第9話 ときめき

 授業中、ハオはふわふわ浮きながらずっと先生の授業を「へぇ」とか「そうなの」とか言いながら聞いていた。


 やっぱり学校に連れてきたのは正解だったな。


「学校って楽しいねぇ」

中庭の人気のない場所で、休み時間、俺とハオはそんなことを話していた。


 うん、いい。

 女の子のいる休み時間、ギャルゲーだ、ギャルゲーだ。


「俺の弁当お袋が作ってくれた、お昼休みになったら一緒に食べよう」

「うん」

お昼ご飯も一緒、専用ビジュアルが欲しいなぁ。


「あのね、ここって女の子いっぱいいるね」

「いるね」

ハオが見ているのは、まだ名前も知らない、どこかのクラスの女子。


「この中で明緒のお嫁さん候補、みつかるかなぁ」

ハオは神様の使いだ、だから俺の願いを叶えようと一生懸命。


「それはわかんないよ、これから探すバイト先や、それこそ大学や、就職先、今はまだピンとこないけど思ってもいないような出会いかたをするのかもしれないし」

俺は笑った、だってハオといるってだけで、俺の願いはほぼ叶ったと一緒だ。


 だってこれがギャルゲーならきっとハオのルートだって……。

「あ、あの娘、可愛い!」

ハオが急に大声を上げた。


 ハオの視線の先にいたのは成績優秀、容姿端麗で知られる桜坂 沙織、俺の幼馴染だ。


 でも現実はギャルゲーと違って、家がお隣同士でもある時期からすっぱりと遊ばなくなってしまい、特に甘酸っぱい思い出もなく一枚絵イベントもなく都合よく彼女の電話番号を知っている男友達もいなく、ただ会ったらあいさつぐらいはするかなぁ、ぐらいの関係だ。


「あの娘、気になる?」

「……うん」

俺は思わず生つばを飲み込んだ。


 沙織といっしょなら、きっともっとときめく高校生活が送れるだろう。


「待ってて、声かけてみる」

「や、ハオ、君の声俺以外には聞こえないみたいだから」

俺は慌ててハオの後を追う。


 その時、俺のポケットに入れていた神器が振動と共に光った。


「な?」

ここぞって時に、ちからを貸してくれる。


 今がその時だと神様が言うのだから、きっとそうなんだろう。


 次の瞬間俺がどんな行動を取ったのかというと。

「沙織、俺、勉強わかんなくってさぁ。ちょっと教えてくれる?」

……今の俺が言ったのか?なんかいつもの俺とたいして変わんない、頼りない感じだけど。一体全体なんの主人公?


「ときめきメモリアルドラマシリーズVol.3~旅立ちの詩~」

まんまだ~!え、何になるかランダムじゃないのかな、神が選ぶって言ってたけど、神も「ここにはこれ」って思ったとか?ずいぶん話せる神様だなぁ。


 なりきりの中でのぼんやりした意識で俺はそう思った。

「え、う~ん、今はちょっと友達と一緒で忙しいんだけど……」


確かに、名前は知らないけど、沙織は友達と一緒だ。


「放課後図書館でなら、いいよ」


俺はなりきりではなく内心から思った。


「やった~!放課後が楽しみだぜ!」


 ガッツポーズの俺を沙織は面食らって、ハオは嬉しそうに笑う。

 一度に二人の女の子を笑わせるなんて、俺ってなんて最高なんだ。

 やっぱ、ギャルゲー的な展開っていいよな。

 

                ☆


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 そんな画面が突然目の前に現れる。

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 ユーザー期待のハオルートも!

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 なんかそんな夢を見て俺は起きた。


 まだ授業中、ふと見ればちゃんとハオが宙にぷかぷか浮いて、神器も机の上にちゃんとある。


「おはよう、昨日は遅かったものね。ほらもうすぐ明緒が指されるかもよ?」

「あ、やべぇ」


大阪先生の国語だから、教科書はっと。おっ、隣のやつが「今ここ」って教えてくれた。


 サンキュー大木、お前やっぱりいいやつだ。


 とにかく俺の主人公的展開は、まだまだこれから始まったばかりだ。

 まだフラグは見えないけど、きっとハオルートもあるだろう。

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