペースは小さい上に高さが無い。中央製の艦なだけに、本来はコロニー間移動シャトルなどの航宙機用なのだろう。通常のブラッディ・ティアーズであれば着地後に機体を寝かせる必要があるが、航宙機形態へ変形している現在のテンザネスであればそのまま収容できることだろう。

 テンザネスの後部に接続していたブースターユニットが切り離された。燃料は十分に残ってはいたものの、艦への収納ともなれば全長が足りないためだ。惜しいが、仕方がない。

「あれは……?」

 距離が近くなり、着艦スペースの内装が輪郭を帯びてくる。そのディティールに覚えた既視感が記憶の景色と重なって、確信へと変わっていった。

「似ている……」

 艦を追い抜き、左舷前方で一定距離を保つテンザネスが両翼の先端に供えたナビゲーションランプを点灯させてゆく。大気圏内における航空機と同様に、右翼が緑、左翼は赤のランプだ。その意味もやはり同様で、管制システムが備える光学測距システムが艦と機体との距離や速度を正確に認識するための機構だった。

「当たり前か。むしろこっちが原型なのだろうね」

 開放された着艦スペースの前端へせり出した着座機構が、機体の固定具を展開してゆく。フレキシブルなロボットアームを四基備えた姿は、グローリー・シリウスでテンザネスが身を預けていたそれとそっくりなものだった。

 着座機構からまっすぐ前方の宙空へ投影された二本のガイドビームにテンザネスが近づいてゆく。

 機体下部でガイドビームの受光機構がポップアップし、受光と同時に機体が小刻みに揺れ始めた。ガイドビームと機体の芯直を合わせこみ、かつトリニティ・ウィーセルの管制システムによって艦と機体の速度差を調整しているのだ。

 10秒とかからずに行われた自動調整が済むと、機体が前部の姿勢制御用推進器を小さく吹かせながら主推進器の出力を落として減速してゆく。そうして縮まる距離がゼロとなり、機体が着座機構のロボットアームによって懸架と固定、収容位置への後退が完了すると、重々しい響きを上げて艦の天蓋が閉ざされていった。

「このスムーズな動き……見るからに急造艦なのに凄いな。三艦の連結橋も単なる接続構造材じゃないな。基部の稼動で三艦の位置関係を自律的に変更することで、天蓋開放に伴って崩れたマスバランスを補正しているのか。ただでさえ巡洋艦で完全開放型の天蓋機構は珍しいのに……うん? あの合わせ目の勘合部も妙な形をしている。何か特殊なシーリング機構なのかな。木星艦だと、真空チャンバーの弁体機構で三層以上に装甲を重ねる形だけれど」

 果てのない無窮から、鉄の鋼材で出来た閉鎖空間へ変わった景色を見回してゆく。見慣れた木星圏製のそれとは明らかに異なるセンスで設計された艦内は、元は技術者を志望していた優人にとって目を引かれるものばかりだった。

南風はえ中尉……で、良いのかの?』

 目新しいデザインラインを興味深く見回す前でヘッドアップ・ディスプレイから声がかかった。

『カジバ・ラプトじゃ。半年ぶりになるが、覚えているかの』

 艦の管制システムを通じたしわがれ声の主は、この一団のリーダーであり、かつて一度だけ会った老人のものだ。

『すまんが節約のために格納庫にはエアーを開放しておらんくてな。案内に人をやるから、気密服で出てきてくれんか』

 機体と艦のチェックのためだろう。格納庫の後部側にある扉が開き、作業用の簡易気密服姿の人影が数人あらわれた。無重力の宙を泳いで散ってゆく30人あまりの人影を目で追いながら、コックピットシートの固定ベルトを外し、ヘルメットのバイザーを下ろす。

 パイロットスーツの生命維持システム起動を検知した左手首のシールギアが小さく振動した。空気の無い状況では空気伝播による信号音は意味がないため、振動の間隔や強弱によって装着者に警報を知らせる仕組みだ。

 左手首の甲部に施されたプロテクションに目をやり、背部ユニットの空気残量と生命維持システムの正常動作ランプを確認する。

「生命維持システムの稼動、エアーの残圧も問題なし」

 ヘッドアップ・ディスプレイの右脇に並ぶスイッチの幾つかを操作すると、わずかに伝わるエンジンの律動が細くなりだした。同時に機体の制御システムがスリープモードへと移行し、ヘッドアップ・ディスプレイを含めた操作機器が左右と上下へ展開してゆく。同時に空調が停止し、コクピット内の気圧が下がりだした。外部との気圧差により、ハッチ開放時に衝撃が発生するのを防ぐためだ。

 そうしてコクピット内が真空になるのと同時に、再び機体が小さく振動し、前方で開放されたままのハッチ付近から細かな異音が連続し始めた。台座のロボットアームが、外付けの居住ユニットを取り外しているのだ。

 やがて居住ユニットがゆっくりと遠ざかり、外側の景色が顔をのぞかせるのと同時に優人はコクピットシートから立ち上がっていた。

 身を乗り出して左右を見やれば、左下の足元で誘導灯を掲げた人影が手を振っている。

「それじゃあ、少しの休憩だね。お互いに」

 振り返ったコクピットに小さな敬礼を残して、優人は宙へと身を躍らせた。

 無重力の宙を滑り降りてゆく背で、機体のコックピットハッチが閉じてゆく。

 格納庫の床へ降り立つ寸前で四肢の力を抜き、膝から崩れ落ちるようにして左膝と右手を付いた。移動に伴う速度を殺し、反発による浮き上がりを防ぐためだ。無重力下では重力による地面への加速こそ無いが、逆に反力が強く働く。着地時に力が入りすぎていると、関節の踏ん張りが反力となって地面にはじき返されてしまうのだ。そういった浮き上がり防止のため靴底には吸着用マグネットも仕込まれてはいるが、ブラッディ・ティアーズの格納庫内では役に立たない。機体の高出力ジェネレーターが発する電磁波の影響から艦を守るため、壁面や床に帯電防止も兼ねた防磁処理が施されているためだ。

 だが、立ち上がろうとして、靴底の吸着感にふと動きを止める。

 地に着いた右手を軽く撫で這わせ、そこが無垢の鋼板であることに目を細めた。

(そうか。こいつは中央の船、なんだっけ)

 恐らくは防磁処理した鋼板と、帯電防止処理を施した鋼板を重ねるサンドイッチ工法が取られているのだろう。いかにも中央の艦艇らしい贅沢ともいえる造りに、あらためて異邦の技術文化に触れている自身を強く自覚する。

「久しぶりにみたよ。その三点着地……当たり前だけれど、木星圏の人って感じだ」

 誘導灯を振っていた人影が歩み寄り、近接通信で語りかけてきた。小柄なシルエットと懐かしい声音に優人の口元がほころぶ。その先では鏡写しに少年が笑顔を見せていた。ゴーグル型の眼鏡をかけた、優人と似た顔立ちの少年だ。

「少し、背が伸びたんじゃないか?」

 立ち上がり、頭一つほど低い少年に右手を差し出す。

「一応、まだ成長期だからね。カジバ博士には、頻繁にコックピットの微調整するの面倒くさいから、もう伸びるなとか言われているけれど」

「ひどいな」

「ひどいよね」

 力強く握り返してきた弟―――レイジの言葉に吹き出して、優人はあらためて再会を果たした弟を見やった。

「元気そうだ」

「優兄ぃも」

 手振りでレイジにいざなわれ、横並びに歩き出す。小刻みに床を蹴って無重力の宙を進む中でふと、右を歩くレイジの足元へ目を落とした。地を蹴る足音が自身のそれと変わらないことに疑問を覚えたのだ。

「その靴……マグネット式じゃないんだ」

「え?」

「あ、いや、マグネット式にしては靴音が軽いから」

 不思議そうな問いかけに、怪訝な顔をしていたレイジの目に理解の色が浮かぶ。

「勿論、マグネットだよ。でも最近のは造りが良くて、服飾一体型電子機器ウェアラブル端末 >―――あぁ、僕の場合はシール・ギアで代用しているのだけれど、それを通じて磁力のON/OFFや、 歩行に合わせて磁力の強さを自動調整してくれるから、吸い付きに足をとられたり、引き剥がしに力を込める必要がなくて凄く楽なんだ」

 左手首のプロテクションカバーごしにシール・ギアへ人差し指を這わせると、小さな電子音が上がり足音に硬質な金属音が混じり始めた。

 跳ねるようだった歩みが文字通りのものへと変わり、まるで重力があるかのように自然な足運びを見せてゆく。

「ね?」

 数歩歩いてみせてから再びシール・ギアを操作して解除すると、足元を強く蹴って加速し優人に追いついた。

「よければ後で予備のスーツを着てみたら? 総務さんに、サイズの合う予備品を頼んでおくから」

「そうだな。せっかくだし、お願いするよ。貴重な体験になりそうだ―――うん? 総務部なんてのがあるのか? この艦は。まるでカンパニーみたいだ」

 聞きなれない単語に目をしばたたかせる優人にレイジが再び笑う。違う違うとかぶりを振って肩をすくめてみせた。

「いくらなんでも、さすがに無いよ。コニーさんって主計担当のおばさんがいるのだけど、器用っていうか妙に何でも出来る人なものだから、いつの間にか総務さんって呼び名になったんだって」

「そういうこと、か。そういえば、ここのクルーはその……中央の軍属だった人たち……?」

「うん。軍属だった人も少なくないよ。でも、半分以上はカジバ博士の知り合いや、色々あって逃げ込んできた人たちとその家族たち……かな。中央を脱出してくるまで数え切れないくらい戦闘やトラブルもあったから、みんな戦い慣れてしまった感はあるけれどね」

