「トート、またの名は死」に恋している。①

宝塚などで有名なミュージカル、「エリザベート」という作品がある。

実在したオーストリアの皇妃、エリザベートという女性の人生を描いたミュージカルだ。

作中でエリザベートは事故に遭い、そこで初めて死を意識する。

そこで「死」はエリザベートに恋をして、彼女の人生の端々に現れては彼女が自ら死を選ぶような苦痛を味合わせていく。


わたしが初めて「死」を意識したのは中学生の頃だ。

物心ついた時から太っていたわたしだったけど、小学生の時は友達が多かったし、クラス委員をしたり、体育の時のチーム戦ではリーダーに選ばれたりしていた。

でも、けっこうな内弁慶なので仲のいい人たちの輪の中では中心にいるタイプだけど、知らない人がいると急に大人しくなる性格で、それは今も変わってない。


中学一年生の時は同じ小学校を卒業した友達と同じクラスだったからそれなりに明るく、やっぱりクラス委員をやったりしていた。

だから先生たちはわたしを「この子は誰とでも仲良くできる明るい子」と思い込んだらしく、二年生のクラス替えでまったく友達のいない、ほとんどほかの小学校出身の子しかいないクラスに入れられてしまった。


壮絶ないじめにあった、ってことではない。

もっともっと悲惨な目にあった人は大勢いるだろうから、そんな人たちに比べたらわたしのはいじめとは言わないと思う。女子は優しかったしね。

やんちゃな男子に「汚ねぇ」「寄るな」「見るな」そんなことを言われてたってくらいで、暴力を振るわれたとか何かを壊されたとか隠されたってことはなかったから。

でも、それでもやっぱり辛かったし、悲しかった。


ある日、それまでそんなこと少しも考えたことはなかったのに「死にたいな」ってふと思った瞬間があった。

カッターナイフを手首に当てて、「ここを切ったら楽になるのかな」って思った。

そしたらもう、急激に、死にたくて仕方がなくなった。

死にたくて、死にたくて、死にたくて。

でも実行には移さなかった。

わたしは幸か不幸かすごく親と姉に愛されていたから、もしわたしに何かがあれば家族も生きてはいられないかもしれない、そう思ったから。

でもだからと言って死への想いが消えたわけではなくて、かなわぬ恋のようにずっとわたしの憧れとして息づいたままになっている。

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