第34話 きっとボタンが弱点

 だが、なぜかハオの胸は光らない。

「明緒くん!お姉さん!危ない!」

由利ちゃんの声に我に返り慌ててハオをかばい飛びのける。

 ……お姉さん?

「狐のお姉さん!また来るよ!」

これで確信した、由利ちゃんにはハオが見えていたのだ。


「手が……」

手は繋いだ、何よりハオとは、とっくに心が繋がっているものと思っていた。

俺はあまりのショックにしばし呆然としてたが、その間にも祟り神は、

明らかに由利ちゃんに向かって牙を向き走り出した。


「メー、ガー!」

とっさに祟り神の進路に向かって走り、頭突きをお見舞いする。

カラカラというプラスチックの音がして、画面がバグるが効いている様子はない。

 心の勾玉がないんだったらしかたない、大丈夫だ、神器無しで、決めてやる。

「ハオ、由利ちゃんをお願い」

 いざ、変身!


 神器が戦闘BGMを流す、人通りも多い商店街を何とか避けたいが……するとなぜか祟り神は、ひょこひょこと逃げ出したではないか、当然追うが、追った先は廃ビルだった。

「メー、ガー!」

外階段を登っていた祟り神はそういいながら二階から飛び降りる。

 ……なんかこいつ、わかってるなぁ。

飛び降りた勢いで祟り神が放つキックを避け、逆にハイキックをお見舞いする。

 勢いのある祟り神はよけられないでもがく。

 よしっ、俺はライダーなんだ。

 神器は反応してないけど、俺の心にもライダーがいるんだ……。


 その時、神器が光り『着信』の文字。由利ちゃんからだ、こんな時に?

「はい、今駄目です」

俺はすぐ切ろうとする、

「駄目じゃないよ明緒、ハオだよ!由利ちゃんの携帯借りたの。

あのね、由利ちゃんの胸から光が……」

なんだって?由利ちゃんから心の勾玉が?

「わかったすぐ行く」


 体制を取り直し再び襲い来る祟り神の電源ボタンに思いっきりハイキックを喰らわせ、俺はハオの元へ走る。

 ……ハオじゃなかったんだ。

 ショックだし、なぜかせつない、振られた気分だ。

 しんみりするのもいいけどまずは祟り神を倒そう。

 

 後ろからなぜかまだ動ける祟り神が起こって俺を追いかけてくる。

 由利ちゃんは自分の変化に戸惑いながらも、俺に笑顔でこう言った。

「ねぇ、これって、世界救ったり化け物倒すやつ?」

「あぁ」

それだけ言って、俺はさっさと心の勾玉をもらおうとするが……。

「じゃあ約束して、あの子を壊さないって。

 一緒に遊ぶって、約束したの」

「……」

手を取られ、俺は黙り込む。

「明緒……」

ハオも俺を見つめている。


「約束はできない」

俺ははっきりと断った、男には守らなきゃならないものがある、そうだろう?

「……」

二人は黙り込む。俺は神器にもらった由利ちゃんの心の勾玉をセットする。

「約束はできないけど、努力してみる」

男には守らなきゃいけないものがある、みんなの、女の未来だ。


「メ―、ガ―!」

祟り神は俺に向かってくる、周りの人々はなぜか襲われず、代わりに踊りだす(そんなゲームがあったらしい)

 ズンズン、なぜか世界スターのBGMが流れ踊らされた人々を従えて祟り神は俺を見据える。

 三回目でも怖いものは怖い。……でも。


「祟り神ー!!」

叫んでからしまった、と思った。なんか俺悪いライダーみたい。

 そんなこと考えてる場合じゃない!

叫んで走った勢いで俺は祟り神にローリングソバットを喰らわす。

 効いたか、でもまだまだだ。


 ぶっ倒れた祟り神はがしゃがしゃとあたりにカセットを撒き散らしながら立ち上がる。

「もう、もったいない」

 逃げてろというのに、ゆりちゃんはそのソフトを拾う。

「メガ……」

その様子を見て祟り神が何かを思って一瞬動きが止まる、今だ。


 俺は神器のBGMをファィズの戦闘BGMにする。

 呼吸を整え、そして……神器が光った。

「ゴッド・ブレッシング!!」

 俺の叫び声と共に祟り神は消え去った……。

 こうして最後の祟り神は倒され、世界は平和になったのだった、ありがとう俺。


               ☆


「もう、明緒くん!ちゃんと弁償してよね!」

平和な世界で、思いっきりゲームが出来るとあって由利ちゃんは俺にさっそく俺が壊したメガドライブの代わりを請求してきた。

「わかったわかった、店長、いくら?」

「100円だよ、まいどあり」

まったく100円のゲームにこんなにこだわるとは……。由利ちゃんも子供だなぁ。


「あ、ここにいたんですか先輩」

ゲームショップに二十歳ぐらいの青年が入ってきた。

「もう教授かんかんですよ?はやくプログラム組んで、理論の正確さを学会に

はっきり訴えましょうよ」

教授?ってことは大学生?そんなのどこに……。

「はーい、じゃまたね明緒くん」

呆れた俺をおいて、由利ちゃんは店を出て行った。

「えぇーっつ?」

 俺が驚いたのは言うまでもない。


 

 



 





 

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