 語るレイジが足を止める。気づけば格納庫の壁際にある自動扉が眼前にあった。電子錠のランプは開錠を意味する緑色のランプを点灯させている。

「幻想機と一緒に僕が拾われてからだけで4年と少し、カジバ博士たちが反中央のために行動を始めたのは更に何年も前らしいのだけれど、ここまで長かったよ」

 自動扉右脇の操作パネルへレイジが右手を伸ばすと、自動扉が左右へと開いた。エアロックも兼ねているのだろう。現れた手狭な小部屋へ歩を進めると、背後で格納庫への扉が閉まり、壁際のメッセージパネルに“気圧調整中”のメッセージが点滅する。

 全身を締め付けられるような圧迫感に周囲を見回すと、緩慢に表示を加算してゆく気圧計が左手の壁にあった。

 その数値が1気圧に達するのと同時にメッセージパネルが“気圧調整完了”とのメッセージへと変わり、入ってきた方向とは逆の扉が開いてゆく。

「もう脱いでも大丈夫だから」

 ヘルメットを脱ぎ外し、小脇に抱えたレイジが歩き出す。それを追って出た先はロッカールームだった。無数に吊り下げられた気密服が並ぶ大型ハンガー2基と、個人荷物用のロッカーが20基ほど並ぶ室内は広く、艦よりも港湾施設のそれを連想させた。

「除染処理するからヘルメットとスーツはこっちのカゴに入れておいて。荷物はそっちの名札の無いロッカーを使ってくれていいから。あ、床に物を置かないように気をつけてね。物を散らかすと総務さんに凄く怒られちゃうんだ。シャワー室はそっちにあるから。使い方はたぶん木星軍の艦と変わらないと思うけれど、わからなかったら呼んでね」

 いちはやく気密服を脱ぎ、自分の名前が書かれたロッカーから着替えを身に着けたレイジがテキパキと指示を出してくる。

「優兄ぃ?」

 そんな自分を呆気に取られた顔で見つめる優人に気づいたのか、怪訝に振り返ったレイジが小首をかしげた。

「どうしたの?」

「いや……なんていうか……大きくなったんだなぁ……おまえ……」

「なんだよそれ」

 吹き出したレイジが腹を抱えて身をよじる。明るい笑い声につられて、気づけば優人も声をあげて笑っていた。

 頭の片隅で思う。こんな風に笑ったのはいつぶりのことだろうか、と。

(うん。本当に、大きくなった……)

 かつては常に己の後ろで影を踏み歩き、時には手を引いて連れ歩いた弟の現在に、優人は心からの安堵を覚えずにはいられなかった。


   三

 シャワーで数日分の汗と垢を流し、木星軍の士官服に袖を通した優人が案内されたのは中央艦の艦橋だった。

 見慣れない六角形のタクティクス・モニターテーブルを中心に、ユニット化された5基のシステムシートが楔形に並んでいる。

 シート間の動線は人一人がちょうど歩ける程度にしかないものの手狭な印象は皆無だ。ほぼ全周に近い壁面の外部モニターにより、まるで宇宙に艦橋が浮遊しているかのような錯覚を起こさせているからなのだろう。

 楔の先端に位置するシートが艦の操縦席であり、左右後ろの4基は管制や通信といったサブシステムのオペレート・シートが配置さえていた。戦時ではないためか、はたまたそれがここの常態なのか、シートに座す全員がラフな私服姿であり、どこか緩い空気が漂っている。

「遅かったの」

 タクティクス・モニターテーブル手前の艦長席に座す白衣姿のカジバが、左の肩越しに二人を見やった。

 弛緩した空気の中でただ一人、生気あふれる双眸が値踏みするように優人を映している。

「すみません。軽く艦内を案内して回っていましたので……」

「まぁ、ええわい」

 艦長席から身軽に飛び降り、身をひるがえしたカジバが二人の前へと降り立つ。

「あらためて。カジバ・ラプトじゃ。この一団の団長みたいなもんじゃな。艦長は別にいるんじゃが、神経質な男でのぅ。常に自分の目で無事を確かめていないと落ち着かんとかのたまって、戦闘時以外は四六時中艦内をウロウロしくさっておるんじゃ。呼び出しても来やせんし……まぁ、艦内を歩いておれば、そのうちバッタリ出くわすじゃろう。もし見つけたらケツを蹴りつけて、すぐに艦橋へ戻れと伝えてくれると助かる」

「は、はぁ……」

 一息にまくしたて、ぶつぶつと口中で愚痴をこぼすカジバに鼻白み、我に返って敬礼を取る。

「木星軍アロンダイト大隊所属、南風はえ優人ゆうと中尉です。このたびは貴艦の御協力に感謝いたします」

「あぁ、そういうのはええて。何しろワシらは非合法の私設武装組織―――いや、武装集団か。まぁ、要するに山賊や海賊みたいなモンじゃからな。正規の軍人に礼を送られるほど立派な相手じゃぁないわい。じゃが―――」

 ひらひらと左手を振って愉快げに笑うと、カジバは優人へと右手を伸ばした。その意を察し、握手を交わした優人の手が力強く握り返される。枯れ木のように細い手が見せた予想外の感触に戸惑い、優人は眼前の老人を困惑の顔で見返していた。

「―――歓迎するぞ。幻想機のパイロットよ。よもや最も達成の確率を低く見積もっていた目的の一つが、真っ先に叶うとは思ってもみなかったわい」

 含み笑いをもらしながら踵を返し、再び艦長席へ腰を下ろしたカジバの手元でインターホンが鳴った。

 受話器を取り、小声で幾つかやりとりしていた後に受話器を置いて振り返る。

「レイジ。すまんが2番艦へ行ってくれんか。武装班から高周波ブレードの研ぎ出しが完了したんで、フューリーへの組み戻し作業に入りたいそうじゃ」

「随分と早かったんですね。予定だと今日いっぱいはかかるはずじゃ……」

「テンザネスの来着で奴らも興が乗ったみたいじゃな。職人気質の連中だけに、火が着くと止まらん。不眠不休でやってやるから、後でテンザネスに装備されているはずのブレードもチェックさせろと言ってきおった。済まんが、行きがけに総務ちゃんへ差し入れの手配を頼んでおいてもらえるかの」

「わかりました。それじゃ、優兄ぃ。またあとで」

 うなずき一つととに身をひるがえし、後ろ手に手を振るレイジが艦橋の扉の先へと消えてゆく。それに右手を上げて返し、扉が閉まるのを見届けた優人はそれまでとは表情を一変させ、険を浮かべた面持ちでカジバへと振り返った。

 その先では、やはり同様に好々爺の仮面を脱ぎ捨てたカジバが鋭い視線を向けてきている。

「普段はシニカルを装っているのじゃがな。やはりまだ子供か。こうして家族と対面してしまうと簡単に仮面が剥がれてしまうようじゃ。あの子があんなに柔らかい表情をするのを初めて見たわい」

「……あいつはまだ子供です。子供が年相応であることに何か問題が?」

「子供では困る。何しろワシらにとって、レイジとフューリーは唯一無二の艦載戦力じゃからな。冷徹な戦士であってもらわねば困る」

「そんな風に責任を煽って……戦士だなんておだてて……そうやって、あいつをパイロットに仕立て上げたんですか。あんな子供を矢面に立たせて……それが大人のやることですか」

「そうするより他はなかった。ワシらにも、あの子にとっても―――」

「他の道はなかったのですか。ただ逃げ延びて、中央も木星圏も、幻想機さえ関係のない場所で生きる道もあったはずです」

「無い。いや、たとえあったとしても、それを選ぶわけにはいかないのじゃよ。ワシは、な」

「そんな――――子供の手を血まみれにしてまで!!」

 淡々と、抑揚なく語るカジバの声音に優人の顔が朱に染まった。足取り荒く艦長席の正面へと回りこみ、怒りをあらわに睥睨する。

「そうまでして何故、この戦線へ参加したのです。こんな危険な戦場へ、あなた方が参戦する理由など無いでしょう。中央と戦うにしても、それなりのやり方があるはずです」

「……意外じゃな」

「?」

「こう言われると思うておったよ。パイロットなぞ、とんでもない。今すぐ弟をフューリーから降ろせ、とな」

 衝突し火花を散らす視線の片端で、言葉を詰まらせた優人が苦々しく口をひらく。

「……あいつは、僕の弟ですから」

 搾り出した声音は無念でかすれ、握り締めた両手は震えている。

「わかっているんです。一度、自分で決めた戦いを降りるなんてありえない。セシルを救う。そのために戦うと、あいつが自分で決めたというのなら、止めるつもりなんてなかった。だから一度は何も言わず見送りもした。でも、これは違う。違いますよ」

 一歩を詰め寄り、言い募る言葉に我知らず熱がこもりだす。

「戦争ですよ? あなたたちの目的とは関係のない無数の人間たちが争う場所ですよ。そんな場所にフューリーを参戦させる? その意味を、あなたもあいつも本当に理解しているのですか? 大量殺人者になるんですよ? 戦争で幻想機の力を振るう。それはもう、ただの蹂躙だ。何故そんなことが必要なのです。ここは、あなたたちの戦場ではないはずだ」

「いいや。戦場じゃよ。ここも、な」

 カジバの右指先が艦長席の肘掛に備え付けられているパネル機器の上を踊った。その操作により艦橋中央のタクティクス・モニター・テーブルが起動し、宙空に無数の資料データを浮かび上がらせてゆく。

