第3夜 プリズムの少女

 夢をみた。


 そこは学校の会議室みたいな部屋で、私をはじめとして誰もがとらわれてきた子供たちだった。そこを出れば死んでしまうというのはなぜか確信していたので、脱走を企てるものは誰もいない。窓の外は灰色の大気が満ちていてとても静かだった。窓を開けたら毒にやられて死ぬとわかっていた。


 換気扇がかすかに音を立てる中で、私たちはそれぞれの仕事をこなしていた。

 部屋の中をきのこに似た小さな生物が徘徊している。それは監視者で、私たちが迂闊な行動をすればすぐに殺されることを誰もがうすうす理解していた。


 私は描きかけの「プリズムの少女」という作品のことが気になっていた。私の指先からは薄い膜のような絵がこぼれおちるので、それをふわりと紙に乗せれば綺麗な作品になる。指先から絵があふれるのを止めることはできないけれど、勝手に絵を描くと折檻されるか、悪ければ始末されてしまうだろう。私は手元にある作業用の糊のびんにふわりふわりと絵を落とした。その上に別なびんから糊を足して、隠してしまう。


 誰も知らないけれど、このびんの中には私の「プリズムの少女」が入っている。

 それだけで少し満足できた。


 監視者に気づかれるのも嫌だったけれど、ほかの子供たちにも気づかれたくなかった。糊を使われて、指を差し込まれたら「プリズムの少女」はぐちゃぐちゃに混じり合ってしまうだろう。それは、いやだな。


 私は糊の瓶をちらちらと気にしながら、自分の仕事を続ける振りをしている。

 

(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る