第38話 ハオ、覚醒。

 ハオに色々言いたいことはあるけど、今はそれどころじゃない、祟り神を倒さなきゃ。

「あのね、わたし明緒にずっと黙ってたことあるの」

「ハオ、いいから逃げろ、そこは危ない」

ハオは何を考えているのか、祟り神の真ん前にいる。

「三つあるの、まず一つは祟り神のこと、これは人間の欲望の産み出したものなんだけど……お稲荷様は……『人間の文明は進化し過ぎた、偉い神がそれで人間を滅ぼす』って……わたしそれでいいと思ってた」

「え、な?」

なんだって?そりゃ神が人間を罰することなんて今までだって神話の世界ではあっただろうが、それでもハオが、世界を、滅ぼす?だって?

「……でもわたし明緒と出会って、明緒に優しくしてもらって……本当にそれでいいのかずっと思ってた、それは今も変わらない」

「そんな……そんなことはどうでもいい!今は味方なんだろう?いいからそこから」

焦る俺をハオは悲しそうに見つめるだけ。


「もうひとつはね、『心の勾玉』あれ……本当は四つあるの。うん、わたしが持ってるよ」

「ハオ!お前は戦わなくたっていい!逃げろ!」

「それが出てこなかったのは明緒に言った通り私に秘密があるから、でも……明緒には、ううん、明緒だって、きっと、いいの、わたし……わかってるから。」


 そうしてハオは金色の光を強めた。

「この力を使う時は……お稲荷様の使いとしての、私の記憶が無くなる時。

明緒のことも……。」

ハオの巫女服が、何か日本書紀とか(俺は漫画で読んだだけだけど)にでも出てきそうな神聖そうなモノへと変わる。

「いっちゃやだよハオ!」

俺は悪い予感がして泣きじゃくる、俺の感が正しければ、ハオは、祟り神と心中するつもりだ。

「俺は……お前が……」

「なぁに?大丈夫、私は神性を使い切るだけ、きっとどこかで、誰かに転生するよ」

「お前が……」

俺はその続きを言えない、言ってしまったら「さよなら」になってしまうから。

 だから俺は言ったんだ、

「押し入れ開けとく!いつでも来いよ!」

「うん、またメロンソーダおごってね」


ハオは笑って手を振りながら祟り神へ飛んでいく。

後ろは振り返らずに、「怖い」とさえ言わずに。

「最後に一つだけ、秘密にしてたけど、わたし、明緒が!」

涙とも何ともしれない輝きを残して。

 こんな世界に、こんな俺に、小さな荷物と、愛だけを残して。


 ハオは眩しい光を放ちそのまま祟り神にぶつかる。

 祟り神は言葉にならない禍々しい声を出し、よろめくが、やがてあっけなく消え去った。

 残ったのは、晴れていく空。

 ハオは……消えていた。


 世界は、救われた。

 ハオのいない世界が。





 

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