「テンザネスのシステムを起動させたならば、おおよその経緯は知っておるのじゃろう?」

 無言の首肯を目端に、カジバが一つの資料を拡大表示させる。それは一機のブラッディ・ティアーズを撮影した資料写真だった。建造中のものなのだろう。人体に酷似した身体バランスを持つ細身の機体は、まばらに一次装甲を付与されたばかりな上に左腕や頭部といった各部が欠けている。目を引くのは、大きく開放されて空隙をさらず胸郭だった。

「これは?」

「コードネーム“ダークネス”。マイセルフ8号機の制御部品として製造された試作実験機じゃよ」

「8号機? では、まさか……」

「そうじゃ。こたびの攻防戦に、中央は幻想機を投入する腹づもりじゃ。それもただの幻想機ではないぞ。純粋な破壊攻撃性能に限って言えば、12機中で最強といっても過言ではない。未だ不完全にしかシステムを扱えぬおまえさんでは、とても太刀打ちできぬ相手なのじゃ」

「だからフューリーに倒させると? 僕の代わりに? 全てはそのためだと?」

「……少し違う。なにせフューリーでは―――いや、レイジでは8号機には勝てん。勝てぬ理由があるのじゃ」

 優人の言葉にカジバの顔が曇る。苦々しく吐き捨てられた言葉のおびた不穏な響きに、優人は悲しみとも、悔しみともとれる感情の気配を感じて鼻じろんだ。

「勝てない? 同じ幻想機で、そこまでの差が? にわかには信じられません。システムを起動したフューリーの恐ろしさは、対峙した私が誰よりもわかっているつもりです。以前に私が勝てたのも、テンザネスとフューリーの相性の悪さに依るところが大きい。どんな機体だったとしても―――」

「機体性能ではない。パイロットとして搭載されているテレパシストが問題なのじゃ。たしかにフューリーの性能とレイジならば、8号機を圧倒し、追い詰めることまではできよう。じゃが最後の最後、敵を追い詰め、互いのシステム発動による共感を通して相手の正体を知れば、恐らくレイジは8号機を倒せまい。たとえそれが、自身の死を招く事なのだとわかっていたとしても」

 悪い想像を振り払うようにかぶりを振って優人へと目を戻したカジバは、厳しい眼差しで左の人差し指を挙げた。

「ワシらの目的は幾つかある。その一つがセシルの救出であり、彼女の欠片とも言うべきクロノギアのサブコア回収じゃ。この戦いは、エンパス・システムのキーパーツとして幻想機に組み込まれたサブコアを回収する、またとない機会なのじゃ。ザ・ゲイトによって存在そのものを秘匿されている幻想機は、半数近くが所在すら不明なままじゃからの」

 語られる言葉のピースが積みあがるたび、優人の中でカジバの思惑が結実してゆく。

「あなたは、僕に殺し屋になれと―――」

「そうじゃ。おまえさんには、レイジが追い詰めた8号機へのトドメ役を担ってもらう。幻想機に対抗できるのは幻想機だけじゃからな。恐らくは激しい戦いになることじゃろう。だが、それを成したおまえさんは間違いなく英雄となれる。8号機の打倒は、こたびの戦線において趨勢を決定づけることとイコールじゃろうからのぅ。ザ・ラスト・サンが成すにふさわしい英雄譚の完成というわけじゃ」

 皮肉まじりに口はしを吊り上げるカジバを前に、優人は絶句していた。

 英雄の後継として祀り上げられた自身が政治的に利用されることなど覚悟していたつもりだった。自身のあずかり知らぬところで様々な思惑が動き、シナリオがつむがれている気配も感じていた。

「……それが、木星軍にあなたたちが協力する理由ですか」

「そうじゃ。利害は一致しておる。我々は仇敵の一つを破壊しサブコアを手に入れ、木星軍は―――いや、正確には議長派閥かの。奴らは、無二の英雄と勝利からなる権勢を手にする。醜い話じゃが、英雄の後継を名乗る君とてそれは望むところであろう?」

 退路など、とうに自ら切り捨てている。

 どんなに心がザワつこうとも、進むことしか許されない道を優人は歩んでいるのだ。

「一つ、教えてください」

 かつて“英雄 クロモ・ドカト”もこんな気持ちで決戦におもむいたのだろうか。

 胸をしめる息苦しさに左手で襟元を掻き締めながら、優人は問うていた。

「8号機のパイロットは、本当に敵なのですか? あいつにとって殺せない人間だというのなら、相手にとってもそうなのではないのですか? エンパス・システムを発動できるのなら、そのパイロットも幻想機の真実を知る人間のはずです。話して……分かり合うことはできないのですか?」

「……おまえさんが考えているような手合いではないのじゃよ。そして知る必要もない」

「教えるつもりはないと? 何も知らないまま殺せ、と?」

「やはり兄弟なのじゃな。レイジとおまえさんはよく似ておる。その強さも、優しさも、弱ささえ。だからこそテンザネスはおまえさんを求め、パイロットに選んだのじゃろうな」

 遠い眼差しが優人を映している。見覚えのある瞳だ。それはかつてヴォルフが見せたそれと同じ、優人に知らない誰かを重ね見ている眼差しだった。

南風はえ中尉。らしくもない忠告をさせて欲しい。よいか。8号機に限らず、おまえさんは絶対に敵を知ろうとしてはいかん。敵を知れば、いつか必ずおまえさんは決定的な場面で躊躇う。そして本当に守ろうとしていた何かを失うことになるじゃろう。レイジがそうだったように。かつてテンザネスに選ばれた最初のパイロットがそうだったように。じゃから、今は英雄になることだけを考えなさい。英雄となるために敵を倒す。そのために引き金を引く。それだけを心がけなさい。忘れてはいかんぞ。己が木星軍の兵士であることを。木星軍を勝利へ導くために敵を撃つことこそが、兵士に課せられた役目である事を。決してそこに己の感情を差し入れてはならんぞ」

 戦意も精気もなりをひそめ、賢者じみた老練な眼差しと言葉が優人に投げかけられる。

 その響きが帯びた真摯な気配に、優人はただただ言葉を無くすのだった。


   四

「カジバ博士」

 レイジが艦橋へカジバを訪ねたのは、優人が合流して三日が過ぎた頃の事だった。

「おお。レイジか。こんな時間にどうしたんじゃ」

「いえ。ちょっと手持ち無沙汰で……」

 艦長席で頬杖をつきながら、資料閲覧用タブレットを睨んでいたカジバが振り返る。時刻は地球標準時間で21時を少し回ったあたりだ。そんなカジバに肩をすくめ、レイジは苦笑を浮かべて歩み寄った。

「なんじゃ。暇ならもっと兄弟水入らずの時間を過ごしておればよかろ。こんな機会は、もう無いかもしれんのじゃぞ」

「それはわかっているのですけれど……」

「うん? どうした。10年ぶりに兄弟喧嘩でもしたか」

 言葉を濁すレイジへ、からかい口調でカジバが笑う。

「喧嘩するのはいいが、しこりは残さんようにな。すっきりせんのなら、武道室でもシミュレータールームでも好きに使ったらええ。実の兄弟なんじゃ。顔つき合わせて過ごしていれば、すぐに喧嘩の理由なぞどうでもよくなるよ」

「………」

「ワシにもクソ生意気な弟妹たちがおったがの、それで大抵はどうにかなったぞ。仲直りの秘訣はの。距離を置かんことじゃ。どんなに憎たらしくても、悪態が口をついても、物理的な距離さえなけりゃ自然となんとかなる。そこで変に距離を置くと後が大変じゃぞ。気持ちの着地点がずれてどんどん心がすれ違ってしまうからの。放っておくと価値観や考え方までズレちまうから、後から気づいても修正するのは簡単なことじゃあない」

 腕組みしながら瞑目し、歳の離れた弟妹たちに手を焼いた少年の日々を韜晦とうかいする。苦々しくも暖かい記憶だ。

「博士にも兄弟が?」

「おお。おったとも。6つ下の妹と、7つ下に双子の弟たちがの。これがまたイタズラ好きの、とんでもないクソガキどもでの。ベースボールの練習後にロッカーを開けるとじゃな、ほぼ必ずワシの携帯端末にご近所やスクールから大量の留守録とメールが入っておるんじゃ。中身は言わずもがな。ワシの少年時代は、ベースボールと奴らのしでかしたイタズラの後始末の二色で綺麗に塗りつぶされてしまっておる」

「ご、ご両親は……?」

「……両親そろって放蕩家での。子供の世話は家政婦へ丸投げじゃ。夫婦仲だけは良かったのが不幸中の救いじゃったがの」

「………」

 語るうちに当時の感情が蘇ってきたのか、苛立ちでシートのアームレストを人差し指が叩き始める。良くない方向で感情が高ぶったときにみせるカジバの悪癖だ。

「あのクソガキどものイタズラが原因で何回、彼女に振られたことか。言っておくがワシは女子にモテておったんじゃ。背丈こそ並じゃったが、ハンサムなスポーツマンじゃったからの。ラブレターやホームパーティの誘いを受けるなんて日常茶飯事じゃった。じゃが、それをあの悪魔どもにブチ壊されるのも日常茶飯事での……コンチキショウ!」

「は、博士。落ち着いてください」

「いいや。これが落ち着いておれるか。一番腹が立つのはの。妹がハイスクールに上がって彼氏ができた途端、3人そろって豹変しおったんじゃ。信じられるか? 気がついたら内申どころか成績まで評価Aラッシュじゃぞ? こっちは奴らのせいでロクに勉強なぞする暇もなかったせいで散々な成績な上に、内申までボロボロじゃったのに」

