第6夜 おまつりの国
夢をみた。
ずっと祭りが続いている街のようだった。薄闇の表通りにはたくさんの提灯が飾られ、どこかから御囃子の音が聞こえ続けている。私はずいぶん長いこと迷っているようだったけれど、迷子になる前の本当の記憶を、ほとんど忘れかけていた。
学校に迷い込むと、そこだけ不意に青空だった。学校の祭りは文化祭だから、昼なのだ。みんな楽しそうに楽器を演奏したり屋台でお菓子を売ったりしていたけれど、ここは私のいるべき場所じゃないから、私はそっと校庭を出た。自転車に乗って速度を出すと、みるみる昼から宵闇の空に変わる。何か忘れ物をしているような、テストの時間に遅刻するような感覚に胸を締め付けられて、私は少し泣きそうだった。
また薄闇の祭りの中に戻ってきたら、歳をとった落語家に出会った。
「気が付いたらこの世界にいてねえ」
落語家は楽しそうにしゃべった。この人は、ここに来る前を覚えているのだ。
「どうも変だなあ、と思ったら、何もかもちょっとずつ大きいんですよ。知らない人の家に招かれて、食卓につこうとしたら、椅子も机も何もかも、巨人が座るのかってえくらい、大きくてねえ」
そのうち私と落語家は、知らない老夫婦に声を掛けられて招かれた。
そこの家の中の調度品は、確かに少しばかり大きくて、私たちはなんだか、幼児になってしまったような錯覚に陥った。その老夫婦も、まるで私たちを、久しぶりに遊びに来た孫であるかのように扱うのだ。
机の上には、パンだけがたくさん置いてあった。
(やはり不完全だから、ひとつのものしか作れないのだな)
と、私は冷静に考えた。
それでもあまりに老夫婦が優しく微笑むから、私も落語家も何だかほだされて、つい、その家の椅子に座ってしまう。座ったらもう、戻れないだろうと予感はしていたけれど、それでも、もういいかな、混じっちゃっていいかな、なんて、お祭りの音と熱気に酔った頭のすみで、かすかに思った。
(おしまい)
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