第10夜 小道を廻る

 夢をみた。


 森の中の細い小道を歩いていた、小道は大きなテーマパークの、外周の塀沿いをぐるりと一周しているようだった。樹が鬱蒼と生えていて、薄暗い。

 ときどき、パーク内に入るつもりなのであろう、パンフレットやチケットを手にした子供たちとすれ違う。私はチケットを持っていないから、うらやましいな、と思いながら、ずっと外周沿いを歩き続ける。

 テーマパークの周りには、木彫りの動物の人形がたくさん飾ってあって、それほどさみしくはない。けれど人形はどれも黒く塗ってあるのは、きっとパークの中の方が明るくてにぎやかに感じるように、差をつけているのだろうなと思った。


 私のそばに、不意に誰か背の高いひとの気配がある。振り向くとそこにいたのは、二本足で立った、黒豹だった。私のことなど気に掛けぬように、凛として立っている。

 おそらく何かの気まぐれで、この塀を軽々と飛び越えてきたのだろう。かれはほんとうは、テーマパークの住人なのだ。私はそう思い、眩しい気持ちでかれを見る。うつくしい毛皮とひきしまった脚は美しく、私は自分が彼の恋人であったらよかったのに、という気持ちになる。


 さらに道を行くと、ひとりの女が倒れていた。

 話をきくと、死のうと思って死んだふりをしている、ということだ。

 テーマパークに入れないことを悔やんで、死を選ぶものも少なくないのだ。私は彼女を助け起こすと、そんなんじゃあ駄目、死ぬなら、水に入りなさい、と言った。

 パークの周囲は、広くて深い、青い湖に囲まれているのだ。

 水だと浮かんでしまうんじゃないかしら。

 女が言うので、それなら身体に錘をつけて飛び込むといいよ、と答える。布の中に塩を詰め込んで、身体にたっぷり巻き付けるの。重くなるでしょう? それで、飛び込みなさい。

 (そうすれば何度飛び込んでも、塩が溶けて浮かんでしまうでしょう。何度も助かって、助かるうちに死ぬことをあきらめてくれればいいのだけれど)

 女は私に礼を言って歩き去った。

 だいぶ身体がまるまって、四つ足に近くなっている。あのままだと、豚になるのだなと想像して、だから死にたくなったのかもしれないな、と思うと、彼女がすこし哀れにも思う。

 私はまた、細い道を歩き始めた。


(おしまい)

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