十二章 ③『犯人は……!』
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なるほどなぁ…でも誰なんだろ?
あたしはチャーリーブラウンを手に取る。ヤカタ。今イチ思いつかない。吸血鬼が実在することを知ってて、家に若君がいることを知ってて、吸血鬼になる方法まで知っている人。しかもその人はこの町のみんなに深い恨みを抱いてる。
「ねぇ、マーちゃんにはヤカタが誰だかもう分かったの?」
「まさか。でもね、だいぶ絞られてきたとは思うよ。たとえばさっちゃんの親戚の人なんかはどう?パソコンができるお爺さんとか、叔父さんとかは?」
「親戚ねぇ……たしかにいっぱいいるんだけど、みんな顔は分かるし、こっちの方にはあんまり来ないんだよね。来たときは、まず家に寄ってくしね」
「うーん……違うのかな?内部事情に詳しい人じゃなきゃ、吸血鬼になろうなんて計画立てないと思うんだけどなぁ」
「詳しい人ねぇ……たしかにそうだよね……」
ん?
「どうしたの?」
むむ?
「なんか思い出した?」
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あたしは珍しく深く考えていた。いろんな情報を頭の中に並べて、その情報をチェックしていった。
内部事情か。はっきり言って、家族でもそんなに詳しい人はいなかった。若君に血を飲ませるという使命は守ってきたけど、吸血鬼になろうなんてことは考えもしなかったはずだ。なにしろ若君をあがめ、たてまつってきた人たちだから。
あたしは考えながらぶつぶつとつぶやく。
「若君のことを詳しく知る人で……」
「若君が長く生きてるのを知ってて……」
「伝説を真実だと思うような人……」
「あーっ!それっ!」
マーちゃんがいきなり叫んだ。
同時にあたしにもピンときた。
まるでパズルがカチッとはまったように、モヤモヤがきれいに吹き飛んだ。
答えはこれしかない!
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「「小早川先生だ!」」
二人で同時に同じ名を呼んだ。
そうだ。条件に当てはまる人は小早川先生しかいない。この地方の歴史にやたらと詳しい。それもずいぶんマニアックに調べてた。それはあの日の授業で証明済みだ。
「若君の名前も知ってたしね」
とあたし。考えれば考えるほどそうだ。
「そういえば、このところずっとマスクをつけてたよね」
「きっと牙を隠してたんだよ」
「うんうん。それにさ、学校のみんなが真っ先に吸血鬼に変わったのも、犯人が小早川先生だったからだよ。それで説明がつく」
マーちゃんはあごに指先をあてて、何度もうなずいた。
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「そうだよ。そうだよね。それにさ、インフルエンザの話を持ち出しのも、元はといえば先生じゃなかった?」
「うんうん。そうだった。あ!でも……」
マーちゃんのテンションが急に下がった。
「なに?」
「昼間に出歩いてるよ?授業もやってたし」
「そういえば……そうだね。あの若君だって昼間に出歩いただけで倒れてたしね」
そうだった。あたしのテンションもしぼむ。
「小早川先生の体力じゃ外にも出れないよねぇ。まぁ、でも今はさ、紫外線よけのクリームとかもあるし、そういうの使ったのかもよ?」
と、マーちゃん。
「うーん、それもありえるかもね」
「きっとそうだよ。それか自分で何かの薬を作ったんだよ。昼間も動けるような」
マーちゃんは小早川先生犯人説でぴたりと固まったようだった。あたしはなんとなくしっくりこない感じがしたけれど、少なくとも小早川先生が無関係ではないことは確信していた。
なんとなくだけど。
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とにかくあたしたちは一つの結論に達した。小早川先生がヤカタ本人かどうかはわからないけど、今回の件に関わってるのは確かだろう。それがわかっただけでも大きな前進だった。
「とにかく明日は小早川先生のところにいってみよう」
あたしはチャーリーブラウンをつかみあげてそう言った。
「そうだね。そうと決まれば、とりあえず今日はもう寝ようか?」
「そうだね。吸血鬼相手に、夜できることはないしね」
「勝負は明日。絶対ヤカタを探しだそうね」
マーちゃんはパフッと枕を膨らませていくつかを並べた。外国の人がよくやっている、枕をものすごい積み重ねてるやつだ。
それからマーちゃんはスヌーピーのぬいぐるみを元に戻した。スヌーピーとウッドストックとチャーリーブラウン。ルーシーの人形だけが使われてなかったが、彼女も再びみんなと一緒に並んだ。
そこが少し気になる。なんか忘れ物をしている気分。小さな違和感。
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「さっちゃん。今日は一緒に寝よーね」
とマーちゃん。パフッと枕に寄りかかる。
「うん。おやすみ、マーちゃん」
あたしもマーちゃんの隣にパフッとねそべり、タオルケットを二人で分けた。
「明日、がんばろうね」とマーちゃん。
「うん。よろしくね、マーちゃん」
「じゃ、電気消すね」
電気が消えると、月の光が部屋の中に静かにしみこんできた……横たわると、疲労が一気に落ちてくるようだった。じわじわと首が痛みだした。
そういえば……しじまの時を動くと、死ぬかもしれないって言ってたな。
これくらいですんでラッキーだったのかな……
思考も途中にあたしは眠りに落ちた。
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