第2話 カクテルソフト

「わたしは昔ここにあった、お稲荷さんのお使い」


 ほらやっぱり~!普通なら驚くところだけど二流ギャルゲーを愛してやまない俺はこんなことでは驚かないのだった、俺の妄想なめんな。


「で、君がマスター?」

「マスター?」


女の子はゲームを愛する俺なら聞きなれないというわけではない用語で俺に切り出し、かがんで自分が入ってた缶を拾った、俺つんのめって落としたんだな。


「特賞はねぇ、『どんなものの主人公にもなれるデバイス!』」


女の子がそこから出したのは次世代最新の携帯によく似たデバイス。

満面の笑顔の女の子を見て心でガッツポーズをする。

 この時俺は、それがどんなことかよく考えてなかったのだった。


               ☆


 家に帰ったが、おふくろが俺を不審に思うことはなかった。


「わたしはねぇ、基本『出した』人にしか見えないよ」


 ふわふわと、宙を浮きながらお稲荷様の使いは言う。ふと、アホ毛が気になって気になって、どうしてもひっぱりたくなる衝動を抑えられずつい手が伸びたが


「ごめん、触れないんだ」

俺の手は空を舞った。


「いらねぇ設定!あ、でも条件クリアしたらなんとかなるんだろ?」

俺は自室の扉を開ける。


 自室の壁には本棚、そこにずらりと並ぶは、一本いくらとかじゃなくもはや十本いくらで売られているプレステ二流ゲームたち、本当は名作とか言われてるシリーズものもあるんだろうけど、古くてあんまよくわかんねぇや。


 あ、ちょっとだけ漫画もあるぞ、って言ってもガキの頃読んだカードゲームものから根性スポ魂ものまであんま一貫性ないセレクトだけど、ちなみに字ばっかの本は「女の教える気持ちいい○○」というありがたい本がカバーにかかってる以外、ない。


「設定?条件?」

お稲荷様の使いは耳をぴくぴくさせながら首をかしげる、あざとかわいい、こうなんか、その「こんな感じかな?」といった風なぎこちなさは、きっと美少女御用達な有名声優が当ててるんだろう甘い声によってさらに可愛さがUPする、はっきり言おう、アリかナシかで言えば、俺はアリだ。

 

 これで変な口癖があったりしたらさらによさがある。


 こんな展開でもなければ俺にギャルゲーに出てきそうな女の子との出会いなんてそうそうないわけで、俺ってたぶんこのまま、とりあえず大学行って、彼女とか作って。とりあえず4年間過ごして。とりあえず就職して。とりあえずオトナになるのかもーって、気づいちゃったけど。家帰って、とりあえずグランディア。


 微妙になんか違う気がしたんだけど、俺スマホゲームの大作よりはさっき言った「グランディア」みたいな「もとは期待の大作だったはずなんだけど、移植して、今では1000円以下の下手したらジュースより安い値段で売られてる中古ゲーム」のほうが好きだ。


 って言っても俺のゲームの知識なんかネットで色々書いてるすげぇ人に比べればひよっこだから、別にただそういうのは見て「すげぇなぁ」って感心して終わり。


「設定っていうのは……まぁなんだ、ドラえもんがネズミ苦手とか、アンパンマンが顔を食われて力が出ないとか、そういうやつ」


「ドラえもん?アンパンマン?」


 お稲荷様の使いはキョトンとしてる、もしかしたらこういう人間の世界のことちょっとうといのかな、流石にドラえもんやアンパンマンをいちいち説明すんのもあれなので


「その辺のことは、これを見ればわかる」

と言って、同じく安値PCゲーム専用機(いや、イースとか日本ファルコム系だぞ?)と化した自室PCの電源をつける。Youtubeの画面だ。


「……これがアンパンマン、これがドラえもん」

耳慣れた音楽が流れる。


「……そっか、いつだったかの子供はわたしに『これ』が欲しいと言っていたのね」

お稲荷様の使いにアンパンマンやドラえもんを頼むって、なんか子供らしいよな。


「ワクセイジャーも?」

俺はYoutubeの検索窓に「ワクセイジャー」と入れる。


 惑星にちなんだエレメンツ(火とかの属性)の力で戦うワクセイジャーはちょっと前のヒーローだけど、そこそこ……爆発的ではないけどマニアックな人気があったから、二級・B級好きな俺としてはちょっと見てたりした。


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