 ふつり、と。張り詰めた感情の糸が切れた顔で天井を見上げた目が遠くなる。

「それが、夢破れ、成績も散々、いいとこ無しで最後の1年に差し掛かったワシの大学生活終盤の出来事じゃったよ……ワシの少年時代とはなんだったのか……」

「え? あ……で、でも今は博士じゃないですか。妹さんたちがまともになったのなら、そこから挽回できたんですよね? 彼女だってできたんでしょ?」

「……レイジ。一度貼られたレッテルというものはの。そう簡単には取れんのじゃよ。そして残念な事に、謝り続けの人生で当時のワシはすっかり卑屈になってしまっておっての。そのせいでワシは人生最大のあやまちを犯してしまったのじゃ」

「あ、過ち?」

「うっかり……してしまったのじゃよ。女なんているものか。俺は研究で名を残す硬派な男で一生を通してやる……という阿呆な決意を、な」

(うわぁ……)

 生気を失い、どこか老け込んだ表情で乾いた笑いをもらすカジバにレイジの顔がひきつる。

 助けを求めてオペレーターシートへ顔を向けると、誰もがそろって顔を背けていた。通信担当の女性オペレーターが両手で顔をおおって背中を震わせている。恐らくは必死に笑いをこらえているのだろう。他の面々も、よくみれば自身の太ももをつねっていたり、タオルで顔を拭き始めたりなどそろって不審な挙動をみせている。

「そこからワシは走った。わき目も振らずに全速力じゃ。若いというのは恐ろしいのう。気づいたときには齢50を超え、博士だの教授だのと呼ばれる人間になっとった。……童貞のままの」

 ぶふっ、と。こらえきれずに漏らされた誰かの吹き出しが艦橋内へ響き渡る。

「なんじゃ貴様ら」

 こめかみの血管をヒクつかせ、怒りの形相で顔を向けたカジバがオペレーターたちへドスのこもった声を投げ放つ。

「いま笑った奴、ちょっと前へ出て来てきてくれんかの。なぁに、ちょっと語り合いたいだけじゃ。このワシを笑うに足る御立派な恋愛れんあい遍歴へんれきとやらを聞かせてもらわにゃならんでな。安心せい。連帯責任じゃ。結果はちゃ~んと、この場におる全員の給与査定にもれなく反映してやるからの。いっておくが虚偽やシラは認めんぞ。後で綿密な調査をさせるからの。スクール時代どころか幼児期に至るまで、貴様らの遍歴という遍歴を掘り返しつくし、さらし尽くしてくれるわ!!」

 ひどい! 鬼! 悪魔! オペレーターたちの悲鳴が艦橋内に響き渡る。それを前に、万来の拍手を迎えるオーケストラの指揮者さながらに両腕を広げ、せせら笑いながらカジバは艦橋クルーたちを睥睨へいげいしてみせた。

「心地よいのぅ。見苦しいのぅ。悪党どもの鳴き声は。のぅ。レイジや?」

「へ? あ、あの……」

 心底愉快げにかたわらのレイジへとカジバが笑いかける。その瞬間、クルーたちからの無数の視線が突き刺さった。

 余計な事を言いやがって、そんな言外の視線に思わず後ずさり、そのまま一目散に艦橋を飛び出してゆく。

「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁい!」

 自動扉が閉まる寸前、漏れ届いた罵声の残響に、レイジは両耳をふさぎながら叫ぶのだった。



   五

 足元から伝播した甲高い金属音がヘルメットのバイザーを細かに振動させ、響く騒音に優人はかすかに顔をしかめた。

 音の発信源は駐機したテンザネスと平行して並ぶ大型トレーラーだ。艦内用だが、艦載機を初めとした大重量物を牽引するため大型の水素エンジンが搭載されたそれは、左右に備えた物々しい硬質ゴム製の無限軌道も相まって戦車然とした趣きがある。

 騒音は、そんなトレーラーが牽引する後部のユニットから上がっていた。

 全長20メートルにも及ぶ箱型のユニットだ。ガラスの天蓋を透かして見える内部では、ロボットアームによって柄と刃渡りのみねをくわえ込まれた片刃の刃があった。テンザネスに搭載されていた高周波ブレードの一振りだ。

 その刃渡りをなぞるように、鳥の嘴に似たユニットが動き続けていた。刃との間で火花を散らすそれは、嘴の内部に精密な研ぎ出し機構を備えたスキャニング式の研磨ヘッドだ。

「面白いな。ブレードのためにこんな大掛かりな装置を用意するだなんて……」

「おう。当然よ。刃の芯直と鋭利さ加減は、切れ味だけじゃなく剣の寿命や稼働時間にも影響してくるからな。俺たちにはレイジとフューリーしかいねぇんだ。だからこそ、常にベストコンディションであいつらを送り出してやりてぇのよ。つか随分と驚いてくれてんな。武装の手入れがそんなに珍しいかね。このぐらい、あんたらもやってんだろう?」

 ガラスの天蓋に立ち、眼下の後継への感嘆をもらす右で、腕組みして装置を睨んでいた小太りの男が怪訝に首を傾げた。優人より頭一つほど低い背たけだが、厚みのある体格と腰周りに巻いた案全帯に工具袋、小型サーチライト付ヘルメットという作業者然とした装いが目を引く。

 カトカ・カルナザル。トリニティー・ウィーセルの整備班に名を連ねる男だ。歳は38歳と聞いているが、屈託の無い表情と威勢の良さのせいか幾分若い印象を受ける。カジバを中心に集まったためか技術陣に壮年の者が多く年齢層が高いせいもあるのだろう。荒々しい怒号が飛び交う現場仕事の中でもカトカの存在は際立っていた。

「いえ。高周波ブレードの切れ味の実質は高周波振動ですから、そのあたりの機能調整以外には特に何も……機体の設計や戦術もドッグファイトが前提ですし、木星軍だとブレードは消耗部品扱いで、折れたり高周波振動機能に支障が出たら交換するのがが普通なんです。対ブラッディ・ティアーズでブレードを打ち合せたならともかく、前大戦でも対航宙機で高周波ブレードを使用した事例は少ないので、ここまでの設備を積んでいる艦艇は修理整備用の工作艦くらいだと思います」

 敵性国家・群編成を対中央として設計されているブラッディ・ティアーズの設計コンセプトは大きく偏り、また特化と割り切りに満ちたものだ。

「でも根本から考え方をあらためる時期に来ているのだとは思います。敵方にもブラッディ・ティアーズがあり、テレパシストがいるともなれば……」

 敵性に対して圧倒的なアドバンテージを前提に構築されている木星軍の戦術思想は、異形ではあるものの非常に脆弱とも言える。あくまで異形の戦闘航宙機としてデザインされたブラ

「おうよ。だからこそ、入念な武装の手入れが重要になってくんのよ。勝負どころで道具に裏切られたんじゃあ目も当てられねぇしな」

「……ブレードの研磨はあとどれくらいかかりますか?」

「もうすぐ研ぎ出しは終わる。そこから丸一日ブレードの金属を休ませてから表面処理で二日……まぁ、こいつは二振り目だし、作業慣れを考えればもうちょっと早いだろ。たぶん三日はかからないんじゃねぇかな。喜べよ。ついでに開発ホヤホヤの新技術を使ってやるからよ。刃面に特殊処理をほどこして、高周波振動のエネルギー伝達を効率よく刃先へ集約させる技術でな。単純計算で17%近くの切断能力向上が見込める代物さ」

「17%も!? 凄い!! いったいどうやったらそんなことができるんです?」

 興味深げに目を輝かせる優人に、わが意を得たりとカトカが口端を吊り上げる。

「いいねぇ。そのノリ。戻ってきたテンザネスをチェックしたときにピンと来たんだぜ。こいつは絶対に“わかっている”奴が操縦しているなってよ」

 愉快げに笑いながら右の腰脇へ吊るしていた折りたたみ式のタブレットを取り出す。展開し、引き出し式の画面によってB5からA3サイズまで拡大した画面には、ビッシリと細かい科学式や絵図が表示されていた。それをひけらかしながら、カトカが得意げに鼻を鳴らす。

「いつか特許を取って会社を立ち上げるつもりだから詳しくは言えねぇが―――」

「これは……まさか金属粒子の配列操作ですか? 凄い……それになんだ? この虹色の金属サンプル……そうか。ダマスカス鋼だ。これはダマスカス鋼の精製技術を参考にした応用技術なんだ。おまけに―――」

「っだぁぁぁぁぁぁ!!!! この秀才め! 読めちまうのかよ!! 見込み以上だ。コンチキショウ!!」

 息がかかるほど顔を近づけて、これみよがしに突きつけられた技術資料を読みふける優人からタブレッドをふんだくったカトカが吼える。

「あっぶねぇ。レイジと雰囲気が似ているから、つい油断しちまった。あんた本当にパイロットか? 開発者とか研究員とかじゃなく? おかげで危うく、長年の研究成果を無意味に暴露しちまうところだったぜ」

 冷や汗を浮かべてタブレットを折り畳むカトカに苦笑して、優人は肩をすくめた。

「元々は職業軍人になるつもりはなかったんですよ。でも、親もお金もない僕が良い大学へ進むには、他に方法が無くて……良い研究室に入るにも成績だけじゃなくコネが必要ですしね。でも上位の成績で仕官になって、退役が認められる5年を勤め上げられれば授業料免除で進学できる制度があるんです。入学試験は普通にありますので、勉強は必要ですけれど」

「苦労してんなぁ。俺も苦学生だったから、なんかわかるわ」

「軽い腰掛けのつもりで後方勤務を希望していたのですけれど、適性検査でFREとブラッディ・ティアーズのパイロット適性が妙に高く出てしまって、半ば強制的にパイロットコースへ……正直、辞令が配布されたときには軽く絶望しましたよ。戦線が活発化してきている噂は耳にしていましたからね」

「それが今や、英雄候補筆頭のザ・ラスト・サンズか―――と、すまん。そんな顔させるつもりじゃなかったんだ」

 心底から申し訳なさげに両手を合わせて拝み倒すカトカに、優人は我知らず、自身の表情が強張ばっていたことを自覚する。

「……気にしないでください。むしろ、そう呼ばれることにも慣れていかなきゃいけないのですし」

 表情を緩め、自身の二つ名とも言える言葉を胸中で噛み締める。



 と―――。



 足元のユニットからブザー音が上がった。

 正確には、共有周波数帯で発されたブザー音の信号音をヘルメットの通信機が受信したのだ。音を伝播する空気が無い真空環境内における安全措置であるそれは、眼下の研磨ユニットが作業終了を告げる連絡音だった。

「よっし。ついでだ。一緒に来いよ。面白いもの見せてやるからよ」

 胸の前で両の拳を突き合わせ、勢い込むカトカが目配せを一つして足元を蹴りつける。無重力の宙を滑り行く先では、研磨ユニットの左脇が展開し、せり出した五本の金属レールが横付けされたトレーラーの荷台脇に備わった基部へと接続しようとしていた。

 接続位置合わせのため、自動で残後左右に車体を振っているトレーラーの周囲では、一人の作業員がライト付の旗を振って指示を飛ばしている。

 指示は当然、無線で行われているが、ヘルメットのスピーカーが備えたサラウンド機能によって大気中と変わらない方向感覚で怒鳴り声が届いてきていた。

「こっちだ」

 カトカを追って宙を滑り、いざなわれた先は研磨ユニット後部のコントロール室だった。

 開け放たれたままの扉へ続く梯子に手をかけたところで、振動が研磨ユニットを揺らす。動きを止めて振り返れば、接続したレールを伝ってブレードを載せた台座がトレーラーの荷台へと移動しているのが見えた。

 その奥では、同じ外観のブレードを載せたトレーラーが待機している。すでに研磨を終えているもう一振りの方のブレードなのだろう。

「おい。どうしたよ?」

「あ、はい!」

 呼び声に我へとかえり、一息に梯子を登ってゆく。そうしてくぐった扉の先は、戦車や装甲車の社内を想起させる手狭な空間だった。

 奥の壁には殴り書きだらけのホワイドボードが括り付けられ、両脇の壁に沿って向かい合わせに長椅子が、中央には備え付けのテーブルが置かれている。研磨ユニットのコントロール端末なのだろう。テーブル上の半分近くは大型モニター付の操作ユニットで埋まっており、複雑なシステム表示を展開し続けていた。

「随分、簡素な設備なんですね……」

「こっちは、あくまでサブだからな。メインは三番艦のメインシステムの一部を間借りしてやってんだよ。何しろ作ったばかりで、ソフトもハードもロクなブラッシュアップができていないからな。こんな玩具みたいな演算機じゃ、負荷が高すぎてすぐにハングアップしちまう」

 モニターに表示された画面内にある動作ログの項目を流し読み、エラーや不具合が出ていないことを確認したカトカが振り返る。

「この艦はエンジニアや研究者は多いんだけどよ。ニッチな分野の奴が多くて、最適化とか保守みたいなのには全然、役に立たねぇんだよ。整備班の連中は、艦の面倒でいっぱいいっぱいだしな。まぁ、俺も他人のことは言えねぇが……だからよ。この先、もし腕のいいサービスエンジニアやシステムエンジニアで腐っている奴みつけたら、ウチに紹介たのむわ。給料はずむぜってな。まぁ、勤務内容はドがつくブラックだけどよ」

 言葉とは裏腹に、心底から楽しげにカトカが笑う。

「気に入っているんですね。ここが……」

「おうよ。不謹慎かも知れねぇが、俺みたいな若造がこんだけ好き放題にやれる場所はめったに無いからな。実地検証も即で、モリモリ研究データもたまるしよ。中央にいたらこうはいかねぇ」

「中央の機関にいたことが?」

「……あぁ。月の材料技術研究所にな。だが、でかくて歴史があるだけに学閥がくばつと民種差別がひどくてよ。俺みたいなスペースコロニー出身者は、研究助手どころか雑用係で一生を終えるのが当たり前みたいになってやがった」

 嫌な記憶がよみがえってきたのか。渋面で語るカトカがため息をつく。

「しかも雇われるときに、スカウトの奴らから散々おだてられてよ。俺も若かったし調子に乗って、うっかり10年単位で契約しちまったもんだから辞めることもできなくてよ。ふざけているとおもわねぇか? 違約金は、給料10年分の一桁増しだぜ? そりゃあ、ちゃんと契約書を読まなかった俺も悪かったけどよ」

「それでこの艦に参加を……?」

「……あぁ……まぁ……な」

 何気ない問いかけにふと、カトカの表情が止まった。

「カトカさ―――」

 怪訝にカトカの顔をのぞきみた優人の言葉が詰まる。ヘルメットのバイザーごしに見えるカトカの顔はひどく強張っていて、ともすればこぼれだしてしまいそうな何かを必死にこらえている、そんな顔に見えたのだ。

「わりぃわりぃ。まぁ、そんなわけよ。ロクに研究もできねぇ場所に用はねぇ。ついでに中央にも用はねぇってな。いわゆる三行半みくだりはんってやつだな」

 だがその表情は一瞬のことで、すぐに屈託の無い顔で愉快げな笑顔に戻っていた。

「そうそう。見せたかったのはコイツなんだよ」

 携帯端末を取り出し、テーブルに置いてフリック操作を重ねてゆく。無線通信によって研磨ユニットと接続された端末に表示されたのは、コンピューターグラフィックスで描かれた紋章だった。

 花言葉になぞらえているのだろう。真円の中心に描かれたアヤメの花弁を取り巻く炎のように、形を崩した漢字が正三角に配されている。

「アヤメの花に漢字の……火、炎に……焔、かな? 面白い絵図ですね。さしずめ火の紋といったところでしょうか」

 機体や武装に入れるパーソナルマークの図案なのだろう。

「どことなくセンスを感じる図案ですね。たしかアヤメは炎以外にも、希望や信頼といったプラスの暗示が多い花言葉を持つ花でしたから、パーソナルマークに使うとしても縁起が良い。これもカトカさんが?」

 拡大させてよく見れば、外縁は二重線となっており、全周ちょうどに文章が記されていた。

「『あなたの思うまま。本当のあなたが望むままに』……カトカさん。これってまさか……」

 驚きに顔を上げた優人に、したり顔でカトカが首肯した。

「気づいたか。そう。これはフューリーのパーソナルマークだ。しかもデザインはレイジ本人なんだぜ」

「あいつが……こんなものを……」

 それは単純なイラスト用ソフトによる描きものではなく、製図用ソフトによって正式な製図ルールのもと作成された文字通りの絵図面だった。

 レイヤーによる階層分けだけではない。寸法の取り扱いやレイアウト、細かな注釈指示は優人の目から見てもそつが無い。

「勉強嫌いで俺たちの授業からはすぐ逃げやがるクセに、こういう事だけには熱心でよ。ちょっとしたデザインやイラストなんか皆が頼むんで、ついでに部品の“三次元製図3DCAD”なんかも最近はやらせてみてんだよ」

 画面をフリックし、幾つかの図案をカトカが開いてみせる。

 趣味か、デザインのクセなのだろう。どの図案もどこかに花が、そしてそれにまつわる花言葉をモチーフにして作成されていた。

 色とりどりの図案に、優人の中で一つの記憶が喚起されてゆく。

「あいつらしい……凄く、あいつらしい絵だと思います……きっと母さ―――母に似たんですね。絵や刺繍が好きで、父が母に送る誕生日プレゼントはいつも、新しい絵描き道具や裁縫道具でした……」

 そんな母のおさがりでもらった絵筆を振るい、父が育てた草花を描いては笑っていた弟の背姿が胸裏を過ぎる。

 幼い子供らしい、写実ではなく感覚をそのまま紙へ描き映したといった風情の絵を覚えていた。ぐるぐるとしたよくわからない絵ばかり描いていたはずの手はいつのまにか、こんなにも美しい花を描き出すようになっていたのだ。

「いまでも描いていたんですね。花の絵を……あいつは……」

 静かな微笑みを浮かべ、画面を見つめ続ける優人の横顔にカトカの顔が曇る。

「悪ぃな。たぶん兄貴と同じで本当は、あいつもパイロットなんか向いてねぇんだよ。でも俺らには、あいつしかいねぇんだ。だから―――」

 声のトーンを落としてうつむくカトカを、左手を上げて優人が制する。

「謝らないでください。カジバさんにも言いましたけれど、僕も、あいつも自分で望んでパイロットになったんですから。どんな経緯や理由があって、それがどうしようもないことだったとしても、いま僕たちが戦うのは間違いなく自分の意思です。だから、頭を下げなければならないのは僕の方です」

 かぶりを振ってカトカに笑いかけ、小さく頭を下げる。

「弟を、よろしくお願いします。この艦のクルーが、あなたたちみたいな人で良かった。本当に、そう思っています」



   六

 ヘッドアップ・ディスプレイがビープ音を上げた。

“YOU WIN”のメッセージに続いて、対戦結果成績が羅列されてゆく。

『えええぇぇぇぇぇ!?』

 息をついてヘルメットを脱ぎはずした優人の耳に、レイジの悲鳴が届いた。外部通信音声からのそれは、トリニティ・ウィーセルの艦内ネットワークを介してテンザネスと遠隔接続したフューリーからのものだ。

