第3話 主人公補正!!
「でさぁ、君の名前はなんていうの?」
Youtubeをしげしげと眺めるお稲荷様の使いをなんて呼ぶか、これがこれから先けっこう重要な問題だ。
「……え?」
「俺は久保明諸って言うんだ。君の名前は?」
う~んギャルゲー的展開、女の子と一つ部屋で動画サイトなんか見て、なんかしたらどうしよう。……触れないけど。
「名前、ない」
「神様の使いだから?」
俺の推測に女の子は首を縦に振る、そして当たり缶から出てきた携帯電話みたいなデバイスをかざしてこう言った。
「契約したらマスターになれる、これは人間の欲しがる『ケイタイ』とかいうものを模しているけど、実は神器で、作品の主人公になれるの」
神器、神の道具、そんなのが特賞!友達の顔を一瞬思い出したけど、そんなのはやれん。
「今なってる主人公の顔と『作品名』がここに出る」
お稲荷様の使いが操作すると光った携帯の画面に出たのは、明治か大正の昔の、なんか一見ぱっとしない田舎教師。
「お稲荷様の使いだかなんだか知らないがおれに何をさせる気だ、どうせ碌なことにはならないだろう」
俺の話し方もなんか時代がかってきた、画面には「坊ちゃん」って……読んだことねぇよ!
「使い方ちょっと難しいかもだけど」
「できないというか。どれ、神器とやらの使いごこちを試してみようではないか」
ずいぶん無鉄砲な主人公だな、俺とは大違い。『坊ちゃん』とやらになりきった俺はテキトーに携帯の番号を掛ける、
「はい、タイタイ軒です」
どうやらでたらめすぎて普通に地元の中華屋に掛けてしまったようだった、ってことはこれ携帯の電波あるのか
「ほう、たいそう便利なものだな。そこでいちばん旨いのはなんだ」
明治じゃ携帯はないに決まってる、
「ハオ担々麺ね、一丁まいどある」
俺は店主に俺の住所を教えて電話を切った。まもなくすうっと何か「憑き物が落ちた」としか言いようがない状態が俺を襲い、
「……え?ハオ担々麺ってあそこじゃ一番辛くなかった?」
情けない俺の声が響いたから、もとに戻ったんだろう。
お稲荷様の使いは俺に、いくつかこの「神器」について説明を始めた。
まず、主人公になりきれる時間は決まってる、いいとこ三分。
次に、なんの主人公になれるのかは「神のみぞ知る」で自分では選べない。
それから、なれる主人公、これがけっこう大事だが
「この神器にはキロクバイタイというのがあるみたいで、結構ヨウリョウというのがあるらしい。だからね、この神器に学ばせたものの主人公にしかなれないよ」
そういってお稲荷様の使いは神器のメニューを出し、そこから「マイストーリー」というフォルダを見せる。
「走れメロス、源氏物語、金閣寺、奥の細道……」
俺はゲームの主人公を夢見ていたのに、出てくるのは「教科書で習ったかなぁ?」的なコテンブンガクばっかり、当然、読んだことなんかない。
「ちなみにどうやって学ばせるの?」
俺はなんとなく神器の携帯でいう「インターネット」のアイコンを触った。つうか俺の旧型と違ってボタンじゃない、画面タッチのみ、まじ格好いい、これに機種変しよ。
Googleの検索窓が現れた。
「わたしはわかんないんだけど、『物語』を見せるといいらしい、さっきの動く紙芝居」
さすがお稲荷様の使いは例えが古い、Youtubeのことか。
「それを見せればいいんじゃないかな、あ、これで小説や漫画読むんでもいいらしいよ」
らしいとかというのとか、なんか頼りない言葉ばっか、なんとなく不安。
「そう、不安なの。でも神様のすることを全部は理解できないと考えたほうがいいみたいだよ」
考えを読まれた!俺はただそう思った
「わたしがお稲荷様の使いだっていったでしょ?人間の望みがわかんないとつとまんない」
と、いうことは、俺がこの娘に会ってまず考えた「あんなこと」や「こんなこと」も読まれたわけで……
「……ごめん、俺のこと嫌いになった?」
俺はこんな情けないことしか言えない。
「別に、この姿を見て、『嫁に来ないか』と言った長者もいたしね」
あっけらかんと笑う、見た目は天然系美少女でも、中身は日本昔ばなしなんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます