十二章 ④『内羽家の異変』
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翌朝、あたしはすっかり眠りこけていた。気づいたときには十時半。今日だけはゆっくり寝てる場合じゃなかったのに……
しかし相棒のマーちゃんもまた、見事に熟睡していた。しかもかなりの寝相の悪さ、枕は崩れ、タオルケットは足下でぐちゃぐちゃ、片足はあたしに乗ってるし。
「んー?もー、朝?」
マーちゃんは寝ぼけたまま、しばらくあたしをボーっと眺めていた。
「あれ……さっちゃん……どして?……ああっ!」
それからいきなり目覚めた。目覚めてベッドサイドの目覚まし時計をつかんだ。
「ああっ!もうこんな時間!十時半だって!」
「へーきへーき。あたしたち相当疲れてたんだよ。それにさぁ、行くところも決まってるから大丈夫だよ」
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「そーだよねぇ……えへへ」
とはいえ、それから二人で大慌てで着替えた。あたしもマーちゃんもスエットスーツに着替える。ここんとこ、あたしずっとマーちゃんの服を借りてばかりだ。
「朝はさ、コンビニでなんか買おうよ」と、マーちゃん。
「うん。そうしよう」
とりあえず財布と携帯を持って、さっさと出発することにする。マーちゃんはさらに学校指定のスポーツバックを肩からさげた。
「一応、用心のためにね」
「あの拳銃も入ってるの?」
「内緒だけどね。でも、弾はあと三発しかないの。予備の弾がどこかわかんなくて」
「ま、使わないことを祈ろう」
「そうだね。誰も傷つけたくないもんね」
マーちゃんがそう言ってくれたのが、とてもうれしかった。
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教会を出て山をくだり、いつもの農道にでる。いつもの通学路なんだけど、今日は少し感じが違う。いつも人通りは少ないんだけど、今日は輪をかけて無人という感じがする。吹く風もなんだか生暖かくて不気味だ。なんだか心臓がドキドキする。
やがていつもの分岐点にさしかかる。右へ進めば学校、左へ進めばあたしの家だ。
「あのさ、少し家によってもいいかな?」
とあたし。急に家の事が心配になってきた。昨日は自分の周りのことで頭がいっぱいで、家族のことまで気が回らなかったのだ。でも昨日の夜は吸血鬼たちが水無月町のあちこちを襲っていたという話だ、あたしの家だって襲われたかもしれない。
「もちろん!心配だもんね」
マーちゃんもそう言ってくれたので、とにかく自分の家に歩き出す。テクテクと早歩きで歩いてゆくと、やがて家が見えてくる。見たところ異常はなさそうだけど……
「きっと大丈夫だよ」とマーちゃん。
「そうだよね」
あたしは勝手口の扉を開け、家の中に入っていった。
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「ただいまー」
玄関の扉を開けながら中に声をかける。
――シーン――
返事はない。それに誰も出てこない。
「ただいまぁ」
もう一声かけながら、靴を脱ぎ、居間の方へと板張りの廊下を歩く。ギシッギシッと不気味な音が響く。マーちゃんは後ろにぴったりとくっついてきている。
「やっぱり……襲われたのかな?」
とマーちゃん。そっとビニールバックのジッパーを開けようとするのをあわてて止める。マーちゃんの気持ちは分かるけど、さすがに家族に銃を向けるのはちょっと……
「……大丈夫だよ……たぶん」
居間の扉の前に着く。開けるのが少し怖い。大丈夫だとは思うけど、もしかしてみんながすでに吸血鬼になっていたら……いきなり襲いかかってきたらどうしよう?
「さっちゃん……」
マーちゃんが心配そうにあたしを呼ぶ。
「うん……開けるよ」
あたしはゴクリと心配を飲み込み、ドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと開く。
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そこにみんながいた。
大きなテーブルを囲んで、ただ静かに座っていた。
母さんとボタンばあちゃん、それに父さんまでいる。いつもなら病院に出勤している時間なのに……
あたしが入っても、誰も口をきかない。
というか口元が見えない。
三人が三人とも白いマスクをしていた。
まるで口元を隠すように……
まさか……
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ボタンばあちゃんがジロリという感じであたしを見た。着物を着ているのに、首元だけはタオルで覆って隠していた。
父さんもどんよりとした目であたしを見上げている。父さんの首もワイシャツに隠れて全く見えなかった。
母さんの様子も変だった。少しトロンとした目であたしを見上げている。そしてやはり首元を隠していた。夏も近いというのに黒いハイネックのセーターを着て。
遅かった……みんな吸血鬼に襲われてしまったのだ……
みんな……みんなが……
そういえば、新兵衛の姿だけがなかった。
みんながいると思っていたけど、新兵衛だけはいなかった。ということは、新兵衛だけは逃げ出したのかもしれない……
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