『ちょっとゆうぃ。あんなのありなの!?』

 憤慨ふんがいした声音から弟のむくれ顔を想像して、我知らず口元がほころぶ。

「ありも無しも無いよ。高性能機を駆っている弊害だな。フューリーの高い反応速度に頼りすぎて、相対距離の見切りが甘くなっている。だからさっきみたいに、緩急つけて揺さぶりをかけられると簡単に裏を取られてしまうんだよ」

 左手をファンクショントリガーから抜き外し、シート左脇から備え付けのキーボードを取り出して両の指を躍らせる。そうして記録された戦闘ログから一部を切り出し、フューリーへと送信した。

『そうかなぁ』

「いま送った戦闘ログの39700番台付近を見て」

『……え…と……これか。うん』

「39032から48900までの内容でおかしなところがあるだろう?」

『え? え……え?』

 話しながらも手を動かし続け、戦闘ログ内容から拾い出したデータの一部を整理し、簡易グラフ化した資料を作成して再度送信する。

「じゃあ、いま送ったデータファイルを開いてくれる?」

『……なにこれ』

「相対距離とスラスターの出力数値に注目したグラフだよ。相対距離の変化に対して出力が大きくバラついているだろう? 変化に対しての見切りが甘いから、踏み込みすぎたり、逆に踏み込みが足りなくて踏みなおしたりしている証拠だよ。瞬間的なものだから自覚は無いかもしれないけれど」

『……これ時間軸がおかしくない!? 優兄ぃが言っているのって、たったのコンマ2,3秒くらいの遅滞だよね。イナーシャの影響を考えたら、こんなの普通だよ!!』

 叫ぶレイジに苦笑して、再びデータファイルを送信する。

「普通に動かしていたら、やられるだけだよ。誰だって、普通を最低ラインとして腕を磨いているんだから。少しおまえは感覚的に操縦をしすぎだと思う。その証拠に、いま追加で送ったデータファイルを見てごらん」

『……なにこれ』

「相対距離が中距離以上のときの推力グラフだよ。こっちはバラツキが全然ないだろう? たぶん、普段のおまえは無意識というか感覚的にそれをやれているんだよ。でも近接されて余裕がなくなると途端に荒くなってしまう。敵の行動を予測するよりも、出たとこ勝負で突っ込んで強引に物事を解決しようとしてしまう変なクセがついているんだと思う」

『そ、そんなこといったって……これまでだって別に、それでやれてきているんだし……』

「これまでは対BT戦に慣れた敵が相手じゃなかったから、たまたま反応の遅れを誘えていただけだよ。でも、これから先は敵も対BTを熟慮した戦略や戦術を仕掛けてくる。考えることを止めずに戦う事を身に着けていかないと、いくら幻想機フューリーでも落とされるぞ」

『……僕は感覚派なんだけれどな』

「これは受け売りなのだけれど、優れた感覚は、優れた思考の基礎無しには成立しないそうだよ」

『なんでさ?』

「一度に感覚で処理できるアクションは一つしかないからだよ。思考が介在しないから、複雑な事はできないし、持続もしない。だから、どんどん行動が単純化していって機械的になっていってしまうんだ。そんなのは、シミュレーションの仮想敵と変わらない」

 再びキーボードを打ち込み、再びデータを送信する。今度はテンザネスが仕掛けたフェイントに対するフューリーの反応動作を紐解いたものだ。

「でも戦闘におけるアクションは考えてからじゃあ遅すぎる。基本的には、全てを感覚と反射でまかなわなきゃならない。だからこそ、単発であるそれらを効率よく、上手くつなげて一連の流れを自動的に組み立てる“思考の型スタイル ”を構築しておく必要があるんだ」

 羅列したやりとりの中から幾つかに注釈をつけ、注意点を指摘してゆく。

「“思考の型”といっても文字通りの意味ではないし、やり方も人それぞれだけれどね。僕のように無数に作成した応用パターンを反復練習で叩き込むのも居れば、感覚的に覚えた反射へ更に感覚を重ねて信じられない反応速度を叩き出す天才もいる。よく考えて、シミュレーションを重ねて、自分なりの答えを探すこと。それが当面の課題かな」

「うぅ。こうやって後で指摘もらうとわかるんだけれどなぁ」

「こればっかりは、第三者の視点が必要なものだから仕方がないさ。目標ポイントに着くまであと二日以上ある。やれるかぎりシミューションを繰り返して、動きと思考の修正点を洗い出していこう。その後は、自分なりにそれを治していくんだ」

「やれるかぎりって……もう6時間くらい動き続けているんだけれど」

「なら5分休憩しようか。最低でもあと200回はシミュレーションをするつもりだし」

「に、200回!? ちょっと待ってよ。そんなにやるの!? ひょっとして妙にいっぱい水と食料もたされたのってそのため!?」

 音声が音割れするほどの大声に顔をしかめ、耳鳴りを覚えながら優人はキーボードを操作し、艦内ネットワーク経由で艦橋のオペレーターへ一通のメールを送信した。

「やるよ。こういう訓練は、倒れるまでやってこそ意味があるんだ。自分の限界を知るのも目的の一つだからね。訓練で済む今のうちに、疲労が自分の身体や操縦に与える影響を確認しておかなきゃ。聞いた限り、これまでそういう訓練はしていなかったみたいだからね。いい機会さ。大丈夫。僕のときは1週間くらいシミュレーター室に閉じ込められて1000回やったけれど、死にはしなかったから」

 話しながら後ろ手でコクピットシート裏を探る。長時間を見込み、コクピットシート裏にフューリー側ともども準備したバッグがあった。そこから手探りで飲料水のパックを取り出し、チューブを口にくわえながらキーボードを打つ。

 作成し、送信した訓練メニュー内容を読んだレイジが通信機の向こうで絶句する気配が伝わってきた。

「……まぁ、僕を含めた三人とも、その直後に倒れて二日くらい入院したけれどね。教官だけピンピンしていてさ。リアルに死線を越えた人間との差を思い知ったよ」

「おかしい。それ絶対おかしいよ」

「おかしくない。己の限界も知らない奴が戦場で生き残れるものか。臨死体験でもできたらもうけものと思え。訓練とはそういうものだって教官いっていたし」

「毒されてる。優兄ぃ、絶対なんか毒されてるよ!」

「つべこべ言わない。そろそろ5分経過するから再開するぞ。あ、さっき艦橋にエチケット袋を頼んでおいたから、吐きそうになったらそっちにね」




   *   *   *   *   *




「……仲良くやっておるみたいじゃの」

「……ですな」

 艦橋から二人の訓練をモニターしていたカジバの右後ろから、野太い声音とともに白手袋をはめた右手が伸びる。人差し指が指し示すのは、フューリーのコックピットで必死に操縦桿を操るレイジの姿だ。

「しかし、いささかやりすぎでは? 合流ポイントまで、あと二日もありません。レイジに正規のパイロット訓練をさせる良い機会とはいえ、いざ戦闘になった際に彼らが使い物にならないでは困ります」

「問題なかろう。いまのところ合流ポイント付近に不審な熱源や敵機は検知されておらん。それに―――」

 こうべを巡らせ、テンザネスのコックピットを映したモニターへ目を移す。めまぐるしい操作を続ける姿はレイジと同様だが表情が無い。機械的とさえ言えるほどの怜悧さは、まるで“感情抑制機FRE”稼動下を思わせる。

「彼には、まだまだ余裕が見て取れる。奮起させるためにああ言っただけで、本当に倒れるまでやりはせんじゃろ。訓練前に、合流ポイントと機体の整備状況を1時間おきに教えてくれとメールもきとったしの」

「そうでしょうか……」

「それにしても、こうまで差があるものじゃとはな。レイジとて、幾度も死線をくぐり抜けてきた歴戦と呼んで差し支えないパイロットのはずじゃ。それが、シミュレーションとはいえここまで一方的にやり込められるとは信じられん」

 すでに32戦目を数える対戦シミュレーション結果は、優人の全勝という結果となっている。

「いえ、単に技量の差があるという事とはいささか異なるかと」

 右から伸びている白手袋の右手が、人差し指で両機コックピットのモニター画面表示の間にある画面を指差した。いくつものウィンドゥが重なる画面は、戦闘シミュレーションの管理システムを表示したものだ。

「レイジへの教導を目的としているからなのでしょう。全ての対戦において彼―――南風はえ中尉は、常にレイジが苦手とする戦闘状況や環境を設定して仕掛けています。あれではレイジも十全に実力を発揮できないでしょう。せいぜい半分程度も出せれば良いところではないですかな」

「……ワシの記憶が確かなら、彼も新兵だったはずじゃが?」

「兵士としてはともかく、ブラッディ・ティアーズ操縦の練度が桁違いなのだろうとしか……持ち合わせた才能や適正は勿論、相当に鍛えられているみたいですね。操縦の技量もさることながら、ブラッディ・ティアーズを初めとした事柄に対する技術的な理解が凄い。だからシミュレーションという、計算のみで成り立っている仮想空間においては無類の強さを誇れるのでしょう」

「似ているようで、そのあたりはレイジと真逆なのじゃな」

「面白い兄弟ですよ。似た心根を持ちながら、生まれ持った才能は真逆。しかし、だからこそ噛み合う。お気づきでしょうか。彼に導かれてレイジの戦い方が少しずつ変わってきていることに。近接格闘性能に先鋭化しすぎたフューリーを駆っている弊害なのでしょうね。常に前のめりで危うささえあった戦闘スタイルに、距離の概念が生まれ始めています」

