最終章 ⑫『大団円』

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ドオォォォォン!


 銃声が夜空に響いた。


 とたんにしじまの時がザッと流れ落ちた。


 吉永さんの手がパッとはじかれた。

 その手の真ん中に大きな赤い穴があき、血の花びらが広がった。


「キャアアア!」

 それは吉永さんの悲鳴。彼女は反射的に手を胸元に引き寄せ、そのままザッと地面に倒れた。


「静香ぁっ!」

 藤原君はその瞬間、若君に背を向けたまま、彼女に走り出そうとしていた。その首に若君の降りおろした剣がピタリとふれていた。


「間におうたか……」

 若君は刀を振りおろした姿勢でピタリと止まっていた。


「ど、どいて!」

 そしてあたしは勢いが止まらず、かといって体にはもう全く力が入らず、若君と藤原君のところに頭から飛び込んでいった。


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 なんか、かっこわるい終わり方なのが残念だけど、それも仕方なかった。これがあたしの限界だったから。


 と、体が倒れ込む前にふたたび体がふわりと宙に浮いた。


「……さつき……」

 目の前に若君の顔があった。若君はほほえんでいるように見えた。あたしはその顔にまた見とれてしまう。整った鼻梁も、すっきりとした目も、夜風に揺れる長い髪も、なにもかも完璧だ。


「……まったく、おまえというやつは……」

 若君はあたしの体をらくらくと抱きかかえてくれた。すごく安心する。なんか守られてるって感じがする。これはひょっとして……人生初のお姫様抱っこ、かな?


「なんじゃ、妙な顔をして」

 若君があたしの顔をのぞき込んでくる。あたしは急に恥ずかしくなって若君の胸に顔を埋める。なんか小さな女の子に戻ったような気分だった。


「あの、終わったんですか?」

「ああ。すべて終わった」


 若君からその言葉を聞いてあたしは心底ほっとする。そのまま眠ってしまいたかったけど、まだ見届けなくちゃならないことがあった。


「よく頑張ったな、さつき」

「えへへ。初めて誉められましたね」

「それだけの事をしたからな」


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「おまえもよく見るがよい」

 若君はあたしを抱っこしたまま、藤原君の方を向いた。


 藤原君は地面にうずくまり、身をよじりながら、苦しそうな悲鳴を上げていた。

「がああぁぁぁ!ぐがあぁぁ!」

 何かを振り払うようにゆさゆさと激しく体を震わせている。と、その全身から、のようなものが立ちのぼり始めた。それはだんだんと濃い血の赤になり、何か生き物のように藤原君の体にとりついている。



 藤原君ばかりではなかった。吉永さんの体からも、四天王のみんなからも、そしてこの場に集まっていたみんなの体からも、同じように赤い蒸気が立ちのぼっていた。そのみんなが藤原君と同じように、悲鳴を上げ、苦痛にのたうちまわっていた。


「がああっっ!」

 藤原君がさらに悲鳴を上げ、その体からさらに赤い蒸気がブワッと立ち上った。どうも藤原君のは特別らしく、色も濃いし固まりも大きい。それは藤原君を包むようにしばらく全身を覆って渦巻いたが、やがてその霧がスッと蒸発していった。


 みんなから立ちのぼっていた赤い霧も体から離れ、夜空にのぼっていき、満月に吸い込まれるようにして消えていった。


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 それから藤原君はゆっくりと立ち上がった。が、とたんに「痛てて」とわき腹を押さえた。若君の居合い斬りで折られたところだ。最後の傷は回復しきれなかったのだろう。


「痛ってぇなぁぁ」


 一つ大きく息を吐き、意を決したように背筋を伸ばした。それからよろめく足取りで、一歩ずつ、足を引きずるようにして吉永さんの元へと歩いていった。


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 吉永さんもまた長い悲鳴を上げたあと、呆然と地面にしゃがんでいた。長い髪を前に垂らし、血まみれになってしまった左手を呆然と見つめていた。


「静香……」

 藤原君は彼女の元につくと、そう呼びかけた。吉永さんはフッと藤原君を見上げた。その目には光が戻っていた。


「藤原君……」

 吉永さんが小さな声で呼びかけた。

「おまえ、言葉が……」

 吉永さんは小さくうなずいた。

「俺が分かるんだよな?」

 吉永さんはもう一度小さくうなずいた。

「おまえ……」

 藤原君はそう呼びかけただけでもう言葉にならなかった。


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「藤原君……あたし、手が……藤原君も……」

 それから藤原君は自分のなくなった右手を見つめた。それからすぐにその手をおろし、代わりに残った左手を彼女に差し出した。


「気にすることないさ。

 吉永さんは不思議そうに藤原君を見つめ、すぐににっこりと笑った。そして自分の右手を藤原君に伸ばした。


 二人はがっちりと手を取り合った。藤原君は吉永さんを立ち上がらせると、そのまま彼女を抱きしめた。


「子供には、ここまでじゃな」

 若君がくるりと振り返ってしまった。

「あたしと同い年ですよ」

「だがまだまだ子供じゃ。ハッハッハッ」

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