第7夜 教師と竜巻
夢をみた。
私は木でできた大きな建物に教師として赴任した。
そこは清潔で広い教室だった。ロビーのような場所では、校長のような教頭のような中年の男が、愛想笑いを振りまいて私にぺこぺこ頭を下げた。
生徒は低学年のこどもたちで、一心不乱に問題集を解いていたから、私の仕事はあまり多くなさそうな感じだった。
おおきな教室を一周回ると、部屋の端に、男の教師がもうひとりいた。
私が、よろしくお願いします、とあたまを下げると、いきなりその頭を掴まれた。そのまま歩き出し、建物の屋上に連れていかれる。
屋上には大きな竜巻のような雲が荒れ狂っていた。
男の教師は私の頭を掴んだまま、まるで恋人であるかのように私に寄り添って、竜巻の前に歩み寄った。にこにこと笑っていたが、内心何を思っているのか、まったくわからない。
「これはどういうことなのですか」と、私は訊ねた。
「きみは考えなくていいんだよ。こうしておいで」と、彼は答え、より一層私をつよく抱きしめた。
竜巻は勢いを増し、そこらへんのいろんなものをぐるぐると吹き上げて飛ばしていた。その中にひとつ、小さなテレビがあるのが見えた。テレビの電源は入っていて、そこには、私そっくりの顔写真が、何かのニュースで取り上げられているようだった。
私はにわかに不安になり、ほかに頼るものもないから、彼の顔を見上げようとした。けれど、彼は大きな竜巻の方ばかりをうっとりと眺め、私など手提げかばんか何かのようにしか感じていないように見えた。
もしかして私は、教師として選ばれたのではなかったのかも知れない、と気づいた。
(おしまい)
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