「……ワシの目には、ただ一方的にボコられているようにしか見えんが」

「さすがに一朝一夕で変わるものではありませんからね。これが血肉となるのは、まだまだ先の話でしょう」

「さすがは、元パイロットの慧眼じゃの。ところで―――」

 後ろを振り返ろうとしたカジバの頭が、両脇から伸びた手につかみ止められた。白手袋をはめた両手の膂力は強く、ビクともしない。

「いい加減、艦長らしくここへ座っていてくれんかの。おまえさんがウロチョロしくさってロクに指揮をせんおかげで、ワシがここを離れられんのじゃが」

「……この艦で私は新参者です。戦闘時はともかくとして、平時はあなたが指揮を執られるべきでしょう。これまで通りに、ね」

「いい歳をして、顔を見られるのが恥ずかしいとか情けない男じゃのう。あいたたた。わかった。わかったから手を離さんかい。こんのバカたれ!!」

 ため息を吐く最中、カジバの頭を掴んだ両手が握力を強めてゆく。万力のようにギリギリと締め付け始めたそれに、たまらずカジバは悲鳴を上げて両足をバタつかせた。

「まったく―――」

 両手が離れ、艦長席の後ろへと引き戻されてゆく。

 そうして背後の気配が遠ざかり、自動扉の開閉音が響いてから、恐る恐るカジバは後ろを見やった。

「ようやく面倒な仕事を一つ減らせると思うとったのに……どいつもこいつも、この艦の連中に敬老精神を持った奴はおらんのか」



   七

 コックピット内にキーボードの打鍵音が響き続けている。

 両の指先を絶え間なく躍らせ続けているのは、画面の明かりに照らし出された優人だ。シミュレーター訓練中に着ていた簡易スーツではなく、正規のパイロットスーツを身に着けている。シートのヘッドレスト右脇では、バイザーを上げたヘルメットがチンガードを左右に開放した姿で漂っていた。

 ふと上げた目線を右へ流す。

 開かれたままの小ウィンドゥには、数人のクルーによってフューリーのコックピットから運び出されてゆくレイジの姿があった。

南風はえ中尉』

 ヘッドアップ・ディスプレイから通信音声が響く。正面ディスプレイを見やれば、画面の小ウィンドゥにカジバが映っていた。

『合流ポイントへ近づく木星軍の艦船を捕捉ほそくした。敵は観測されておらんが、もしもの時は頼んだぞ』

「了解」

『まったく、本当にレイジを潰すとはな』

「人聞きの悪いことを言わないでください」

 呆れた声音に指を止め、顔を上げた優人が苦笑する。

「最初に言ったでしょう? 倒れるまでやってこそ意味があるってね」

『わかっておる。脳神経の超回復効果狙いじゃろう? たしかに、これをきっかけとしてレイジの操縦技術は飛躍的な成長を遂げてゆくじゃろう。じゃが、その代償として最悪、数ヶ月はパイロットとして使い物になるまい。果たして、いま現在の状況でやることとは思えんのじゃがな』

「違いますよ」

『?』

「やるとするのならば今しかない、です。たぶん、これが僕たちが兄弟としてすごす最後の時間だから」

『おまえさん……』

 カジバの眼差しが胡乱に細まる。深まりゆく険に肩をすくめて、無言のまま優人は首肯した。

「僕からの手向けです。幻想機を追うあなたたちは、この戦いが終わったら地球圏へと戻ることとなる。でしょう? これは推測ですが、8号機打倒にはサブコア奪取という以外に、あなたたちが抱える目的へ近づくための何かがあるのではないのですか?」

『……気づいておったのか』

「気づきますよ。そりゃ。僕だって幻想機の真実を知る人間の一人ですからね」

 目を伏せ、キーボード操作を再開しながら小さく笑う。

「でも、たとえそうだとしても―――それが幻想機の秘密を知りセシルを救うことにつながるのだとしても、僕はあなたたちと一緒には行けません。木星軍の軍人である以上に、木星圏には僕がこの手で守りたいものが多すぎるから」

 伏せた双眸を寂寥の色がかすめてゆく。

「きっと、これが長く離れてしまうということなのでしょうね。僕とあいつの居場所は……そして守りたいものの対象や形は、あまりにも大きく違ってしまった。でも、それは悲しんだり、寂しく思うことでは絶対になくて……あいつが、僕とは違う一人の人間へ成長したのだと受け入れ、祝福するべきことなのでしょう」

 右手の中指が、強く“ENTER”キーを打った。作成していたデータファイルが完成したのだ。即座に数度、打ち込まれたコマンドによりデータファイルがフューリーへと送信されてゆく。

「だからせめて、何かをしてあげたかったんです。これから先、あいつが戦い抜くための何かを……」

『それは?』

「シミュレーションの結果と今後の課題をまとめたものです。本当は優秀な指導者かパイロットがそばで戦術指導してあげるべきなのですけれど」

『……安心せい。元パイロットなら、この艦にも乗っておる』

「本当ですか!?」

『少し前に加わった新顔じゃがの……まぁ、安心せい。ちょいと偏屈じゃが、れっきとした元戦闘機乗りじゃ。門外漢のワシにはよくわからんが、アドバイスの一つくらいはできるじゃろ』

「ありがとうございます。少し、安心しました」

 安堵の吐息をつく優人に、小さく表情を緩め、カジバは右手で頬杖を突いた。

「すまんの。大切な弟を預けるのがこんなクソジジィで」

 口はしを吊り上げて笑むカジバに一瞬、呆けた表情を浮かべた優人が微笑む。

「こちらこそ。ままな弟で、すみません」

『おまえさんも大概、口が減らんのぅ』

「お互いに」

 小さく笑い合い、カジバが口を開きかけた時のことだった。艦の管制官席からオペレーターが合流ポイントへの到達と、そこで待ち受ける木星軍の強襲揚陸艦からの通信を告げる声をあげたのだ。

 二人の表情が変わる。

 緊張をはらんだ顔で優人がヘッドアップ・ディスプレイのパネルを操作した。艦橋との通信回線が強制接続され、管制官が受け取っているはずの通信音声がコックピット内に響き始めた。戦闘時とは違って空間がクリアで伝播障害が無く、相当に距離が近いためだろう。届く音声は非常に明瞭なものだった。

『化け物か。おまえさん……そんなことにも明るかったのかい……こりゃ本気で、スカウトし損ねたのを後悔しそうじゃわい』

 それに気づいたカジバが目を丸くしている。

「まさか。いくらなんでもそこまで万能じゃありませんよ。僕の部下にハッキングが特異な人がいまして、出掛けにお手製のハッキングツールを持たされたんですよ。いざという時のために、合流したら起動させておけって」

 カジバたちに微塵も気取らせることないまま艦のシステムを解析し、ハッキングされていたのだ。これはその気になれば単独で艦を掌握し、制圧することさえ可能であったことを意味する。

『抜け目ないのう』

「……すみません。あなたたちが、協力者を装った中央のスパイという可能性もゼロではありませんでしたので」

 話しながら耳を澄まし、通信内容を拾い聞きしてゆく。相手は生真面目な年かさのパイロットらしく、声はしわがれていたが活舌はしっかりしており聞き取るのは容易だった。

「そんな……」

 優人の顔は色を無くし、カジバが低く唸る。

 通信内容は深刻なものだった。

 すでにヴォルフら第一次先遣部隊は予定されていた二次襲撃までを完了。だが二次攻撃で遼機たちを逃がすため、囮となった隊長機は撃墜されているのだという。

「ヴォルフ大尉……」

 我知らず、呆としたかすれ声が震えている。

 頑健な体躯を誇り、兵士らしい強面こわもてにどこか暖かい眼差しをしていた―――あの男は死んだのだ。死んだというのだ。

 もっと話をしたかった。ドカトの事を尋ねたかった。そして聞いてみたかった。彼が自分に重ね見ている誰かの正体を。

「ヴォルフ……大尉……」

 信じられない思いに震え、肺腑をえぐる喪失感と間に合わなかった苦汁をこらえる口元で噛み締めた奥歯が小さな軋みをあげてゆく。

(僕が……テンザネスがもう少し早く追いつけてさえいれば……)

 うつむきかけた顎に鋭い痛みが走った。ヴォルフに殴打された傷跡の残滓だ。

(違う……)

 その痛みに優人は我を取り戻し、険しい表情の顔を上げてゆく。

(すみません。ヴォルフ大尉。また僕は、馬鹿者になるところでした)

 鬱々うつうつとした心のかすみを振り払い、取り戻した己の輪郭を意識する。ここに在る意味を想起し、ここに在る己を鼓舞してゆく。

「カジバ博士」

 呼びかけに、振り返ったモニターの中のカジバが絶句する。

 初めて見せる表情かおを優人はしていた。

 覚悟をもって戦地へ赴く兵士の顔を、優人はしていた。

 その顔に何か言いかけて、つぐんで、最後には諦めを浮かべたカジバが肩を落とす。

『……くのじゃな』

「はい」

 大きく首肯した優人に、カジバは深いため息をついた。

 何者であろうと覆せない意思をたたえた顔をカジバは知っていた。

 それはかつて鏡像の中の己が見せた顔であり、小さな手を血で汚す決断をした少年が見せた表情だった。

「状況は深刻です。すでに8号機が稼動している以上、もはや敵基地への襲撃は意味を成さないでしょう。無駄死にさせる前に彼らを撤収させないと」

 シートの脇からヘルメットを取り出し、被る。あわせてヘッドレストの根元からケーブルを引き出し、ヘルメットのチンガード右脇にあるジャックへと先端を差し込んだ。

 思考補助制御システム―――S-Linkが起動し、合わせてヘッドアップ・ディスプレイに数々の機体制御用アプリケーション起動メッセージが羅列されてゆく。

「カジバ博士たちはここに残って彼らの回収と、後から来るグローリー・シリウスにこの事を伝えてください。僕はテンザネスで先行して彼らへの撤退指示と後退支援を行います。脱出経路と再合流ポイントはプランDを。保険としてプロペラントタンクと生命維持ユニットを今から送る座標へ、それぞれ射出お願いできますか? 万が一、プラン通りに合流が果たせなかった場合には、それを使って自力で最遠合流ポイントまで移動します」

