最終章 ⑬『戦場の跡にて』
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若君はあたしを抱いて再び歩きだした。
吸血鬼になっていた人たちは、全員が藤原君と同じように目覚めていた。大半の人は、今回の戦闘で負った傷に苦しそうに耐えていた。うめき声を上げる人、呆然と地面を見つめている人、また気絶している人。まさにここは戦場の跡だった。
驚いたのは病院にいた人たちも、ほとんど回復していたことだった。車いすに乗っていた人は立ち上がり、よぼよぼのおじいさんやおばあさんも、自分の足で立っていた。吸血鬼になったときの回復力というのは、本当にすごいものらしい。もっともみんな新しい傷でかなりつらそうだったけど。
それでもみんなが生きていた。
それだけが本当にうれしいことだった。
「よもや、このようなやり方があったとはな……」
若君もこの光景に驚いているようだった。だがその言い方は逆に少し寂しそうでもあった。憂いている?っていうのかな。
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「あの……若君?」
あたしが呼びかけると、若君の顔からその憂いの表情がすっと消えた。かわりに晴れ晴れとした笑顔が浮かんだ。
「ワシのしてきたことは間違いばかりだったようじゃ。それをおまえのような子供に教えられるとはな」
「はぁ……あの……すみません」
「そうではない。まったくおまえは大したやつじゃ」
あたしの胸に暖かい感情があふれてきて、幸せすぎて吐きそうになってしまう。なんか変なんだけど。
だけどそんな気持ちはすぐにしぼんでしまう。この場にはあたしの家族がいないから。あたしの家族だけがいないから。
「お、マーちゃん殿も無事だったようじゃ」
若君はあたしの気持ちを察したのか、急に明るい口調でそう言った。
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「さっちゃん、大丈夫?」
マーちゃんもまた神父さんの胸に抱かれていた。
「うん。体中痛いけど、へーき」
二人して抱っこされて子供みたいだけど、お互い気にしてられない。とにかくもうへとへとだったから。
「とうとうやったね!」
とマーちゃん。二人して、えへへと笑う。
「本当にありがとう。これもマーちゃんのおかげだよ」
「そんなことないよ。さっちゃんが頑張ったからだよ。そうですよね、若君さん?」
「そうじゃな。だがそちたちもよくがんばってくれた。礼を言うぞ」
「ありがたきお言葉です。もったいのうごさりまする」
マーちゃんも時代劇風にそう言って、フフフと可愛らしく笑った。
「若君さんワタシからもお礼を言わせてくだサイ。ワタシも改めて神に仕えようと思っていマス。若君、すべてあなたのおかげデスよ」
「そうするがよい。だがな、神よりもまず、領民のことを考えてやってくれ」
「もちろんデス。あなたとともに、この土地を、民を、導いてゆきまショウ」
あたしたちの頭上では男同士の友情が芽生えていた。それを聞きながら、あたしはまたマーちゃんとほほえみあった。
でも心はまた家族のことを思い出す。お父さん、お母さん、新兵衛、おじいちゃんにおばあちゃんたち。みんなどうなっちゃったんだろ?本当に死んじゃったのかな?
と、そのときだった。
女の子の悲鳴が上がった。
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