十二章 ⑨『ヤカタの出現……?』

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 あたしたちは校舎を出ると、体育館の裏手にある芝生でオニギリを食べた。二人で三つずつ分けたけどまだだいぶ残った。


「先生、ずいぶんため込んでたんだね」

 ようやくマーちゃんの言葉が聞こえるようになってきた。


「たぶんこうなることが分かってたんだよ。ほんと、とんでもない先生だよね」

「ねぇ。ありえないよねこんな時に」


 二人で笑った。

 その時だった……


 突然、


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 ヤカタは少しフラフラした足取りで、体育館の影から出現した。そしてフラフラとあたしたちに向かって近づいてきた。たぶん太陽の下だからだろう。それに夜見たときと違ってずいぶんと小さく見えた。これも太陽の下だからに違いない。


 ヤカタはあの時と全く同じ格好だった。頭からつま先までを真っ白い布ですっぽりと覆っている。


「ヤカタ……!」

 マーちゃんが素早く銃を構えた。

「なんでここに……」

 あたしもすばやく立ち上がったが、それだけだった。構えられるものはコブシだけだった。それが役に立つとは思えないけど。


 ヤカタはなおもフラフラと近づいてくる。体を左右に振るようにして、今にも倒れそうになりながらも一歩一歩近づいてくる。


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「近づかないで!」

 とマーちゃん。銃口をぴたりとヤカタに向けた。ヤカタはビクリと背中をふるわせて足を止めた。


「……ハラ……ヘッタ……」

 ぞっとするような声が、白い布の下から聞こえてきた。彼らが口にするものはただ一つ、生きた人間の血液だけだ。


「あ、あなたに飲ませるものなんてないわ!」

 あたしはかなりびびっていたが、強気に答えた。今がチャンスな気がする。弱っている今なら、ヤカタを気絶させて、教会に運んで、若君に引き渡せばいい。でも弱っているフリをしているだけだとしたら……


「……オニギリ……」

 ヤカタはぞっとするような声で告げた。


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 オニギリ?はっ!だますつもりだ。だって吸血鬼は人の血以外は口にしないはずだから。若君もそうだったし。


「あたしたち、だまされないわよ」

 マーちゃんも気づいている。そう言って脅すように一歩踏みだした。ヤカタは驚いたのか、ペタリと地面に座り込んだ。


「ひでェな……ネェチャン」

 女性に向かってネェチャンなんて呼び方をするなんて、ロクな人間ではない。やっぱり藤原君のお父さんなの?

「あなたになんて呼ばれる覚えはないわ」

 あたしなりの精一杯。するとヤカタはさらに情けない声を出した。


「……そんな言い方ないだろ?……ねぇちゃんは、ねぇちゃんじゃん」

 ヤカタはそういうと頭に巻き付けた布をぐるぐるとはぎ取った。ずいぶん絡まっていたから、ちょっと時間がかかった。

 そして全ての布をとったとき、その布の下から見覚えのある顔が…というよりも、その中身はだった。


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「なんであんたこんなとこにいんのよ?」

 紛らわしいヤツめ……さらわれたのかと思ったけど、やっぱり体育館にいたのだ。

「ひでえなぁ、俺やっと逃げてきたんだぜ。菜々子の奴に呼び出されていったら、いきなり袋かぶせられて誘拐されてさ」


「え?ほんとにさらわれてたの?」

「なんだよ、俺を探しに来たんじゃなかったの?」

「まぁそれもあったけど」

「ひっでぇなぁ、ついでみたいにさぁー」


 こんなバカ話がなんだかとても楽しく感じてしまう。でもほんと、新兵衛が無事でよかった。


「それより新兵衛ちゃん、どこから逃げてきたの?犯人は見たの?」

「もちろん見たよ。それよりさ、さっきオニギリ食べてなかった?俺さ、昨日からなんにも食べてないんだ。ちゃんと話すから、先にオニギリ食べさしてくんない?」


 あたしたちは新兵衛にオニギリとお茶を渡した。新兵衛は勝手にあたしたちの間に座ると、オニギリの包装をはがし、むしゃむしゃと無言で飲み込んでいった。


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