『わかった。じゃが……本当に良いのじゃな? 幻想機とはいえ、敵陣の真っ只中へ単機で攻め入るなど正気の沙汰ではないぞ』

「事態は一刻を争います。急いで格納庫から艦員を退避させてください」

 格納庫の各所に設置された回転灯が転倒し、庫内に赤色光が駆け巡り始めた。テンザネスの周囲で作業に当たっていた艦員たちが慌てて四方へと散ってゆく。ライトと同時に共用周波数帯で流された警報音が彼らの無線機を通して鳴り続けているのだろう。

「カトカさん!」

『みなまで言うな! 高周波ブレードだろ?』

 ヘッドアップ・ディスプレイへ右手を伸ばし、隣接した研磨ユニットのコントロールルームへ通信回線を開く。優人の声音から緊張を感じ取ったのだろう。カトカの返答と同時にテンザネスの周囲で整備ロボットたちが次々に壁際へと移動し、駐機姿勢を取り始めた。

 同時に研磨ユニットの天蓋が左右に展開してゆく。あらわとなった高周波ブレードの背と柄をくわえ込んでいる固定具がロックを解除して開放され、ユニット内蔵式のロボットアーム2基がブレードをリフトアップし始めた。

『悪い! 一振りはさっき仕上げの研磨を完了したが、もう一振りはまだ表面処理の浸漬中で出せねぇ! 代わりにフューリー用の予備を用意するから5分待て!!』

「急いでください!」

『おうよ! 任せろ!!』

 艦の整備システムと同期したテンザネスが、両翼を上方へ可動させ、裏面に備えたウェポンラックを展開した。

 左翼に銃器と並列装備されている格子状の鞘が鯉口のロックを開放し、展開する。そうして開いた空隙へ、ロボットアームによってリフトアップされた高周波ブレードが先端から差し入れられてゆく。火花を上げて差し込まれる最中、先端側の固定アームが離れ、刀身すべてが飲み込まれるのと同時に鯉口が閉じてブレードを完全固定する。柄を懸架していたロボットアームが固定部を開放して離れ、二基のロボットアームが再び研磨ユニットへと引き込まれていった。

 天蓋を閉ざしてゆく研磨ユニットとは反対側の右翼側で、格納庫の内壁が展開してゆく。

 同時に一台のトレーラーがテンザネスの右脇へ滑り込んできた。操縦席にドライバーの姿は無い。艦のシステムによる完全自動制御だ。

 トレーラーの背に折りたたまれていた二基のロボットアームが起動し、左翼と同様にウェポンラックを展開した右翼へと腕を伸ばしてゆく。目指し、その先端に備えたクローがつかんだのは高周波ブレードの鞘だ。同時に機体側が鞘の固定部を開放し、受け渡す。

 それと入れ替わりに、壁奥から伸びたロボットアームが一振りの高周波ブレードをセットした。見かけの長さはテンザネスのそれと変わらないもののつばが無い。よく見れば鞘の両端から、尺が半分程度の短い二振りの刃を差し込んだ構造であることが知れる。日本刀の打ち刀を模した片刃であるテンザネスのそれとは違い、小太刀と呼ばれる短刀を模したブレードだった。

「なるほど。近接格闘機フューリー用、か」

 カトカの言葉を思い出し、得心する。

 威力やリーチよりも取り回しを優先した設計は、近接戦闘特化の機体であるフューリーが振るうに相応しいブレードと思えた。

『“動作プログラムドライバー”は通常のものでいけるはずだ。もし動かなけりゃ、ブン投げちまってもかまわねぇ。死ぬんじゃねぇぞ』

「勿論です。他所に専用武器を預けたままじゃ、この機体も不満でしょうしね」

『違いねぇ』

 笑うカトカに別れを告げて通信を打ち切り、新規武装の登録許可を求めるヘッドアップ・ディスプレイのポップアップ表示に許可を出した。

 ブレードの柄に仕込まれた無線ユニットを通じて、刃の重量や寸法といったデータが読み込まれてゆく。情報の読み込みと整理、装備された武装としての登録が完了するのと同時にステータス画面の保有武装リストが更新され、高周波ブレードの一つが新たな名称へ書き換わった。武装名“ローズ・ブレード”―――左右一対それぞれの固有名は第一刀が“ブラド”、第二刀が“ペイル”となっている。

「またバラか。つくづく縁が―――違うな。これは双子座の誕生花と誕生石だ……きっとあいつが名付け親なのだろうね」

 双子剣だからなのだろう。双子座の誕生花であるバラと、それぞれに優人とレイジの誕生石であるブラッドストーンとパールをもじってつけたのだ。子供らしい安直さに微笑む中で思い出す。双子座は、二人にとって母親の誕生日星座でもあったことを。

「まいったな。こんなの、ブン投げるなんてできるわけないじゃないか」

 弟は良い大人たちに恵まれたのだとつくづく思う。これはカトカからの無言のメッセージなのだろう。離れていても、おまえは弟と一緒なのだと。またきっと、いつか巡り会えると。

「さようなら。柾人。次は戦場で」

 ヘッドアップ・ディスプレイの艦管制ステータスの中で、格納庫からの退避完了シグナルが点灯する。

 機体の発進シーケンスが開始され、コックピットを微震が包み込む中、優人はヘルメットのバイザーを降ろすのだった。戦場には相応しくないと、浮かんだ微笑みを覆い隠すように……。



   八

 推進炎の残像を瞬かせ、飛び出したテンザネスが彼方へと消えてゆく。

 暗黒のしじまを駆け抜ける流れ星にも似た輝きを、カジバは憂いの眼差しで見送っていた。

「感傷……ですかな?」

 艦長席に座し、正面の外部モニターを見つめる背に声がかかった。もはや慣れた声音に振り返ることもなくかぶりを振る。

「どうにも調子が狂って、のう。レイジの兄とはいえ木星軍の仕官―――そして何より、あのジ・エッジどもの手先じゃ。あくまで事務的に扱って、適当に利用するだけのつもりだったのじゃが……」

 ため息を一つつき、右の指先で眉間を揉み解す。

「おかしいのぅ。ワシの弟どもは、容姿以外は完全に別物じゃったのに。なんでアイツらはあんなにそっくりなんじゃ。彼と会話していると、ちらちらレイジが重なって無下にできんくなっちまう」

「お気づきになられていないだけで、きっと弟さんも似ておられると思いますよ。兄弟姉妹とは、そういうものです。自分の顔を自分で見ることができないように、ね」

「……おまえさん、兄弟はおるのか?」

「いえ。ですが、息子が二人おりました。歳が近いせいか喧嘩ばかりしている兄弟でしたが、二人が似ていないと思った事はありませんでしたね」

「そうか……そっくり、じゃったか」

「ええ。とても、ね」

 静かな沈黙が二人の間に立ち込める。



 と―――。



 突如、警戒警報が艦橋に響き渡った。

 トリニティ・ウィーセルのレーダーが高速接近する艦影を捕捉したのだ。

 絹を引き裂くようなレーダー担当官の悲鳴が響き渡る。長い黒髪を結い上げ、黒いパンツルックのスーツをまとった歳若い女性の声音は恐怖で震えていた。

 その進路と動きは明らかにトリニティ・ウィーセルを発見し、捕捉している。戦慄と恐怖が艦橋のクルーたち全員を青ざめさせていた。艦員たちにとって、その艦は恐怖そのものと呼んで差し支えない脅威として刻み込まれている相手だったのだ。

 地球圏から木星圏まで続いた長い逃避行の最中、数え切れない絶望を味あわされた恐るべき追走者の名に、カジバの顔が一変する。

「ソードフィッシュじゃと!? なぜ奴らがこんな宙域におるんじゃ!?」

 ソードフィッシュ。

 それはカジバら反抗勢力を殲滅し、奪取された幻想機を回収するため組織された特務部隊“インジブルダガーズ”が駆る最新鋭の航宙巡洋艦に与えられた艦名だ。隊長にして艦長、そして幻想機コールド・アイのパイロットであるライトニング・ヒュエルの指揮による果てしない追走によって、カジバたちは多大な犠牲と辛酸を強いられ続けてきた。

「いかん。艦内警報発令! 木星艦の収容を急がせろ! 可能ならテンザネスの収容スペースへねじ込んでかまわん。多少の損害は度外視しろ。彼らの回収と脱出が最優先だ」

 某と立ち尽くした背に艦長の鋭い声音がかかる。その声に我を取り戻し、カジバは右アームレストの脇に懸架されているマイクを取った。

 左側ア-ムレストのパネルを操作し、全艦内放送へと切り替え叫ぶ。

「敵襲じゃ! 非戦闘員は中央艦へ退避。野郎ども各員、配置につけい!!」

 背後から艦長の気配が消える。確認するまでもない。戦闘指揮を執るため“戦闘指揮所CIC”へ移動したのだ。

 再びパネルを操作し、通信先を医務室へ変更する。発信先が受信に切り替わったのと同時にカジバは叫んでいた。

「眠ったままでもかまわん! レイジをフューリーのコックピットへ戻せ! 最悪はレイジだけでも脱出させる!!」

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