第8話 変身できない?
ってか俺……。
さっきから結構ちゃんとやってるつもりなんだけど……ちょっとも画面が光らない……。
なんだろう、俺子供のころは仮面ライダーになりたかったらしくって、そのころベルトしてなりきりパジャマ着てポーズとってる写真があって、「あの頃は可愛かった」なんておふくろによくいじられるんだけど。
その時みたいに『これでなれる』って信じる気持ちになれない。
これって大人になったからってこと?
「……出来ない、どうしようハオ」
俺は情けない、きっと仮面ライダーにはなれないよなぁ。
「じゃあね、貸して」
ハオは俺から神器を借り、胸の前に抱いた。
「わたしに祈って、五穀豊穣、家内安全、良縁成就……」
「五穀豊穣、家内安全、良縁成就……」
俺は神社に行ってる時みたいな気分になって、懸命にハオに向けて祈った。
ハオの胸の中の神器がピカッ、と光った。
「……成功だよ、今の気持ちを忘れないで」
ハオは無垢な笑顔を俺に向け、触れないというのに俺の手をぎゅっ、と握るまねをした。
あぁ、やっぱりいいなぁ。
「今日のところはこれでOKだよ、神が『ここぞ』って時にきっと力を貸してくれる」
「ありがとう」
触れないのに俺はハオの手を握り返すふりをした、きっと柔らかいんだろうなぁ。
「使いこなすのちょっと時間がかかるかもだけど、それまではわたしがこうやって手伝ってあげる」
俺はハオと一緒に登校した。
ってギャルゲーのテロップではなるんだけど、いやぁね。女の子と登校なんて。
このまま色んな女の子と出会えれば、完全なギャルゲーだな。
俺はそんなことを考えながら鼻の下を伸ばしていた。
☆
特に遅刻もせず、学校の正門に着いた。
「今日は持ち物検査です、協力お願いします」
「げっ、なぎさ会長だ」
なぎさ会長は有名人だ、なんでも十人以上の奴と喧嘩して最後に立っていたとか、力士を投げ飛ばしたとか、そういうヤバい噂にはこときかない。
いつも肩ぐらいの髪をまとめて、眉は太く、手を腰に当てて、制服のズボン。よく見ると結構巨乳とか可愛いとかいう命知らずなやつもときどきいるけど……。
あ、うん、そう、なぎさ会長は女性だ。
「へぇ、あんなしっかりした人ならいい奥さんになれるよ」
ハオは命知らずにもなぎさ会長に近づいていく。
「おい、俺の選ぶ権利。選ぶ権利」
ギャルゲーだと女の生徒会長ってもっとこう『萌え萌え』なのに、いつも男の友達と馬鹿ばっかりやっているなぎさ会長を見るにつけ、「これはねぇや」って俺は思う。
「おはよう、ねぇあなた、長者のお嫁さんになりたくない?」
ハオは会長にとんでもないことを言った。
「な、な?ちょ、おいハオ!」
「何独り言いってんだ?カバン、開けてもらえますか?」
いぶしがるなぎさ会長、ハオの姿が俺以外に見えないみたいに、どうやらハオの声も俺以外に聞こえないみたいだ。だとすると色々気をつけなっきゃ。
「はい」
俺は抵抗なく開けた、だってどうせ見られてやばいものなんか入ってない、神器も、はたから見たら携帯にしか見えないし。
「うん、じゃあ通っていいよ」
なぎさ会長は思った通り、あっさりと神器を携帯と勘違いしたまま俺を通した。こういうとことかみると、なるほどなぎさ会長ルートも『あり』は『あり』なんだろうけど、あいにく俺の頭をフル回転させてもなぎさ会長を攻略する選択肢は見当たらない。
「え~っ、あの人じゃ嫌なの?」
ハオはふくれっ面をしながら俺にふわふわついてくる。
「ちょっと気が強すぎるかなぁ……もうちょっと守ってあげたい系だと、俺の理想通りなんだけど」
なぎさ先輩に聞こえないように俺は言った。
とりあえず色んな女の子に出合って、選ぶのはそれからでいいや。
ギャルゲー気分が抜けないまま、俺はそう思っていた。
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